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2007年12月17日(月)
「芸能界で一番緊張する芸人」江頭2:50

『hon-nin・vol.05』(太田出版)より。

(吉田豪さんのインタビュー記事「hon-nin列伝・第六回」の一部です。ゲストは江頭2:50さん)

【吉田豪:それで大川興業に入ってから、江頭さんの中では将来どうなりたいっていう目標はあったんですか?

江頭2:50:う〜ん……たとえば大川総裁が田中角栄邸に突撃する話とかが大好きでしたから、やっぱりそういうのになりたいって思ってましたね。

吉田:その方向性だと、テレビにはまず出られないという危惧とかもなく。

江頭:ああ、まったく全然テレビとか気にしてなかったですね(キッパリ)。だって、大川興業って、たとえば小田急の向ヶ丘遊園で営業やるじゃないですか。普通だったらステージでネタだけやればいいのに、違うんですよ。目の前のお客さんじゃなくて、「関係ない遠くの人たちを笑わせてこい」とか振られて。俺、走りながら考えましたよ。そしたら、そこにちょうどジェットコースターがあるから、ジェットコースターに乗って、そこで「ドーンと鳴った花火が…………」ってやったり。ステージで聞くとドップラー効果みたいになって笑うんですよ(笑)。あと、すっごい向こうのモノレールに乗って、「ドーンとなった花火が……」って。やっぱりステージからは小さ〜く見えるんですよ。モノレールの中では完全にキチガイが来た! って感じで。もう、そんなのばっかりでしたね。

吉田:追い込まれて何をするか、みたいな状態になってたわけですかね。

江頭:うん! あと横浜博でも、営業は台風で中止なのに、「あそこにいるイラン人たちを笑わせてこい」とか言われて。中止なのに、そんなことまでする必要ないじゃないですか! で、関係ないイラン人の客の前で「ア―――――ッ! ドンドンドーン」とかやって。イラン人、怒ってんのに。

吉田:ダハハハハ! その原点が、いまでも続いてる気がしますよね。

江頭:絶対にそれはあります。

吉田:効率の悪い笑いっていうか、やらなくてもいいことをやるっていう。

江頭:だから……ステージはどうでもいいから、とにかくどういう凶器を使ってもいいから笑わせるってことを、ものすごく学びました。向ヶ丘遊園のときも、その次に出番の芸人が、「こんなあとやれねえぞ! 草木も生えてねえよ」って言ってて。

吉田:そんなことばかりやってると、対応力ができて強くなりますよね。

江頭:メチャクチャ強くなります! いまもそれあると思いますよ、『「ぷっ」すま』に出てても。ディレクターの髪の毛を引っ張ろうが、カメラマンを蹴飛ばそうが、とにかく笑いに持っていかなきゃって。ウンコしててもいいけど、とにかく笑わせないとっていうのはあります、僕の中では。

吉田:でも、テレビでウンコしたって放送はできないわけじゃないですか。

江頭:1回放送しましたよ。テレ東の『少年バット』って番組で。ある文化人に「お前、ホモだろ!」って言って、「お前なんかこれだ!」ってウンコしたらモザイク入りで流れて(笑)。

吉田:そこまでやるのは責任感なんですかね。そんな責任感じなくてもいいのに、もっと軽く流してもいいのにっていう。

江頭:ああ、そうかもしれないです。僕は正直な話、芸能界で一番緊張するタイプで、これは間違いないです。

吉田:本番前には毎回手が震えるし。

江頭:……そうです。スケジュール切られた瞬間からプレッシャーで眠れないです。もう前の日とか寝ないで、ノートにシミュレーションとかいっぱい書きます。使わないんですけどね。それぐらい押し潰されそうになります。でも、上の芸人さんから聞いた話だと「緊張しない人間はダメだ」、と。それが正解だと僕は思ってます。

吉田:江頭さんに関しては絶対に正解だと思いますね。だからこそギリギリの表現になってるし、命を懸けてやってる感じが透けて見えますもん。

江頭:あ、そうですか(笑)。……正直な話、テレビでウケなかったときは自殺しようかなと思います(あっさりと)。このコンクリートにぶち当たって死のうって。もうダメなんですよね、手を抜こうと思っても。

吉田:どうにも手を抜きようがない。

江頭:だから誰よりもスタジオに早く入って。テレビで収録の4時間前に入るヤツいないですよ! まだ楽屋に「江頭様」って貼ってないですもん。

吉田:ドラマならわかりますけど、バラエティでそこまでやる必要は……。

江頭:ないのかもしれないですけどね。だから正直な話、いっぱい仕事がきたとしても選ばせてもらって……こんなこと言っちゃダメなんですけど。】

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 江頭2:50さんの有名な言葉に「1クールのレギュラーより1回の伝説」というのがあるのですが、このインタビューを読んでいると、江頭2:50という芸人の凄さに、ただただ圧倒されるばかりです。
 僕は正直、江頭さんがテレビでやっている「芸」の面白さはよくわからないんですけど、この人は「芸人」としての生きかたこそが、最高の「芸」なのかもしれません。
 しかし、江頭さんというのは、本当に真面目な人みたいですね。これだけ「誰かを笑わせること」に対して真摯な芸人というのは、なかなかいないのではないでしょうか。そして、けっこう芸歴は長いはずなのに、こんなに緊張してしまうという芸人もあまりいないはずです。「緊張しない人間はダメだ」というのはわかりますが、こんなにいつも張り詰めていては、身がもたないのではないか、と心配にもなりますよね。

 これを読むと、江頭さんというのは、ある種の完璧主義者なのではないかと思われます。とにかくメチャクチャなことをやっているだけにしか見えない江頭さんの「芸」も「前日からノートでシミュレーションしていた」ものらしいですし。たぶん、本番ではそんなシミュレーションの内容は頭から飛んでしまっていて、真っ白になってやっているんでしょうけど、それでも、次にテレビに出るときには、またシミュレーションをしておかなければ安心できない……僕も(江頭さんほどではないですが)緊張してしまうタイプなので、そういう心境って、なんとなくわかるような気がするのです。

 先日、とんねるずの『みなさんのおかげでした』の名物コーナー「食わず嫌い王選手権」のメイキングが放送されていたのですが、ほとんどアドリブでダラダラしゃべっているように見えるあのコーナーも、実はとんねるずの2人は入念にリハーサルをして、「この食べ物のときにはこういうふうに突っ込むから、こうリアクションして……」というように、ちゃんと台本を作っているそうなのです(ゲストのリアクションに関しては、「ゲスト任せ」みたいでしたけど)。実は、「その場の勢いでやっているように見せている芸人」ほど、陰でキッチリ準備をしているものなのかもしれません。本当にその場の勢いで笑わせられる人なんて、ごくごく一握りの「天才中の天才」が「絶好調のとき」だけなのでしょう。

 江頭さんの場合は、大川興業のスタイルを「真面目に」追求していったために今のスタイルになっただけで、もし最初の方向性が違っていたら、全然別のタイプの芸人になっていた可能性もありそうだよなあ。

 それにしても、向ヶ丘遊園、いったいどんな客層を狙って、大川興業にステージを依頼したのでしょうか?まさか、こんなことまでやるとは依頼主も夢にも思わなかったでしょうけど……