初日 最新 目次 MAIL HOME


活字中毒R。
じっぽ
MAIL
HOME

My追加

2007年05月12日(土)
志村けんからタカアンドトシへの「アドバイス」

『月刊CIRCUS・2007年6月号』のインタビュー記事「志村けん、語る。」より。取材・文は長谷川晶一さん。

【インタビュアー:ひとつのことを続けた結果、今では「コント=志村けん」という状態になりましたね。

志村けん:金と時間がかかるコントは、もう誰もやらなくなったからね。昔はよく「マンネリだ」と批判もされたけどね(笑)

インタビュアー;確かに「ドリフはマンネリだ」という意見もよく聞かれました。

志村:でもね、マンネリであり続けることってすごく大変なことなんだよ。例えば舞台でもテレビでも、見ている人の期待、「次はこうなるよ」っていう期待を、そのとおりに演じるには技術が必要なんだよね。そして、たまにその期待を裏切って全然違うことをするから「あっ、そう来たか!」ってまた新しい笑いが生まれるんだから。

インタビュアー:「マンネリだ」という批判を恐れてはいけないということですね。

志村:以前、(ビート)たけしさんとも話したことがあるんだけど、ベタでわかりやすいネタって、タイミングだとか間だとか、腕が必要なんですよ。でも、今の笑いって意表を突いた笑い、一発ギャグだけでしょ。みんなマンネリになる前に終わっちゃうんだよね。

インタビュアー:その現状は不満ですか?

志村:今の若手は、お笑い専門じゃないからね。すぐにトークをしたり料理を食ったり、ネタをやらずに、お笑い以外のことに遊んじゃうからね。

インタビュアー:すると、若手で「面白いな」と思う人、「ライバルだ」と思う人はいませんか?

志村:ライバルはいないけど、面白いなと思うのは、タカアンドトシかな。彼らと一緒に飲んだこともあるんだけど、「欧米か!」のネタは絶対に「これからもやり続けろよ」って、アドバイスしたことがあるよ。つまり、それは「飽きるな」ということ。ギャグって、やっている本人たちがまず真っ先に飽きるもんなんだよね。僕なんかもそうだったけど「カラスの勝手でしょ」とか「ヒゲダンス」とかって、演じている本人が最初に飽きてくる。でも、日本全国に幅広く浸透するには、すごく時間がかかるんですよ。

インタビュアー:演じている本人と、それを受け取る世間との間に時差があるわけですね。

志村:時間差がすごくある。でも、浸透し始めて、そこで初めて本物になるんだと思うよ。だから、マンネリをバカにするな。マンネリを恐れるなということなんです。】

〜〜〜〜〜〜〜

 僕が子供の頃から、もう30年もお笑い一筋の志村さん。まあ、このインタビューに関しては、最近は志村さんもコントばっかりじゃなくて、バラエティ番組にゲスト出演したり、旅番組で「料理を食ったり」もされているのではないか、とも少しだけ感じましたけど。

 確かに、テレビ番組での「金と時間のかかるコント」は、どんどん少なくなってきています。お笑い芸人が司会をやっている番組でも、みんなで高級料理を食べたり、芸人が経済を解説したり、無人島でサバイバルするようなものが多くて、ネタをやる番組って本当に少ないですよね。もちろん、そういうことを「面白く見せる」のも「芸」なのだとは思うのですが。

 しかしながら、志村さんが追い求めているような「日本全国に幅広く浸透するギャグ」を作るというのは、今の状況では、なかなか難しいのではないかと思います。『エンタの神様』に登場する「エンタ芸人」たちのネタ(というか、ネタのフォーマット)は、『全員集合』の時代よりは、はるかに短い時間で全国に広まり、そして、ごく短期間で消費されつくしている印象があるのです。志村さんがここで語っておられるような「タイミングとか間」なんてことを芸人たちが考えなくてもいいように、『エンタ』の多くのネタは、パターン化されており、「マンネリだ」とみんなが意識する時間もなく消滅していくのです。実際は、あれはあれで、「素人でも忘年会の宴会芸などに応用しやすい」という大きなメリットがありますし、ある意味「芸のカラオケ化」なのかもしれませんが。
 そして、ここで志村さんが仰っておられるように、タカアンドトシは、「伝統的な」コンビなのでしょう。「欧米か!」が流行っていますが、彼らはそれを濫発しすぎないように、ものすごく気をつけているように見えますし。当たり前のことなのですが、彼らは、いつも同じシチュエーションで「欧米か!」とやっているわけではないのです。飽きられる時は必ず来るのだとしても。

 「ギャグって、やっている本人たちが真っ先に飽きる」というのは、志村さんのような経験者にしかわからないだろうな、と思います。みんなが「マンネリだ!」と言っているころには、やっている側は「もうウンザリ」だったりするのでしょうね。だって、そのギャグをいちばん多く聞かされているのは、やっている自分自身なのだから。

 実際には、「売れる」というの狭き門で、何年やっても誰にも見向きもされない芸人やギャグは星の数ほどあるのでしょうから、「マンネリ」だと言われるくらいの「みんなが知っているギャグ」がひとつでもある芸人っていうのは、それだけで幸せなのかもしれませんけど。