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2006年11月01日(水)
赤川次郎さんの『セーラー服と機関銃』執筆秘話

『ダ・ヴィンチ』2006年11月号(メディアファクトリー)の長澤まさみさんと赤川次郎さんの対談記事より。

【赤川次郎:『セーラー服と機関銃』はね、なんとなく薬師丸(ひろ子)くんをイメージしながら書いていたんです。彼女が当時、14歳くらいだったのかな? 映画化が決まったときに彼女が演じることになったと知って、大変驚いた記憶があります。

長澤まさみ:そうだったんですね。私にとって『セーラー服と機関銃』は、やっぱり薬師丸ひろ子さんが機関銃をぶっ放して、「カ・イ・カ・ン」と言う、あのシーンのことしか知らなかったんです。だから、台本を読んで、なぜ薬師丸さんが機関銃を持ったのか、その意味がはじめてわかりました。「ああ、そういうことだったのか!」って。

赤川:長澤くんは長澤くんの、新しい星泉ができたと思いますよ。

長澤:そう言っていただけて、安心しました(笑)。

赤川;映画から25年も経っているので、これまで何度かちらほらとドラマ化の話もあったんですが、前のイメージが強すぎることもあって、お断りしていたんです。こういうものはプロデューサーの熱意によるところも大きいですから、今回はそれがとても感じられたことと、主役が長澤さんだということで承諾させていただきました。

長澤:ありがとうございます。

(中略)

長澤:赤川先生が『セーラー服と機関銃』をお書きになったのは……。

赤川:28年前、あなたが生まれるずっと前です(笑)。いま読んで、28年前の本なんだなあと感じるのは、公衆電話がダイヤル式なんですよね。プッシュフォンですらない。

長澤:ドラマでは、携帯電話が出てきますよ。

赤川:いまは携帯電話を持っていないと、不自然になっちゃうよね。本のなかにはダイヤルを回す指が汗ですべっちゃうシーンがあるんだけど、ある年齢の人たちには懐かしいかもしれない。

長澤:でも、高校生の女の子がやくざの親分になることも、セーラー服と機関銃の組み合わせも、いまでも十分斬新な設定ですよね。

赤川:なかなかない役かもしれませんね。コメディの要素もあるし……。

長澤:サスペンスの要素もありますもんね。いったい、どんなふうにこの物語は生まれたんですか?

赤川:最初にタイトルを決めたんです。単行本で書き下ろすことが決まっていて、編集者から「タイトルだけ先にください」と言われたんですよ。ちょうどそのまえに映画のプロデューサーの人と話をしているときに「絶対に結びつかないものをくっつけると、面白いですよ」と言われて。はじめから主人公は女子高生にしようと考えていたから、それで女子校生にいちばん縁がなさそうなものってなんだろう……と考えました。そして思いついたのが、機関銃。『セーラー服と機関銃』なら、語呂もいいな、と。

長澤:えっ? じゃあ、最初から物語の構想があったわけじゃないんですか?

赤川:ええ。タイトルからお話をつくったんですよ。

長澤:本当ですか?

赤川:タイトルの次に考えたのは、どうやって機関銃を持たせようかということでした。女子高生が機関銃を撃ちまくっても自然になるようなお話にしなくちゃいけないから、それならやくざの親分にしちゃえ、という感じで。

長澤:逆の発想で生まれたんですね。それにしても、すごい。

赤川:もともとファンタジーとして楽しんでもらえればと思っていたんです。そもそも、女の子が機関銃を撃ったりしたら、重いのと反動とでひっくり返っちゃうでしょう(笑)。

長澤:撮影のときは、もちろん本物ではなかったので、重たく見せるのに苦労しました。あと、危ないものだから大切に扱っている感じを出そうと思って……。でも、機関銃のような危険なものは世のなかにないほうがいいなあと心のなかでは考えていました。】

〜〜〜〜〜〜〜

 裏番組として『デスノート』の映画版をぶつけられるなど視聴率的にはやや苦戦気味と伝えられている長澤まさみさん主演のドラマ版『セーラー服と機関銃』なのですが、この作品、薬師丸ひろ子さん主演の1981年公開の映画、原田知世さん主演の1982年のドラマから、24年目のリメイクということになるのですね。赤川さんの話によると、これまでにも何度かリメイクの話があったようなのですが、「映画のイメージが強すぎるから」ということで、ずっとリメイクを断られてきたそうです。まあ、薬師丸ひろ子さんが「ちょっとお姉さん」だった僕たちもすっかりいい大人どころじゃない年齢になってしまいましたから、さすがに「時効」だということでしょうか。

 2人の対談で僕がいちばん驚いたのは、赤川さんが、この大ヒット作品を「タイトルからつくっていった」というお話でした。それも、もともと女子高生が主人公の話を書こうとしていたところ、編集者に「タイトルだけでも」せかされたため、「面白いタイトルにするために、『女子高生』と最もかけ離れた単語と組み合わせてみた」のがきっかけだったなんて!
 それからの作品の組み立て方も、「まずタイトルありき」で、「じゃあ、女子高生に機関銃を持たせるにはどうすればいいか?」と考えた挙げ句、あの「目高組」という設定が生まれたのだとか。

 僕が普段考えているような、「まず登場人物と設定を考えて、ストーリーを練って、最後にタイトルをつける」というような流れとは、確かに「逆の発想」です。「まずタイトルが思い浮かんだ」場合でも、編集者にそれを伝える段階では、それなりのプロットくらいは準備ができているのが「普通」なのではないでしょうか。

 一般的には曲のほうからつくられることが多い歌謡曲にも「歌詞が先につくられるパターン」というのがあるそうなのですが、小説にも、こういう書き方があるんですね。もちろん、これは当代きっての大人気作家、赤川次郎さんだからできる「職人芸」なのかもしれませんけど、これを読んで、赤川さんがあんなに多作だったのも理解できるような気がします。まあ、赤川さんのすごいところは、そうやって生まれた作品たちが、軒並み大ベストセラーになっているところなのですが……

 僕は中学くらいのとき、赤川さんの作品ばかり読んでいる(というか、赤川作品しか小説を読まない)女子を「コバルター」(赤川さんの作品の多くは「コバルト文庫」から出ていたので。しかし、今から考えたら「コバルテス」かもしれないな)と名づけて内心バカにしていたのですけど、さすがに往時の勢いはないものの今でも現役で大活躍されている、この「ベストセラー職人」は、やっぱりタダモノではないみたいです。先入観抜きで読んでみると、けっこう面白い作品もたくさんあったものなあ。