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2007年07月07日(土)
「本の鬼」荒俣宏さんの驚愕のコレクション

『わらしべ偉人伝〜めざせ、マイケル・ジョーダン!〜』(ゲッツ板谷著・角川文庫)より。

(インタビューした人に友達を紹介してもらうことによって(「テレフォンショッキング」方式)、マイケル・ジョーダンにたどりつくことを目指した『週刊SPA!』の連載記事を書籍化したもの。荒俣宏さんの回の一部です)

【さて、今回の偉人は作家の荒俣宏さん。同氏は中学生の頃には既に洋書を原文のまま読み漁っていたというほどの、いわば本の虫。が、話を聞いてみたら、本の虫を楽に通り越して、まさしく「本の鬼」……。では、その一部始終を読め!

「初小説の『帝都物語』が350万部の大ヒット。そんで、印税がドカーン!と入ってきたのに高い本を何冊か買ったらソレがほとんどなくなっちゃった…ってホントなんすか!?」
「ええ、ほとんど飛んじゃいましたね」
「……それって一体どういう本で、一冊いくらぐらいするもんなんスか?」
「博物図鑑の系統で、一番高かったのは1500万円しましたね」
 本一冊で1500万円っ!? おい、その中には袋とじで100%勝てるパチンコの攻略法でも書いてあんのかよ?
「で、買ったはいいけど、触るとボロボロ崩れていくんですよ。だから、1500万円で買っても読めない、というね(笑)。その上、そういう高額な本って読んでみても大したこと書いてないの。大抵10冊に8冊はバカ本だったりするんですよ」
「……え、どういうところがバカなんスか?」
「特に18世紀以前の本なんか、デカいばっかりでいくらページをめくっても『誰々に捧ぐ』みたいなのばっかりで。30ページぐらい見ても、まだ『ナントカ伯爵に捧ぐ』とか。で、35〜36ページぐらいになるとようやく長〜〜い目次が出てきて、半分ぐらいからやっと本文が始まったりね」
「運動会の前に校長先生が3時間ぐらい喋っちゃって、生徒がバタバタ倒れていくような(笑)」
「そうそう(笑)。で、いろいろ読んでると、(あ〜これはあの本のコピーだ!)ってドンドンわかってくるんですよ。例えば『解体新書』ってあるじゃないですか。あんなのも元本は、当時いろいろ出てた本のパクリの集成で。それを日本人が初めて翻訳して、それで日本の解剖の文化ができたのか〜情けねぇな〜みたいな」
「買えば買うほど悲しくなる(笑)」
「で、悲しくならない方法をいろいろ考えて遂にたどりついたのが『難病を3つ抱えた子供の親だと思う!』と。…1ヵ月に何百万もかかるでしょ、そういう子供を持つと。その子供と親に比べたら、私は一冊くらいの本でメゲちゃいけないと。そう思うと不思議と怒りが鎮まるんですよ」
 そりゃそうだろうけど、その前にアンタが自分自身の病気治せよっ!
「しかし、それだけ本を買ってると置き場所にも困りませんか…?」
「それが意外と困らなかったんです。ウチの両親って子供3人が結婚した時のために家を買っておいてくれたんですけど、誰も結婚しなかったんで空いてるわけですよ。で、そこへ片っ端から詰めていって一杯になったら、今度は当時住んでいた出版社に置かしてもらうことになって。ま、今は神田の古本屋さんに大きい本は預かってもらってて、残りの半分は母校の慶応大学に譲りましたけど」
「でも、まだ膨大にあるわけでしょ。荒俣さんが死んだら、その蔵書は?」
「それが蔵書家にとって一番切実な問題でね。大学なり博物館なりに引き取らせてナントカ文庫にしてもらおうと思ってる人もいるけど、ダンボールに入れられて100年ぐらいそのまんまにされるのが関の山でね。じゃあ、自分の子孫に使わせようってことになるんだけど、親父が読んだ汚い本なんかに興味ないですよ」
「となると、残された選択は……?」
「売るしかないの。が、売るのも難しくて、一番嫌なのは悪い古本屋に1冊1円ね、じゃあ1万冊あるから1万円って。それで何も知らない遺族に『家3軒に詰まってたのにトータルで1万円だったの!?」とか言われたら悲しいよね。だから、死ぬ前に同好の士とか集めて、虫の息の中でオークションでもやらないと多分、一生集めてきた甲斐がないですよね」
 ちなみに、その同好の士が結託して全部を5000円ぐらいで競り落としたら、ドラキュラみたいに必ず生き返ってくるだろうな、この人……。】

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 「かなりの本好き」を自認しているつもりだったのですが、この荒俣さんの話を読んでいると、僕はまだまだ甘いということを思い知らされました。というか、荒俣さんはまさに「本の鬼」!
 僕も『帝都物語』を高校生くらいのときに10冊くらいは読んだ記憶がありますし、その作者・荒俣宏さんの博識っぷりは当時からよく知られていました。でも、このインタビューの荒俣さんの話を読んでいると、荒俣さんはもう、「自分の本への執着が客観的には異常であることを認識しつつも、もはや後戻りできず、『行けるところまで行く』ことを決心している人なのかもしれません。
 それにしても、「1500万円の読もうとすると崩れる本」を自分でお金を出して所有しようと思う人もいるのですね。荒俣さんの場合は印税もあるし、実家も資産家だからできることなのでしょうが、それにしても高いネタだなあ……この「本中毒」というのもかなりの難病のようです。
 もっとも、世界には数十億もする絵を個人所有したがる人もいるので、それに比べたら「安上がり」だと言えなくもないのですが。

 しかしながら、もともとの家の大きさはわからないのですが、「片っ端から詰めていって、家一軒が埋まるだけの本」って、一体どのくらいの量なのでしょうか?
 そもそも、本の置き場所にするためだけに家一軒犠牲にするという発想自体が、僕にはなんだか別世界の出来事のようにも思えます。一部屋くらいならともかく……しかも、それはあくまでも「通過点」だったのだし……

 こういうコレクションって、遺族にとっては、「1冊1円どころか、タダでいいから引き取って片付けてくれ……」って感じになっちゃうことも多そうなのですけどね。