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2007年11月14日(水)
『スタジオアリス』の「子供ビジネスで客をつかむ秘訣」

『スタバではグランデを買え!』(吉本佳生著・ダイヤモンド社)より。

(「子供ビジネスで客をつかむ秘訣」という項から)

【筆者が子供を連れて家族で出かけた店で、とても感心した事例が2つありますので、紹介します。ひとつは子供向け写真館では最大手のスタジオアリスで、もうひとつは、子供が通う幼稚園のすぐ近くにある回転寿司店です。ともに、小さい子供がいる家族客をつかむには何が肝心かを、筆者によくわからせてくれた事例です。
 まず写真館の事例から述べます。子供が生まれてから成長するまで、いろいろな記念写真を撮影しますが、筆者の子供は、生後百日の記念写真や七五三などの記念写真を、スタジオアリスで撮影しました。特に、最初の記念写真として、生後百日の写真を撮影したときが印象的でした。

(中略)

 まず、子供の記念写真を撮影するときの満足感を、要因分解してみましょう。写真の撮影が上手にできていることは大前提で、子供の衣装やポーズや顔の表情がどれだけ気に入るかで、満足感が大きく左右されます。
 最近は、オートフォーカスのカメラが一般的になり、デジカメで撮影した写真は明るさや色調の補正も簡単にできますから、専門家が高い技術で撮影してくれることのありがたみは、かなり小さくなりました。それよりも、子供の撮影をする場合には、うまく笑っている表情を撮影することがむずかしく、いかにいいポーズで、いい表情のときに撮影するか、あるいは、カメラの前でいかにいい表情をさせるかが、一番の問題になります。
 昔の写真館では、衣装をきちんと着て、撮影にふさわしいポーズと表情をするのは、撮影される客側の責任でやるべきことでした。ところが、スタジオアリスのような子供写真館では、まず、記念写真撮影用のさまざまな衣装が用意されていて、それを無料で借りることができて、ヘアセットや化粧や着物の着つけも無料でやってくれます。
 筆者の子供の場合には、スタジオアリスでの撮影でも、どちらかの祖父母が買ってくれた服を着せて写真を撮ることが多いのですが、桃太郎の衣装を借りて端午の節句の記念写真を撮ったこともあります。背景も選択可能で、ディズニーキャラクターと一緒に写真を撮るようなセットもあります。予約しておいた一定の時間内で、いろいろな衣装やいろいろな背景の写真が撮れるのです。
 さらに、泣いて嫌がる子供を笑わせて写真を撮るために、店のスタッフが本当に努力してくれます。片方の手に楽器を持って音を出しながら、あるいは、おもちゃを持ってそちらに視線を向かせるようにしながら、子供をうまくあやして、もう片方の手でスイッチを押し、シャッターを切ります。
 おかげで筆者の子供の場合にも、笑った写真を撮ることがむずかしい時期だった生後百日の記念写真で、満面の笑みの写真を撮ってもらうことができました。スタジオアリスで写真を撮ってくれる女性スタッフは、それまで幼稚園の先生をしていた人など、とにかく子供の扱いがうまい人が選ばれています。
 しかも、何枚も撮影した上で、その写真はモニターに映されて、客が自分でみて比較しながら、どの写真をどんなサイズでプリントするのかを注文します。この方式だと、仕上がりの不確実性が非常に小さくなっていますので、さらに顧客の満足感はアップし、そのために、ついつい多くの写真のプリントを注文してしまいがちです。
 スタジオアリスの場合には、おもちゃ専門店のトイザらスに隣接して出展するケースが多いことも、成功に寄与しているようです。他方、2006年には新しい形態の店舗として、家族単位で着替えなどができる個室を複数用意し、家族の記念写真が撮れる店も出しています(2006年9月2日の日本経済新聞)。成人式や銀婚式などでの大人向け記念写真も手がけようとしているのです。
 デジカメなどが普及した影響で、全体としては、写真館で記念写真を撮る人は大幅に減っていると思われますが、そういった業界であっても、顧客の満足感が何から得られるかを的確につかめば、ビジネスに成功できるという好例でしょう。】

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 そういえば、僕の家からいちばん近い「トイザらス」にも、この「スタジオアリス」が隣接しています。僕にとって「写真館」というのは、大学時代に履歴書用の写真を撮りに行って以来全く縁がないところなので、「スタジオアリス」に関しても「この御時世に写真館なんて、商売になるのかな」と何度か思った記憶があるんですよね。もちろん、中を覗いたことも一度もありません。
 でも、これを読んで、「スタジオアリス」の人気の秘密がわかったような気がしました。もちろん、子供がいない僕には実感としては掴めないところもたくさんあるのですが、それでも、こういうシステムになっているのなら、自分でデジカメで撮影するよりはるかに確実に、「いい写真」が撮れるだろうな、と。
「写真館」といえば、頑固そうな館主が真剣な表情で「渾身の一枚」を撮影する、というイメージを僕は持っていたのですが、「いい写真」というのは、カメラマンの技術だけで完成するものではないのですよね。当然のことながら、被写体側のコンディションも非常に重要。でも、今までの写真館というのは、せいぜい、「貸し衣装を用意する」「日頃は無愛想な館主が、精一杯の愛想をこめて『はい、チーズ!』と声をかける」というくらいのものだったのです。
 ところが、「スタジオアリスで写真を撮ってくれる女性スタッフは、それまで幼稚園の先生をしていた人など、とにかく子供の扱いがうまい人が選ばれている」のです。
 「子供向け写真館」ですから、「子供扱いがうまい」に越したことはないでしょうけど、僕としては、「でも、このスタッフ、写真の腕はどうなの?」とか、つい考えてしまうんですよね。しかしながら、筆者は写真の技術的な細かいところよりも「子供の満面の笑みの写真が撮れたこと」に満足されていますし、たぶん、世間の大部分の親も、「ちょっとした写真の腕の差よりも、子供の表情を良くしてくれるカメラマンのほうがいい」と考えるのだと思います。もちろん、このシステムが可能になったのは、「取り扱いが簡単」で、「その場で撮った写真が確認できる」というデジタルカメラという道具の進歩のおかげでもあるのです。

 しかし、僕としては、この「スタジオアリス」のような写真館ばかりになってしまって、「昔気質で技術自慢のカメラマン」がいなくなってしまうのは、ちょっと寂しいような気もするんですけどね。
 そう言いながらも、僕もやっぱり自分の子供の写真を撮るときには、「スタジオアリス」に行ってしまうんじゃないかと思いますが。