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2006年07月02日(日)
ワールドカップと「隣人愛」

「Number・Germany 2006 World Cup Special Issue3」(文藝春秋)の木崎伸也さんのコラムより。

【6月16日、シュツットガルト。コートジボワールに勝利したオランダ代表のサポーターが、路面電車にゴトゴトと揺られて、中央駅に向かっていた。決勝トーナメント進出が決まって、みんな嬉しそうに笑顔で話している。
 そんなオレンジ一色に包まれた車両で、ドイツ人の若者5人が歌い始めた。
「残念オランダ、全ておわり♪ 全ておわり♪」(Schade Holland, alles ist vorbei, alles ist vorbei)
 これは相手を馬鹿にするときのドイツでは定番の歌。完全な嫌がらせだ。黙って電車に乗っていればいいものを、オランダ人が得意気になっているのが気に食わないらしい。
 最初は苦笑いしていたオランダ人たちも、さすがに堪えかねて反撃を始めた。
「残念ドイツ、全ておわり♪ 全ておわり♪」
 オランダ人もドイツ人も、口は笑っているのだが、目が全然笑っていない――。殴り合いになる前に中央駅に着いて、事なきをえたのだが。
 今大会だけでなく、ドイツとオランダは歴史的に不仲である。'88年のユーロ準決勝では、負けたドイツの選手側がオランダとのユニフォームの交換を拒否。唯一、オラフ・トーンが、ロナルド・クーマンにドイツのユニフォームを渡したら、あろうことかクーマンはユニフォームで、尻を拭くジェスチャーをした。
 '90年W杯で対戦したときは、ライカールト(現FCバルセロナ監督)が、フェラーにツバを吐きかけた。この試合終了後、ドイツとオランダの国境沿いの町で、若者同士のケンカが一斉に起こり、暴動になったという。
 今回もオランダのある会社が、オレンジ色の"ナチス型"ヘルメットを売り出し、「これでドイツを侵略せよ!」とキャンペーンを展開。オランダの試合会場となったライプチヒの市長は「そのヘルメットを被ってきたら、街に入れない!」と警告していたが、オランダ人は堂々と被ってきた。いつどこで新たな因縁が生まれてもおかしくない。
 ファン同士の衝突といえば、あの国を忘れてはいけないだろう。街中ですぐに上半身裸になり、ビール片手にゴッド・セーブ・ザ・クイーンを歌うあの人たち……イングランドサポーターだ。今回も早速、彼らがやらかした。6月10日のイングランド対パラグアイ戦の前日、フランクフルトの街中で、ドイツ人の若者とイングランドのグループが大乱闘。20人が逮捕される"今大会初の事件"を引き起こした。】

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 「スポーツは政治とは関係ない」というのが理想ではあるのですが、現実というのはなかなかそううまくはいかないみたいです。ここで取り上げられているドイツやオランダ、イングランドのサポーターたちにしても、別に双方のチームが試合で直接対戦しているわけでもないにもかかわらず、こんなトラブルが起こってしまうのですから。
 それにしても、ドイツとオランダは隣国にもかかわらず(隣国だから、なのかもしれませんが)、かなり深刻に「歴史的に不仲」なのですね。「試合でもユニフォームの交換を拒否」だとか「ユニフォームで尻を拭くジェスチャー」なんていうような話を聞くと、ここまで仲が悪いと、もう、どうしようもないなあ、という感じです。「隣国開催」であったにもかかわらず、オランダの人たちにとっては、ドイツでのワールドカップというのは、非常に敷居が高いものだったのかもしれません。しかし、「ナチス型ヘルメット」キャンペーンなんて、いくらなんでもやりすぎですよね。

 これを読んでいると、隣国同士で仲が悪いなんていうことは、そんなに珍しいことではないし、「お隣だから、応援しなくてはならない」なんていうメンタリティというのは、けっして「世界標準」ではないのだなあ、ということがよくわかります。日本人というのは、そういう意味では、非常に「隣人愛に満ち溢れた、良心的な人々」なのかもしれません。
 まあ、どちらが良いかと言われれば、「みんな仲良く」できたほうが良いには決まっているんですけど。