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2006年08月04日(金)
アメリカ製品についている馬鹿げた法的警告

「訴えてやる!大賞〜本当にあった仰天裁判73」(ランディ・カッシンガム著・鬼澤忍訳・ハヤカワ文庫)より。

(「警告したぞ!」というコラムから)

【毎年、ミシガン訴訟乱用監視団によって「おかしな警告表示コンテスト」が開催されている。その目的は「訴訟および訴訟への懸念のせいで、常識でわかることを製品で警告せざるをえなくなっている現状を明らかにする」ことである。アメリカ製品についている馬鹿げた法的警告をいくつか挙げてみよう。

●「体を洗うのには使わないでください」―トイレ用ブラシ

●「乗ると動きます」―子供用キックボード

●「動作中は、刃から食物などを取り除かないでください」―料理用電動ミキサー

●「子供を乗せたまま折りたたまないでください」―ベビーカー

●「すべての説明、注意書き、警告を理解できない、あるいは読めない場合は使わないでください」―ビン入り排水管クリーナー

●「緊急時に消音機能を使わないでください。音が止んでも火は消えません」―煙探知機

●「注意:燃える恐れがあります」―暖炉用の薪

「警告表示が訴訟に悩まされる現代社会の象徴です」とミシガン訴訟乱用監視団のロバート・ドリゴ・ジョーンズ代表は言う。監視団のウェブサイトでは、馬鹿げた警告表示の投稿を受け付けている。 (出典」:mlaw:org)】

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なんだこれは!と思わず笑ってしまったあとに、なんだか悲しくなってくるような話です。「説明や注意書きを読めないなら使うな」って、読めない人は、この警告そのものも読めないのでは…とかも、つい考えてしまうのですけど。
 それにしても、薪に「燃える恐れがあります」っていうのは、かなりシュールな「警告」ですよね。燃えなかったらクレームをつけられた、というのならともかく、「じゃあ、何のための薪なんだ?」と。もしかしたら、自然発火した事例でもあったのでしょうか。
 世の中には、濡れた飼い猫を乾かそうとして電子レンジに放り込んで死なせてしまい、「電子レンジの説明書には、猫を乾かすのに使うなとは書いていなかった」ということで裁判になったという「都市伝説」もあるらしいので、それこそ、「人間がやる可能性がある、あらゆる行為に対して、あらかじめ警告しなければならない」ようになりつつあります。
(ちなみにこの「電子レンジ猫事件」は、作り話らしいです。僕も今回調べるまで、事実だと思いこんでいました)

 この本の中には、停車している車の中で、マクドナルドのコーヒーを膝の間に挟んでいたところ、それをこぼしてしまって大やけどを負い、マクドナルドに対して『コーヒーが熱すぎる』という訴訟を起こして勝訴したステラという女性の訴訟など、数々の「それは自己責任じゃないの?」と言いたくなるようなたくさんの訴訟の事例が紹介されており、「とりあえず訴えてみる」という人はけっして少なくないのだな、と暗澹たる気持ちになってしまいます。「訴えられる側」のリスクに比べて、「訴える側」が失うものは、それほど多くないことが多いですし。結局、企業側としても、バカバカしいと思いつつ、「説明責任」を果たすために、こういう「警告」を書かなければならないのは、ものすごく悲しいことですよね。これは「ユーザーのための警告」というより、「訴えられない、あるいは訴えられても大丈夫にしておくための警告」でしかないのだから。
 そして、「取扱説明書」はどんどん分厚くなっていき、誰もそんなものは読まなくなってしまうのです。最近の電化製品なんて、たいがい正式の「取り扱い説明書」の他に「ひと目でわかる簡単操作説明」が付属していますしね。
 
 それにしても、非常識な使用法をしていたにもかかわらず訴訟を乱用する人たちがいて、訴訟乱用監視団がいて、そして、その監視団の活動を観察している僕たちがいて、という構図は、なんだかとても虚しいイタチゴッコのような気がしてなりません。訴訟というのは「弱者にとっての最後の砦」であるのは事実ですが、「訴えるためのあら探し」と「訴えられないための企業努力」なんていうのは、もっとも不毛な時間と資源の使い方のように思われるのです。