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2007年06月14日(木)
「書店員のすすめる本」が注目される理由

『ダ・カーポ』607号(マガジンハウス)の特集記事「本屋さんがすすめるおもしろい本」の「書店員のすすめる本、なぜ注目される?」という記事より。

【いまや芥川賞、直木賞をしのぐ権威になりつつある「本屋大賞」。黒子的存在だった書店員が、”カリスマ書店員”として、表に出てくるようになってきたが、こうした書店員ブームはどこから出てきたのか? 永江朗さん(書店員経験のあるフリーライター)は、こう話す。
「一番大きいのは、新聞の書評が効かなくなったこと。広告もさほど効果が期待できなくなったと言われるなかで、口コミが一番強いと言われていますが、口コミに一番近いのが身近な存在である書店員さんのおすすめということなんだろうと思います。隣のお姉さん的な権威と言うか、評論家とか大学教授などの肩書きがある人が勧めるよりも読者には響いてくるんでしょう」
 80年代から90年代にかけて、書店の環境が急激に変化したことも背景にあると、永江さんは指摘する。
「昔は閉店後に書店員同士でよく飲みに行って本の話をしたり読書会をしたりしたものですが、書店の営業時間が延びて二交代制、三交代制になったため、書店員同士で飲みに行く機会もなくなってしまった。本屋大賞が生まれた背景の一つには、そういうことがあったと思います。本屋大賞を作れば、会ったこともない書店員とも、一つのイベントで盛り上がることができる。書店員の孤立感みたいなものを出版社側がたくみにすくって、書店員をスターに仕立てた。いわば、作られたブームという面はあると思いますね。

 出版点数が激増し、出版界全体の見通しがきかなくなったことも大きい。
「いま平均すると、一日で320点新刊が出てるんです。年間で約8万点。90年当時で年間4万点ぐらいですから、その倍になってしまっているんです。ところが、それだけたくさんの本が出ていると言われても、読者はピンと来ないですよね。一方、出版社は出版社で、本をたくさん出したものの、どういう理由で売れたり売れなかったりするかが、つかめずにいます」
 知らないところで本が次々に出ては消えていく。そういう感じが出版社にも読者の側にもある。その流れの中心にいて、出版社と読者の両側が見える存在が、取次や書店なのだ。
「年間8万点と言っても、初版3000部の本だと置かれる店はいわゆるカリスマ書店員がいるような大型店に限られてきます。カリスマ書店員なら全体を見渡すことができて、そのなかから面白そうな本をピックアップしてくれるんじゃないかという期待が、出版社側にも読者側にも、すごく高まっているんです」
 90年代後半ぐらいから盛んに言われ始めた”書店の個性化”も書店員ブームの要因になっている。
「書店員の個性が出るものといえばポップですが、あれを大きくしたのは、やはり<ヴィレッジ・ヴァンガード>。ポップのコピーライトセンスで本を売って、買う側もポップを書いたセンスを買うんだ、みたいなコミュニケーションが成り立ちましたよね。全国の書店にポップが浸透したことで、書店の側の主体が転換したのかもしれません」

(中略)

 新刊が年間8万点も出版される昨今、たしかに水先案内人がいないと迷ってしまいそうだ。では、身近な水先案内人=書店員と、うまく付き合うには?
「書店員が一番気を配るのは、何と言っても棚。この並びの意味分かってくれたかなというのは彼らの一番気になるところですから、棚の編集を味わうのが、書店員さんとのいい付き合い方だと思いますね」】

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 実際は、年間4万点だろうが8万点だろうが、「誰かひとりが読みきれるような分量ではない」ということにおいては、同じようなことなのではないかとも思えるのですが……

 しかし、これほど「本が売れない」とみんなが嘆いている時代にもかかわらず、自費出版・共同出版が身近なものとなったためか、「出される本の点数」は増えていく一方のようです。8万点のうちで、『ベストセラー』と呼ばれるような本は、マンガを除けば年間数十冊くらいのものでしょうから、「自分の書いた本を売って生活する」というのは、本当に「狭き門」なのですよね。

 これだけ多くの本が出ていると、読む側としても、8万冊をすべて吟味する、というわけにはいきません。『本の雑誌』や『ダ・ヴィンチ』のような「いま出版されている本を紹介するための本」は、すっかり「定番」として認知されてきましたし、インターネットでの「口コミ」も、かなりの影響力を持つようになってきました。まあ、テレビや新聞の書評の「影響力」というのも、まだまだバカにはできないみたいですけどね。有名人が「読んで感動した」というだけで、ベストセラーになることも少なくないですし。

 ここで永江さんが述べられている「書店の環境の変化」は、ずっと人口数万人〜20万人程度地方都市を渡り歩いて生活している僕も実感しています。30年くらい前の「本屋さん」は、駅の近くにある少数の大規模書店以外、「街の小さな本屋さん」が大部分で、僕は親に「大きな本屋さん」に連れていってもらうのをとても楽しみにしていたのです。
 ところが、20年前くらいからは「郊外型書店」が主流になってきて、いままでは19時、20時に閉まっていた書店が、22時、23時まで開いているようになりました。そして今は、レンタルCD、DVDショップとの複合店と都会の大規模書店が主役となっていて、僕が以前通っていた「郊外型書店」は、いつの間にかバタバタと潰れ、他の業種の店に変わっています。たまに街の小さな書店に入ってみると、雑誌とベストセラーとエロ本しか置いてなくて、困ってしまったりすることもあるのです。
 そういう「書店の営業形態の変化」に伴って、「書店員」という仕事も昔とは全然違ったものになってきているのでしょう。レンタルショップが併設されている店では、23時、24時閉店が当たり前ですから、さすがに「仕事を終えてから飲みに行く」のも辛いでしょうし。
 確かに、そういう「書店員たちの孤独感」と「書店員という仕事にやりがいを見出したいという気持ち」が、『本屋大賞』や「POPの隆盛」につながっているのかもしれません。もちろん、そこには「自分という存在を誰かに認めてほしい」という書店員さんたちの願いもこめられているのでしょう。「自分が勧めた本を知らない誰かが買って読んでくれる」というのは、やはり「書店員冥利に尽きる」だろうから。

 Amazonのようなネット書店と品揃えや便利さで勝負するのは難しい面があるので、リアル書店としては、「ネットでは、『検索』はできても『偶然の本との出会い』は難しい」という利点をアピールしていくしかなさそうです。ただ、ネット書店というのも、家で宅急便が来るのを待っていなければならないもどかしさや面倒くささがあるのも事実なんですが。

 いずれにしても、街の小さな本屋さんには厳しい時代が続きそうですし、書店員という仕事も「本の仕入れ、陳列とレジ打ちだけやればいい」という時代ではなくなってしまっているのです。子供の頃は、「好きなだけ本が読めるラクな商売」だと思い込んで、憧れていたのに……

 「昔も今も、給料が安いのと本の重さだけは変わらない」と言っていたのは誰だったかな……