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2006年11月27日(月)
「行列をつくるラーメン店」の舞台裏

「週刊ファミ通」(エンターブレイン)2006.12/8号のコラム『伊集院光接近につき、ゲーム警報発令中』(伊集院光・著)より。

【このあいだテレビのラーメン特番を観ていたら、ラーメン店の開業をプロデュースするプロと称するオヤジが、脱サラしてラーメン店を始めることにしたオヤジに、店舗の設計図を見ながらのダメ出し。「駄目だよ、こんなに座席を多くしたら、多少お客さんが入ったとしても空いてる感じがするし、行列もできないよ。座席はもう少し減らして入り口を広くする。そうすると外で待っている連中にもよく見えるし、臭いが行くでしょう」だとさ。何が言いたいかというと、「そろそろ”行列”=いい物、いいこと”という取り上げかたは終わりにしませんか?」って話。
 先日のプレイステーション3の発売のときもそうだったし、大人気ソフトが発売されるときはいつもそう。このさきWiiやWindows Vistaとかが発売されるときもきっとそうだろうけど、「○○がついに発売。家電量販店の前には長蛇の列ができました。大人気です!」みたいなニュースを必ず見かける。人気がなければ行列なんてできないだろうから、人気があるのは本当の話だろうけど、いまの世の中、工夫をすれば、行列なしで物を売ることなんてできるだろうに……。
 最初に書いたラーメン店よろしく、そういう現象を作り出してニュース番組で取り上げさせることで、それを見た本来その商品にまったく興味がなかった人にまで「すごいモノが出たらしいぞ」と思わせる。ここまで想定済みと思われる企業のやりかたに、マスコミがまんまと乗るのはどうなんだろう。中には「店頭で先着順に売ればこうなることはわかっているのに、近隣住民に迷惑をかけてまでお祭り騒ぎを演出するメーカーや店舗のやりかたに問題はないのでしょうか?」とか言う切り口だってあっていいと思う。まあ「テレビのスポンサーはどこ?」って考えれば絶対ないか。挙げ句の果てには、インターネットオークションで法外な値段で転売って……。
 ちなみに、プレイステーション3は10万台弱出荷したうちの約5000台がネットオークションに出品されていた。ニンテンドーDS Liteもいまだに店頭では品薄で、ネットでは転売の嵐だし……。どうにかならないのかね、人気ゲームの販売の現状は。】

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 この「ラーメン屋プロデューサーのオヤジの話」などを読んでいると、「わざわざ座席を減らして客を行列させるような店になんて、誰が行くか!本当に味に自信があるんなら、座席増やしたほうが儲かるはずだろ?」と憤ってしまうのですけど、「行列」には、たしかにある種の宣伝効果があるのも事実なんですよね。
 例えば、初めて行くデパートのレストラン街で、1件だけ大行列の店があって、残りの10件は閑散として店主が頬杖ついてタバコとか吸っていたとします。もしそのレストラン街の店について全く予備知識が無かったとしても、「行列している店がものすごくおいしい」のか、「それ以外の店がよっぽどひどい」かのどちらかだと、ほとんどの人が想像してしまうはずです。「行列のできる法律相談所」なんていう人気テレビ番組があるように、「行列」というのは、ある種の「信頼」だというふうに考えられてもいるわけです。
 それにしても、伊集院さんも書かれているように、現代の日本では、「発売日に朝早くから(あるいは、前日の夜から!)行列しなくてもすむような方法」というのは、いくらでもあるはずです。例えば、コンサートのチケットのように電話予約にして、予約番号を店頭で言えば引き取り可能にすることだってできるでしょうし、最初から予約のみの受付にしてしまうことだってできるでしょう。むしろ、発売時の混乱を避けるために、そうしている店のほうが多いはずです。
 でも、世間的に大きく「報道」されるのは、ごく一部の「発売日に大量に店頭販売をする店」のほうで、結局、量販店側にとっても宣伝になるために、「行列販売」は、「ドラゴンクエスト3」の時代から、ずっと続いてきているのです。たぶん、メーカー側も販売店側も、これを「改善」しようという意思そのものが、今のところはないのでしょうね。

 しかしながら、その一方で、買う側としても「行列してまで買う喜び」というのがあるのも事実。今回の「プレイステーション3」なんて、少なくとも今の段階では、「ハードを買っても、遊びたいゲームがない」という人がほとんどにもかかわらず、「とりあえずハードだけ買う」ために大行列する人があれだけいるのは、ちょっと信じがたい気もするのですけど。
 そういえば、僕が以前、仕事でディズニーランドの近くに行ったとき、平日にディズニーランドで遊べる機会があったのですけど、夏休みなどの長期休暇中でも週末・祝日でもないディズニーランドは、閑散とはしていないまでも人が少なく、あらゆるアトラクションに30分以内、大部分は待ち時間無しで乗ることができたのです。
 でも、あっという間に人気アトラクションを「制覇」した僕は、「なんかちょっと物足りないなあ……」と感じたのですよね。日頃、「目的の店に行列ができているだけでUターンしてしまうくらいの行列嫌い」なのに。
 たぶん、「行列」することそのものが、ひとつのイベントであり、そうやって何かを手に入れるというプロセスが大事だったりするんですよね、行列する人たちにとっては。考えてみれば、本当に「手に入れたい」だけだったら、早い時期にちょっと田舎の電器屋や玩具屋を回って予約できる店を探したほうが買える可能性ははるかに高いはずなのに、多くの人が、わざわざ「売る側の計画通り」に行列するのだから。
 どんな人気ゲーム機でも、いずれは、行列しなくても買える時期がやってきます。売るほうだって「商売」ですから、いつまでもビジネスチャンスを放置しておくわけもなく。

 伊集院さんはこんなふうに書かれているし、僕もその「行列なんて必要ないだろ!」という意見には賛成なのですが、もし僕に仕事がなくて、あんなふうに「プレステ3の発売日に朝から行列できる状況」にあったとしたら、1回くらいはあんなふうに行列して何かを手に入れてみたいな、という気持ちもあるんですよね。本当は「行列していられるヒマなやつらが恨めしい……」という妬みも少しはあるのです。あれも一種の「夜のピクニック」だよなあ。
 まあ、僕が行列できるくらいヒマだったときには、あんな高いゲーム機を買うためのお金が無かったわけで、いずれにしてもテレビの前で悪態をつくことしかできなかったのかもしれませんが。