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2007年07月19日(木)
プロ作家が文学新人賞に投稿した場合の「入選率」

『この文庫がすごい! 2007年版』(宝島社)より。作家・山本甲士さんへのインタビューの一部です(取材・文は友清哲さん)。

【インタビュアー:デビューのきっかけは本格ミステリーが主体の横溝正史賞ですから(優秀作受賞)、たしかに多彩な作風です。

山本甲士:そうですね、「巻き込まれ型3部作」では普通の庶民を描きましたが、デビュー後しばらくは探偵が登場するようなミステリーを書いていました。よく人に自慢するんです。横溝正史賞では鈴木光司さんや打海文三さんなど、大賞を逃した人からもスゴイ作家が出てるんだぞ、と(笑)。

インタビュアー:その一方、別名義の『君だけの物語』(山本ひろし名義)は、素人が小説家を目指す過程がかなり細かく描かれたハウツー色の強い小説ですが、これは自伝的な作品だと考えてよいのでしょうか?

山本:もともとは、本当にハウツー本を書きたくて考えたものなんです。でも編集者に話を通す際、ハウツー物と説明したら実現しづらいだろうと考え、息子のために小説を書く父親の人情話という、小説のふりをして進めた企画なんです(笑)。私、デビュー後も「山本ひろし」名義で児童小説などいろんな新人賞に応募して、賞金稼ぎをやっていましたから。年によっては「山本甲士」としての稼ぎよりも賞金総額のほうが多いこともありました。

インタビュアー:それはすごい! その経験がハウツー本という発想に……。

山本:そうなんですよ。デビュー当時はまだそれほど仕事もなかったですからね。アルバイト的な意味合いもありましたが、とにかく実力をつけておかねばと考え、入選率5割を目指して投稿を続けていたんです。

インタビュアー:うーん、これまでありそうで聞かなかったお話。プロの方の入選率がいかほどになるのか興味津々なのですが。

山本:トータルで30くらいは入選したと思いますが、最後のほうは5割に達していたと思いますね。賞金も様々で、上は現金100万円から、下はちょっとしたエッセイで図書券3000円分とか。普段、仕事としてやっていないジャンルでガス抜きしたいという気持ちもありました。これである程度自信がついて、ノベライズでも何でも、機会を逃さずトライできる下地ができたのかもしれません。】

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 僕はこの山本甲士さんのこと、正直知らなかったのですけど、この「プロデビュー後も実力をつけるために投稿を続けていた」という話は、非常に興味深かったです。
 文学新人賞を受賞してデビューしたまでは良かったものの、著作が売れずに本を出してもらえなくなった「プロ作家」たちが、再デビュー、あるいは作家としてあらためて評価されることを目指してエンターテインメント系の賞に応募するというのは、けっこうよく耳にする話なのですが、ここまで赤裸々に「新人賞荒らし」をやっていたと語っているプロ作家は、けっこう珍しいのではないでしょうか。

 しかしながら、山本さんのような中堅クラスの作家でも、新人賞に実際に応募してみると「目標が入選率5割」くらいなんですね。つまり、「プロの作品でも、半分以上は落選してしまうのが当たり前」の世界。
 もちろん、同じプロの中にもレベルの差は厳然として存在するのでしょうが、文学新人賞なんていうのは、けっこう「選考する側との相性」みたいなのも大きいのかもしれません。同じ作品でも、応募する賞や選考委員によって、評価が違ってくるのでしょうし。

 それにしても、「賞金稼ぎ」の収入のほうが「山本甲士」としての収入より多かった、なんていう話を読むと、「プロ作家」っていうのは、ごく一部の「超売れっ子」以外の人にとては、本当に儲からない仕事なのだなあ、ということをあらためて思い知らされます。

 ちなみに、この本にインタビュー記事が載っていた、今をときめく森見登美彦さんも現時点では兼業作家です。
 「小説を書くだけの生活は精神的にも財政的にも苦しい」というのが、「現在の仕事を辞めない理由」なのだそうですよ。