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2008年02月26日(火)
「コピーライターとしての資質を一瞬で見抜く」ための、たった一つの質問

『質問力』(齋藤孝著・ちくま文庫)より。

(「コピーライターの資質を一瞬で見抜く質問」という項の一部です)

【谷川俊太郎さんの質問もすばらしいが、もうひとつダ・カーポ別冊『投稿生活』(2002年6月1日号)という雑誌に掲載されたコピーライターの仲畑貴志さんのインタビューに、秀逸な質問の例があったのでここに紹介しておこう。
 仲畑さんの事務所でコピーライターを募集した時の質問だ。仲畑さんの質問をご紹介する前に、一瞬自分で考えてみて下さい。
「もし自分が経営者でコピーライターの社員を雇う場合、あなたは入社試験でどんな質問をするでしょうか?」
 質問自体はコピーライターの専門家でなくても何とか考え出せるものだ。だがよい答は難しい。
 仲畑さんの質問は「あなたがいいと思うコピーを10個書いてください」というものである。仲畑さんによれば、この答を聞いただけでだいたい能力がわかるというのである。もしあげた10個のコピーがセンスの悪いものだとすればその人に見込みはない。センスの悪いコピーライターを雇ってしまえば、その人に毎月払う給料はドブに捨てているようなものだ。経営者にとっては深刻な問題である。
 よいコピーが生み出せるかどうかは、世に出ているコピーの良し悪しを見分けるセンスと密接に関連している。審美眼があれば、自分の作ったコピーがよいものか判断できる。よくないものであれば、もっとよいコピーを思い出してブラッシュアップしていくだろう。
 しかし自分がインパクトを受けたコピーがよくないものだとすると、いくら自分のコピーにヤスリをかけようとしても、ヤスリ自体がよくないのだからブラッシュアップしていきようがない。
 10個あげたコピーを見れば、その人の傾向がはっきりわかる、具体的かつ本質的な非常にすぐれた質問といえよう。この質問は応用がきく。
 たとえば「あなたが今までの人生でインパクトを受けた本を10冊あげてください」とか「映画をあげてください」とか「人物を何人かあげてください」など、ヴァリエーションを付けられる。問いの構造がしっかりしているので、その業界ごとに変化させればいい。たまたま出た質問ではなく、よく練られた、構造がすぐれている質問である。
 そもそもコピーを10個あげられない人がいれば、勉強不足である。最近は入社試験でしっかり業界研究せずに、ただ憧れで受けてしまうことがある。だから最低限勉強して来いというメッセージも含まれる。また母集団が20個から10個選んだのか、1000個から10個選んだのかで、その10個は違ってくる。10個出せるかどうかも重要だが、選んだ10個の母集団も重要である。
 たとえばお菓子業界のコピーだけをあげてくれば、その人は非常に片寄った勉強をしていることになる。一方いろいろなジャンルから選ばれていれば、アンテナの幅が広い証拠だ。答から、それが出された貯水池の奥行きを推しはかることができる。】

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 「おしりだって、洗ってほしい」(TOTO・ウォシュレット)、 「目のつけどころが、シャープでしょ」(シャープ)、「反省だけなら猿でもできる」(大鵬薬品工業・チオビタドリンク)など、さまざまな名コピーを生み出してきた仲畑さんの「コピーライターの資質を一瞬で見抜く質問」の話です。

 受ける側としては、こういう「あなたがいいと思う○○を10個挙げてください」というような質問をされると、正直、「この面接官、気がきいた質問を何も考えてないんじゃないのか?」などと考えがちなのですが、こういうふうに、「なぜそれを聞くのか?」と解説されてみると、ものすごく効率的かつ本質的な質問であるということがよくわかります。
 つきつめていけば、このひとつの質問の中には、「10個挙げられるか?」「ちゃんと『面白い』コピーを選べているか?」「コピーのジャンルや作者が偏りすぎていないか?」「いいと思うコピーを挙げていく順番(最初に挙げたもののほうが、優れていると感じているものでしょうから」などのたくさんのチェックポイントがあって、「知識量」「センス」「バランス感覚」などがこれだけでわかるのです。

 答える側としては、こんなふうに聞かれたら、普通は「誰でも知っている有名なコピー」ばかり挙げては「個性がない」と思われそうですし、だからといって、あまりに奇を衒ったコピーばかりを挙げると、単なる頭でっかちのマニアだという印象を与えるのではないかと悩ましいところですよね。
 こういう質問って、緊張しているときにいきなり聞かれると、けっこう頭が混乱してしまいそうです。
 単なる知識やセンスに限らず、「頭の回転の速さ」なんていうのもわかるのではないかなあ。

 ただし、質問する側に圧倒的な知識と確固たる「価値観」が確立されていないと、この質問にはあまり価値はありません。
 目の前の志望者が、ちょっと珍しいコピーを挙げてきた際に、それをどんなふうに評価するのか?
 例えば、誰かに「好きな映画10本」を挙げてもらったとして、その人がもし「自分が知らない映画」の名前を口にした場合、「そんな映画も知っているのか!」とプラスの評価をするのか、「そんなの知らん!」とマイナスの評価をするのか、あるいは、「その映画に関しては、プラスマイナスゼロ」にするのか?おそらく、一般的には「プラスマイナスゼロ」なのでしょうが、評価する側の知識が不足している場合、「才能を見抜けない」可能性が高くなってしまいます。

 この場合、「ほとんどすべてのこういう際に名前が挙がりそうな映画に関して、自分なりの評価を持っている」人でないと、本当にこの質問を「活かす」ことができないんですよね。
 おそらく、仲畑さんがこの質問を思いついたのは、「彼らが挙げるようなコピーであれば、ほとんど自分は知っているし、それぞれの評価も済んでいる」という自信があるからなのです。
 友達との会話だったら、ひとつでも「自分と趣味が合う映画」があれば、「あっ、それ、俺も好き!」って会話の糸口にすれば十分なのでしょうが、「雇う」となると、相手をなるべく客観的に「評価」し、「こいつは使えるか?」という判断をする必要がありますしね。

 そういえば、僕も学生時代、「30歳女性の腹痛の患者がいる。鑑別疾患を10個挙げろ」なんて教授に質問されて絶句していたものです。今なら、それぞれの疾患の発生頻度や危険性などを考慮した上で、すみやかに答えられる質問ではあるのですが、当時は「うーん、交通事故、打撲、虫垂炎!」などと苦しまぎれに返事をして、「どうしようもねえなこいつは」という視線を浴びせられていたのをよく覚えています。
 コピーライターの資質とはちょっと違うかもしれませんが、自分の中の情報にすばやく的確にアクセスでき、必要なものを必要なだけ取り出せる能力というのは、どんな仕事にも必要なのでしょう。

 この話、逆に言えば、「クリエイターになりたい人」は、聞かれたときにすぐに「自分の好きな○○」を10個くらいは挙げられるように、しかも、その10個が「自分のベストチョイス」になるように、日頃からトレーニングしておかなくてはダメだ、ってことなのですよね。


 では、「自分がいいと思う本を10冊挙げろ!」
 
 実際にやってみると、ものすごく難しいですよ、これ……