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2007年04月03日(火)
金沢21世紀美術館の「美術館革命」

「週刊SPA!2007/4/3号」(扶桑社)の「トーキングエクスプロージョン〜エッジな人々・第477回」金沢21世紀美術館館長・蓑豊(みの・ゆたか)さんのインタビュー記事です。取材・文は友清哲さん。

【インタビュアー:オープンから2年半。美術館として圧倒的な実績を上げていますね。

蓑豊:これまで、日本の美術館の平均的な年間入場者数はせいぜい7〜8万人でした。ところがウチは、この週末だけでも1万5000人も入ってるんです。これは誇れることだと思いますね。

インタビュアー:展示内容や館内の構造も、既存の美術館とは一線を画すものがあります。最大のコンセプトはどこに?

蓑:大人と子どもが同じ目線で楽しめるということ、これが大切なんです。美術館というと、どこか威張ってるようなイメージがあると思うのですが、それでは良くない。ウチの場合、まず立地からして、周囲の道路から2m下げ、道行く人が少し見下ろせるような造りになっている。建物そのものに威圧感がないんです。だから人が入りやすい。

インタビュアー:来場者が老若男女幅広く、幼稚園児や小学生の姿も目立ちますね。

蓑:よくあるお堅い美術館のように、ちょっと騒いだだけで学芸員から「シーッ!」と怒られるようなことがありませんからね。いわば、子どもが走り回ってもいい美術館なんです。展示室の監視スタッフが警備員の制服ではなく、オリジナルのコスチュームを着ているのも、子どもを萎縮させないための配慮です。

インタビュアー:国内の美術館では、これまでなかった考え方ですね。

蓑:僕は以前、アメリカで26年ほどアートに携ってきましたが、海外ではこうしたスタイルは当たり前なんです。だから日本へ帰ってきたときには愕然としましたね。欧米では美術館が街のシンボルとして認知されているのに、日本の美術館には子どもも家族連れも若者もいない。そうした状況を、美術館側も「高尚な作品だから仕方がない」「理解できる人が少ないんだからしょうがない」と考えているきらいがある。それでは人が集まるわけがないんです。

インタビュアー:既存の美術館は著名な作家の企画展などで、短期集中的に入場者数を稼ぐイメージがありますが、金沢21世紀美術館はそうではないですね。

蓑:ルノワール展とかゴッホ展とか、やればそれなりに人は集まると思いますよ。でも、これだけ海外旅行が盛んな世の中で、海外へ行けば観られるものを、わざわざ、何億、何十億とかけて集めるやり方には疑問を感じているんです。

インタビュアー:美術館にとって、あまり良い方法ではないと?

蓑:良くないですね。だって、終わったら閑古鳥というのがこれまでのパターンですよ。美術館というのは、普段から肩肘張らずにぶらっと立ち寄れるような、日常生活の中に存在していなければダメだと思う。その点、ウチは有料ゾーンと無料ゾーンに館内が分かれていて、お金を払わなくても観られる作品がたくさんある。人気の<タレルの部屋>だって無料で入れるんです。おまけに館内の仕切りが基本的にガラスですから、有料ゾーンが少し覗けるのも良かったと思います。

インタビュアー:そのあたりはビジネス的な戦略でしょうか?

蓑:そうですね。例えばエルリッヒの<スイミング・プール>という作品は、プールの水面を境界に、水の上からは無料で観賞することができ、下(プールの底)に行って水面を見上げるのは有料になっています。水面の下から洋服を着たままの人が手を振っていたら、不思議に思って自分もそこへ行きたいと思うのが、人の心理ですよね(笑)。もちろん、こんなに面白い作品はそうそうないですから、いろんな人に観てほしい、観せてあげたいというのが一番の目的ですけど。

インタビュアー:金沢21世紀美術館は市営ですが、やはり収益性というのは重視されるものなのでしょうか?

蓑:それはもちろん。税金で運営されていて、年間約7億円の運営費がかかってるわけですから。それでも現状のように、入場収益が年間2億円くらいもあれば、市民の方々も安心するでしょ? おまけに、この美術館を訪れる人が運賃を払って金沢へ来て、泊まって、食べて、飲んでと、お金を落としてくれるわけです。外部の機関の試算では、本館初年度の美術館運営。来館者支出に伴う経済効果は年間111億円と出ましたからね、これは大きいですよ。

インタビュアー:それは市民に愛される大きな理由のひとつになりますね。

蓑:学校帰りや会社帰りに立ち寄って、<タレルの部屋>でぼんやり空を眺めてくつろいだり、生活の中で自然に親しんでくれていますよ。これまで美術館というと、税金の無駄遣いなんて思われがちでしたから、そういった偏見を打破したかったんです。】

参考リンク:
金沢21世紀美術館(公式サイト)

金沢21世紀美術館(by 癒しの美術館探索)(「タレルの部屋」や「スイミング・プール」の画像など)

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 僕はこの「金沢21世紀美術館」の存在を知らなかったのですけど、この記事を読んで、ぜひ一度この美術館を訪れてみたいなあ、と思いました。そして、こんな美術館があるなんて、金沢の人たちが羨ましいなあ、とも。北海道・旭川の「旭山動物園」にしてもそうなのですが、地方都市が既存の「動物園」や「美術館」の固定観念を打破していっているというのも、なんだか興味深い話ではありますよね。

 人口45万人の金沢市にあるにもかかわらず、開館わずか2年半で来場者が330万人を突破したという、この「金沢21世紀美術館」なのですが、その大成功の原動力になったのが、この蓑豊館長だったそうです。美術館の「価値」「集客力」の違いというのは、「立地」と「展示物の質と量」が全てなのではないかと僕は考えていたのですが、この蓑さんの話を読んでいると、「展示物の見せ方」や「『普通の市民』に親しみを持ってもらうための有料・無料ゾーンの設定」、さらには、「威圧感を与えないための立地や建物の造りかた」まで、工夫できるところは本当にたくさんあるのだな、と驚いてしまいました。確かに、日本の多くの公営の美術館は(いや、私営のものも大部分は)「展示物を観せてやってるんだぞ」という感じで、来館者は「監視されている」ようにすら感じますよね。まあ、美術館好きの僕としては、「子どもが騒いだり、学校帰りのカップルがイチャイチャしている美術館」というのも、それはそれで興醒めしそうではあるのですけど。

 ごく一部の「世界的に有名な収蔵物を誇る美術館」であれば、こんな工夫をしなくても良いのでしょうが、実際は、地方の美術館というのは「誰も観に来ないような常設展示物」+「ときどき開催される有名画家の特別展」で運営されているところが大部分。そして、「特別展」での入場者数で、なんとか帳尻を合わせているのです。でも、この蓑さんの話には、「地方の美術館は、大都会の有名美術館の劣化コピーである必要はないんだ」という強いメッセージを感じますし、地方の、有名画家の作品がひしめいているわけでもない美術館にこれだけの人が訪れるのには、この美術館の「雰囲気」がとても魅力的だからなのでしょう。金沢という場所から考えても、リピーターがかなりいなければ、こんなにたくさんの入場者数は得られなかったはずですし。

 ただ、この「金沢21世紀美術館」も、こうして「時代の寵児」になってさらに賑わってしまうと、きっと今までみたいには、地元の人たちが館内でゆっくりくつろげなくなってしまうんでしょうね。それはそれで、ちょっと残念な話ではあります。