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2006年09月05日(火)
アメリカ人にとっての「大食い選手権」

「本の雑誌」(本の雑誌社)2006.8月号の「連続的SF話・265」(鏡明著)より。

【うーんと、次は「Eat This Book」著者はRyan Nerz。
 IFOCEの歴史を書いた本なんだけれども、タイトルを見たとき、アビー・ホフマンだったっけ「この本を盗め!」というタイトルの本があったことを、思い出した。アメリカのカウンター・カルチャーの黄金時代ですね。と言ったところで、わかる人は、ほとんどいないんだろうな。
 IFOCEは、「International Federation of Competitive Eating」という団体の略称。ごらんのとおり、「大食い競技国際協会」ということ。1997年に設立されたっていうから、テレビ東京とどっちが早いかっていう感じかな。あ、局ではなくて「大食い選手権」の方ね。
 小林尊が、ニューヨークのホット・ドッグ早食い大会でチャンピオンになったというニュースをテレビで見たときに、アメリカでも同じようなことをやっているんだなと思ったのだけれども、こんな協会があるなんて、知らなかった。で、この本を買ったのは、もちろん、IFOCE(アイ・フォースと読む)この団体のことを知りたいと思ったからだけれども、それ以上に、巻末に挙げられている競技とチャンピオンのリストが、欲しいと思ったからだ。だって、馬鹿なんです。ウインナ・ソーセージ、アスパラガス、ベークト・ビーンズ(スプリントと長距離の2種類がある)、牛タン、バースデイ・ケーキ(!)、バター、キャベツ、フライド・ポテト、ホット・ドッグ、ハンバーガー、スパム、おにぎり、タコス。うーん、これで、半分もいっていない。アメリカ人の食卓に、あるいは、口に入るものすべてが、競技の対象になっているんじゃないか。
 で、こんなものが、団体として成立するなんて、ありえないと、思うでしょ。でも、たとえば、フライド・チキンの大会は、何と、アイスホッケー用の会場で行われて、2万人以上の観衆が集まるんだってさ。アメリカではNASCARという普通の車のレースが人気だけれども、同じことで、あ、おれでも出られるかも、という気持ちになるのが、人気の理由だという。
 面白かったのは、初期の大会では、だいたいデブの男がチャンピオンになっていたのだけれども、2004年のフライド・チキン競技で、ソニヤ・トーマスという50キロもないような女性がチャンピオンになり、デブの夢を打ち砕いたという。そして、何よりも、小林をはじめとする日本人チャンピオンの出現が、ショックだったらしい。ちなみに小林尊はIFOCEのランキング1位だとか。初めて、日本人競技者に敗れたアメリカ人のチャンピオンの感想は「パール・ハーバーの再来だ!」
 何か、インチキがあるのではないか。あんなに小さな日本人が、あんなに食べられるのは、おかしい! あいつは、手術で第2の胃を移植しているとか(牛か!)、もう一列、歯を移植しているとか(エイリアンだろ、それは!)、ドラッグを使っているとか、色々な噂が出た。中には、この日本人たちの秘密を知るために、独学で医学の勉強をはじめ、論文まで書いてしまった元チャンピオンもいる。本気なのである、アメリカ人は。】

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 「フライド・チキン大食い大会」に、2万人以上の観衆が集まるなんて、アメリカでの「大食い選手権」人気は凄いのだなあ、と驚いてしまいました。まあ、諸外国、とくに食べものがそんなに豊かでない国からすれば、日本での「大食いブーム」というのも、かなり異常なものではあったと思うのですが。しかも、あのテレビ番組って、美味しそうな食べ物をやたらと参加者が詰め込みまくっていたので、やっぱり「味わって食べないのは勿体ないなあ」とはすごく感じました。そりゃあ、口に入れたら吐き出したくなるような食べ物で「大食い」をやるのは難しいのでしょうけど。
 日本では、「大食いの人」は、さまざまな食べ物に対するオールラウンドな適性が求められるのに対して、アメリカでは「種目別」になっているみたいなのです。ベークト・ビーンズに至っては、「スプリント」と「長距離」にまで分かれています。陸上競技みたいだ……
確かに大食いの人にもそれぞれ「得意な食べ物」がありそうなので、ベストパフォーマンスを見るという意味では、この方がいいのかもしれません。逆に日本の場合は、「苦手なものをどう克服するか」というのに興味を持つ人が多そうです。
 それにしても、バターやキャベツの大食いなんて、まさかバターをそのまま飲み込んだり、キャベツを丸ごとかじったりするのでしょうか?
 
 この文章を読んでみると、アメリカ人というのは、日本人のように「至高のもの」を喜ぶばかりではなく、「自分に手の届きそうな競技でがんばる人々」を観るのも好きなのだな、ということがよくわかります。モータースポーツにしても、日本人は最高峰であるF1には非常に人気があるのですが、NASCARのような「普通の車のレース」に興味を示す人というのはごくひとにぎりのマニアだけですし。そして、そういう「身近な英雄」が、日本からやってきた男に打ち負かされるのは、とても悔しいものだろうなあ、というのもよくわかります。
 僕も小林尊さんがどうしてあんなに食べられるのか本当に疑問だし、本当に「第2の胃」でも移植していてくれれば、僕も彼らもスッキリできるのでしょうけどねえ。まあ、そんな大手術をしたら、かえって食べられなくなるとは思いますが。