初日 最新 目次 MAIL HOME


活字中毒R。
じっぽ
MAIL
HOME

My追加

2006年11月16日(木)
「エンターテインメント後進国」の「橋を渡れなくなった男」

「CONTINUE Vol.30」(太田出版)のインタビュー記事『電池以下』(吉田豪・文、特別ゲスト・掟ポルシェ)の「第31回・カイヤの巻」より。

(吉田豪さん、掟ポルシェさん、カイヤさんの対談記事の一部です)

【吉田豪:カイヤさんは毒舌キャラだと思われてますけど、実像は全然違うみたいですね。

カイヤ:私が芸能界へ入る前にそうなっちゃったから、急に「嘘でした」ってテレビで言えないし、それからは演技しなくちゃいけない。テレビ出たら演技しないとつまんないから。エンターテインメントは大事だと思います。でも日本人、そのギャップわかんない人は可哀相ね。だって、道を歩いてても「あなたの旦那、もっと大事にしなさいよ!」「テレビで見たわよ、あなた、旦那の物を捨ててるでしょ!」って始まって。「それ、テレビですよ」って言っても全然わかんない。全部信じてるからね。

吉田:もしかしてアメリカだとそういうことはないんですかね。たとえば向こうのプロレスはエンターテインメントだと理解されてますけど、日本ではずっとシュートファイトだと思われてきたし、テレビに関しても日本人は本気にしがちなのかなって。

カイヤ:全部本当と思ってるね、どうしてだろう? 私がプロレスリング始めたときも「大変!」「やめたほうがいいよ!」とか。

掟ポルシェ:「殺されちゃうよ」みたいな(笑)。

カイヤ:そうそう(笑)。テレビもそうだけど、全部信じてるわけね。わかんないのね、エンターテインメントっていうことが。他の国はどこでもわかると思いますけど。テレビ出てそういうことをするのは、エンターテインメントの仕事をしてるだけで。

吉田:特にアメリカはエンターテインメントの国ですからね。実はこの人(掟)もテレビに出たことで誤解されてるんですよ。

カイヤ:あ、ホント? どういうの?

掟:いままではライブの合間にちょっと面白い話をする程度のミュージシャンだったんです。そしたら面白い話の部分ばかりがクローズアップされてて、テレビで全国の川をフンドシ一丁で泳いで渡る「男は橋を使わない」って企画をやったら、どこに行っても「今日は川を泳いで来たのか?」って言われて。普段ちょっと橋を渡ったり、普通に歩いてると文句を言われるんですよ。

カイヤ:大変ねえ(笑)。】

〜〜〜〜〜〜〜

 【テレビもそうだけど、全部信じてるわけね。わかんないのね、エンターテインメントっていうことが。他の国はどこでもわかると思いますけど。テレビ出てそういうことをするのは、エンターテインメントの仕事をしてるだけで。】なんていうカイヤさんの発言は、なんだかいかにも「アメリカが世界標準!」みたいなアメリカ人的発想で、僕はちょっと嫌な感じはしたのですけど、確かに、テレビでやってることを全部「真実」だと思われたら、タレントというのは辛いですよね。ドラマで主人公を苛める役だった女優さんが、日常生活でも「酷い人」だと近所から思い込まれてしまったりすることもあるみたいですし。
 そりゃ、掟さんだって、橋に出くわすたびに泳いでいたら、身がもちません。

 しかしながら、ここでのカイヤさんの発言に対して、僕は正直「空気読めよ……」と感じてしまいました。いや、誰もカイヤさんに対してプロのレスラーたちが本気で闘うなんて思ってはいないのですが、それでも、本人の口から、「エンターテインメントなんだから……」と宣言されてしまうのは、なんだかとてもつまらないことのように思えます。100%のフィクションと、99%のフィクションの間には、(少なくとも日本人にとっては)非常に大きな壁があるのです。「カイヤは殺されちゃうかもしれない」と恐れおののく人たちこそが、日本のエンターテインメントを支えているのですから。僕は、どうせ騙すのなら、本気で騙して欲しいなあ。

 まあ、バラエティ番組での「鬼嫁伝説」を全部鵜呑みにされるのはかわいそうだし、テレビでやっていることは、現実とは分けて楽しめたほうがいいのでしょうが、それでも、「あれはテレビの中だけのエンターテインメントだから」っていうのは、やっぱり、多くの日本人にとっては馴染みにくい発想ではありますよね。