初日 最新 目次 MAIL HOME


活字中毒R。
じっぽ
MAIL
HOME

My追加

2008年05月30日(金)
あるカメラコレクターが、「探し求めた1本のストラップを入手した方法」

『老化で遊ぼう』(東海林さだお、赤瀬川原平著・新潮文庫)より。

(「第4話・コレクターになりたい」の一部です。赤瀬川さんがカメラを集めているという話から)

【東海林さだお:最初はあれも欲しい、これも欲しいだけど、ある程度増えたときに別の情熱になってくるんじゃないですか。

赤瀬川原平:そう、そのうち、増やしたいというより、そろえたいとなってくるの。

東海林:そろえたいって?

赤瀬川:たとえばライカは最初にM3を出して、後からM2とか1、それkらM4、M5を出したんです。M1はファインダーを省いて、ただシャッター押すだけのあまり用のないものなの。でも、ライカを買いはじめると、Mの1には違いないんで、意味もないのに集める人もいるんですよ。

東海林:この系統だからって。

赤瀬川:全部そろってないと落ち着かない。

東海林:面白いな。

赤瀬川:たとえばナントカ文学全集四十巻のうち、二十九巻目だけないと、すごく気になるでしょう?

東海林:僕は気にならない。

赤瀬川:いや、文学はともかく、欠けるのは気になるという、そういう人たちの気持ちはわかる。

東海林:集めるエネルギーはすごいよね。

赤瀬川:うん。戦前にできたシステムカメラで、コダックエクストラというのがあってね。アクセサリー類がトランクびっしりになるくらい多いんです。あるカメラコレクターが1個1個買い集めていったけど、ストラップ、肩紐だけなくて。でも、マニアの間では、アメリカの某州のナントカさんがそれを持ってるってわかってるんだって。

東海林:それもすごいね。

赤瀬川:で、そのコレクターの人は、アメリカのナントカさんが死んだとき、まず弔電を打った(笑)。で、感触をよくしておいて、ダッとアメリカまで駆けつけて、ストラップを手に入れたと。そういうすごい世界がある。

東海林:まず弔電を打つっていうのが素晴らしいね(笑)。人の心を捉えるコツですね。

赤瀬川:最上級まで上りつめた人はそうなっちゃうんですよ。絶滅種を追い求めるみたいな。そういう話を聞くと、嬉しくなっちゃう。

東海林:たかがストラップ1本のために(笑)。

赤瀬川:僕も、この間、文通していた知り合いのカメラマニアが亡くなっちゃったんですけど、奥さんがカメラに全然興味ないの。だから、あのコレクションどうなったか心配でね。といって、僕はお葬式に行くほど親しい間柄じゃなかったから……。

東海林:親しければ弔電打って、駆けつけた?

赤瀬川:いや、さすがに……(笑)。】

〜〜〜〜〜〜〜

 続きものの漫画ならともかく、「ナントカ文学全集」の場合には、各巻に内容の繋がりはないはずなので、別に二十九巻だけなくても平気……じゃないですね僕も。
 その巻だけなんらかの理由でプレミアがついてものすごく高価だったりしなければ、やっぱり二十九巻を頑張って探してしまいそうです。
 それで、手に入れただけで満足して、1ページも読まないまま本棚に置きっぱなし、と。

 それにしても、ここで紹介されている「コダックエクストラ」のコレクターの話はすごいです。いや、カメラそのものならともかく、「たかがストラップ1本のために、ここまでやるのか」という感じです。まあ、「あとストラップだけ揃えば、コンプリートできる!」という状況だと、とにかく「なんとかしたい」のでしょうけど。

 しかし、その1本のストラップが世界のどこにあって、誰が持っているかもわかっていて、そのうえ、その人の訃報まですぐに耳に入ってくるというコレクターの世界って怖ろしいものですね。しかも、「まずは弔電を打つ」という地道な根回しをしてから、「ストラップ1本」を譲ってもらいに行くなんて、芸が細かいというか……すごい執念というか……
 たぶん、残された家族にとっては、「なんでこの人は、遠くから来て、わざわざこんなストラップを欲しがるのだろう?」と、ものすごく疑問だったに違いありません。全く面識がない人だったら、「実は価値があるものでは?」と身構えられてしまったでしょう。

 この話、「戦略」としてはすばらしいとしか言いようがないのですが、そのコレクターの「人間性」に関しては、ちょっと考えさせられるところではありますね。
 もっとも、そう感じるのは僕にとってはこのストラップは「たかが肩紐」でしかないからであって、コレクターたちにとっては、「そのくらいのことをやる価値がある」ものなのでしょうけど。