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2007年12月27日(木)
『ジョジョ』と『ポストペット』の奇妙な関係

『ユリイカ』(青土社)11月臨時増刊号「総特集・荒木飛呂彦――鋼鉄の魂は走りつづける」より。

(「男たちの奇妙な愛情!?」と題した座談会の一部です。出席者は、荒木飛呂彦先生と斎藤環さん(表象精神病理学者)、金田淳子さん(社会学者)。2007年10月27日に収録されたものだそうです)

【斎藤環:でも真面目な話。現実にもスタンドはすごくクリエイティブなほうに役に立っていますよね。アーティストの八谷和彦さんが作った『ポストペット』というメールソフトがあって、モモというピンクのクマとかが大人気なんですけど、あれは重ちーのハーヴェストから思いついたらしいですよ。

荒木飛呂彦:そうなんですか。面白いですねえ。あれはレコード屋のクーポン券を集めていて思いついたんです。集めるとCD貰えたりしたじゃないですか。その辺に落ちてたりするから。これを集めてくるやつがいたらいいいなあって(笑)。

金田淳子:えらく庶民的な話ですね(笑)。でも皆でしゃべていて、どのスタンドが欲しいかという話になった時、やっぱり日常生活でスタープラチナは役に立たないから、皆ハーヴェストって言いますね。あれが荒木先生の物欲から生まれたスタンドだったとは……ますます好きになりました(笑)。でも、ただのせこいスタンドかと思ったら、意外にすごく強いところもまた魅力ですよね。仗助と億泰のコンビを敵にまわして互角の戦いを展開した。

荒木:あれがスタンドの最初の発想なんです。一見弱いと思った人間をどうやって強くするかという。

金田:この能力って意味ないんじゃないかというものを上手く戦いに組み込みますよね。

荒木:で、悪役が全員前向きなんです。

金田:私もシリアルキラーのくせに異常に前向きな吉良吉影とかすごく好きなんですけど。

荒木:前向きにするって決めたんです。前向きにしていないとストーリーが破綻しちゃうんで。少年マンガが破綻しちゃうんです。吉良吉影のかわいそうな部分も本当は描きたかったんですけど、でも描いちゃうと暗いし、敵にならないんですよね。

金田:吉良吉影の「わたしは人を殺さずにはいられないという「サガ」を背負ってはいるが……「幸福に生きてみせるぞ!」」っていうあの前向きさにひきこまれましたね。私もいろいろダメなサガを持っているので。だから吉良吉影が倒されちゃったのはちょっと悲しい。

荒木:まあ、悪い人間ですからね。あれを生き延びさせちゃうとちょっとまずい。そう言えば、乙一君も「吉良吉影に救われました」って言ってたね(笑)。

金田:乙一さんも暗いサガが多そうですもんね(笑)。ノベライズ版楽しみにしてます。

荒木:あれがすばらしい出来なんです。

金田:そうなんですか! 11月16日に出るそうですけど、その日は私の誕生日でもありまして、荒木先生と乙一さんからの誕生日プレゼントだ!って勝手に思ってました(笑)。

荒木:じゃあ送りますよ。

金田:えーーーっ! なんで荒木先生はこんなに偉いのに、超やさしいんですか?(笑)

荒木:わかんない(笑)。先輩に虐げられてるからだと思います(笑)。

金田:こせきこうじ先生はそんなに厳しかったんですか?

荒木:そうですね(笑)。僕より上の漫画家って皆怖いんですよ。

斎藤:秋本治先生なんかはどうなんですか?

荒木:秋本先生はやさしいですよ。僕は仕事のしかたとか全部、秋本先生を見習っていますからね。締切には絶対に遅れないとか週休二日は取るとかパーティには絶対に出るとかね。

金田:どうしてそんなことが出来るのか不思議ですよ。あの絵の密度をきっちり5日とかで仕上げられるのは神業としか思えない。やっぱりベタなんかは筆でパッとドリッピングでやったりするんですか?(笑)

荒木:しないって(笑)。普通にやってます。あくまで岸辺露伴は漫画家として僕の憧れの姿というだけで、あれを僕のキャラクターと思ってもらったら困る。】

〜〜〜〜〜〜〜

 この後、荒木先生は「作品を描くときに地図とか家の見取り図を最初に描く」となどというような荒木先生のこだわりの話が出てきて、「そうは言っても、岸辺露伴って、かなり荒木先生のキャラクターを反映しているのでは……」という気もするのですけどね。

 僕がリアルタイムで『週刊少年ジャンプ』を読んでいた15年〜20年前には、「ジャンプの中でも異質な漫画」であったはずの『ジョジョの奇妙な冒険』が、現在活躍しているクリエイターたちに与えた影響の大きさには、本当に驚かされてしまいます。
 正直、「ハーヴェスト」(とても小さく全部で500体程のスタンド。本体の命令に従い、物を拾い集めることができる。一体一体の力は小さいが、数が多いので強い)から『ポストペット』を発想したという八谷さんの「発想力」もすごいとは思うんですけどね。乙一さんのエピソードにもあるように、『ジョジョ』というのは、ある種の人々に、ものすごく強力なイマジネーションを与えてくれる作品なのかもしれません。「吉良吉影に救われました」ってどんな救われかたなんだ……と言いたくもなりますが。

 あと、ここでの荒木先生の発言で驚かされるのが、『こち亀』の秋本治先生が「締切には絶対に遅れない」「週休2日は必ず取る」というルールをちゃんと守って仕事をされているということでした。荒木先生は、「さすがに週刊でやるのはキツくなってきた」とのことで連載の場を月刊の『ウルトラジャンプ』に移されているわけですが、考えようによっては、「休みを減らせばまだまだ週刊誌でも描ける」はずですよね。でも、そうしないのが荒木先生の流儀だということなのでしょう。
 それにしても、「30年間休載なし」という『こち亀』は本当にすごい!もちろん、アシスタントなどの周囲のスタッフに恵まれている、という面も大きいのだとは思います。

 ちなみに僕は、なんといってもディオの「ザ・ワールド」が欲しいです。あれがあればやりたい放題だと思うのですけど……
 まあ、「ハーヴェスト」を選ぶ人が多いということは、多くの人は、悪いことをしまくったり世界を支配したりするより、地道かつ確実に幸せになりたいのだ、ということなのでしょうね。