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2007年10月20日(土)
内田有紀「ワガママってなんだろうって全然分からないんですよ」

『hon-nin・vol.04』(太田出版)より。

(吉田豪さんのインタビュー記事「hon-nin列伝・第五回」の一部です。ゲストは内田有紀さん。内田さんの主演映画『クワイエットルームにようこそ』の話題から)

【吉田豪:『クワイエットルームにようこそ』は主人公の再生の物語ですけど、内田さんも無事に再生できてきたというか。

内田有紀:再生……できてるのかなあ? できてるとしたら、それは先輩たちとの出会いのおかげですね。先輩たちが、私に「もっと生きやすくなりなさい」って言ってくれて。でも、「ワガママになりなさい」って言われるのはすごいプレッシャーで。ワガママになる理由がわからないので。

吉田:ワガママになれない!

内田:ワガママってなんだろうって全然分からないんですよ。だから自分がワガママなのかどうかも分からない。でも「ワガママになりなさい」って言われることが昔から山盛りあるので、じゃあワガママじゃないのかなって。「いい子だ」って言われることも多いけど、何をもっていい子なのか分からないし。だってそれ、ただ顔色伺ってるだけで、もしかしたらすっごい嫌なヤツじゃんって。

吉田:腹の中は黒いかもしれないし。

内田:そうじゃないですか。人に合わせてるだけだから、いい子ってなんだろうって思うし。もしかしたらそういうのが自分なんだっていうのは思ってますね。そんな枠にはべつに入る気もないし、入りたい思ってなかったんだけど、入らないと居場所がなかったから、誰かが言うなにかになってたし。でも、それがいまはお芝居で監督が言うA子さん、B子さんになるっている期待に応えることに喜びを見つけたんですよ!

吉田:芝居が好きっていうのは自分そのものじゃないからなんですかね?

内田:ホントそう! 自分でいなくていいから。自分でいると、何をしていいかわかんないんですね。ホント……これ、どうなんでしょうね?

吉田:ホント自分が好きじゃないんですね。

内田:好きになろうとしてますよ。

吉田:好きなところはどこですか?

内田:人に気ぃ遣うとこですかね。

吉田:ダハハハハ! それはいいところなのか悪いとこなのかという(笑)。

内田:そうそうそう! でも、人が嫌な感じにならないんだったらいいんです。それで私が疲れても、そんなの他人は知ったこっちゃないし。私が勝手に疲れてるだけで、そんなのべつにマッサージ行けば治るしって感じですよね。その場の空気が悪くなるのが一番嫌です。でも、言いたいことも……芝居をすることに関しては言えるようになってきてるので。

吉田:タレントさんでは珍しいぐらいに気を遣うタイプなんでしょうね。

内田:これが気を遣ってるのか鬱陶しいだけなのか、全然分からないです。面倒くさいですよ、延々グジグジこんなことばかり言ってますもん。】

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 内田有紀さんがこんな人だったとは……
 僕が記憶している「アイドル時代」の内田さんは、天真爛漫で何の悩みもなさそうなイメージだったのですが、その内面には、いろんな葛藤があったみたいです。内田さんは、このインタビューの別のところで、「こんな見かけに生まれてきてしまったから、かえって自分の内面との折り合いをつけながら芸能生活を送っていくのが辛かった」というようなことも語っておられます。

 僕も子供の頃は「いい子」と言われることが多かったのですけど、ここで内田さんが仰っている【何をもっていい子なのか分からないし。だってそれ、ただ顔色伺ってるだけで、もしかしたらすっごい嫌なヤツじゃん】というような疑問はずっと持っていたような気がします。尾崎豊の歌を聴いて、学校のガラスを割っちゃうような「青春」に走らなかったのは、別に現状に満足していたわけじゃなくて、そんなことをやっても人生全体の収支において、何のプラスにもつながらない、と妙に達観していただけですしね。
 今から考えれば、「学生時代にあまり悪いこともできなかった自分」が、ちょっと寂しく感じられることもあるのですけど。

 まあ、30余年も生きてみると、実際のところ、人間の性格とか考え方なんていうのは、そう簡単には変えられないものだということもわかります。他人に「もっとワガママになればいいのに」と言われても、ワガママになったことがない人間にとっては、「ワガママになること」のほうが、かえって「ワガママな自分を演じるというストレス」につながってしまったりもするのです。

 外見から受けるイメージや周囲からの評価や宣伝文句だけで、「あの人はこういう人だ」ってわかったつもりになりがちな僕にとっては、あらためて「人は見かけによらないもの」なんだなあ、と考えさせられるインタビューでした。