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2006年05月27日(土)
「一人を殺せば犯罪者だが、百万人を殺せば英雄だ」、そして、すべての人間を殺すと…

「猟奇の社怪史」(唐沢俊一著・ミリオン出版)より。

(ロベール・サバチエ著「死の辞典」を紹介する文章のなかの一部です)

【この本の中の、一番興味深いエピソードはチャップリンの映画に関するものである。チャールズ・チャップリンの不朽の名作のひとつ『黄金狂時代』(1925年)で、山小屋の中で飢えに苦しめられたチャップリンが、自分の姿が巨大なニワトリに見えるようになった男に食べられそうになったり、靴を煮込んでうまそうに食べる場面があったりするが、サバチエ氏は、これは実際にあった事件がもとになっていると指摘する。
 それは1846年にカリフォルニア州のシェラネバダ山中であった事件で、入植者たちの一団が大雪に遭って遭難し、160人の幌馬車隊のうち18人しか生き残らなかった。生き延びた者は飢えをしのぐために、先に命を落とした仲間の死体や犬、靴などを食べて生き残ったという。あの、ドタ靴をチャップリンが食べる爆笑のシーンは、悲劇の実話がもととなっていた。しかも、『黄金狂時代』のロケは、まさにそのシェラネバダ山中で行われたのである。チャップリンもまた、死の恐怖をジョークに転じる名人であった。
 最後にもうひとつ、チャップリンがらみでこの本から。
 チャップリン後期の代表作に『殺人狂時代』(1947年)があるが、ここでチャップリン演じる殺人者アンリ・ヴェルドゥが処刑台に上がる前に言うセリフ
「一人を殺せば犯罪者だが、百万人を殺せば英雄だ」
 という言葉は、多くの名言集にチャップリンの言葉として引かれているが、実はギリシアの哲学者エラスムスの言葉だそうである。似たような言葉も紹介されており、こちらの方がより含蓄がありそうだ。
「一人の人間を殺すと、殺人者である。幾百万の人間を殺すと、征服者である。すべての人間を殺すと、神である」(生物学者ジャン・ロスタン)】

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 チャップリンの「黄金狂時代」の靴を食べるシーンはものすごく有名なのですが、そのシーンに、こんな悲劇的な「元ネタ」があったとは知りませんでした。今の世の中だったら、「そんな事件を喜劇映画のネタにしてしまうなんて、不謹慎な!」というクレームが出そうな話ではありますね。もしかしたら、「黄金狂時代」の公開当時には、そういう論調もあったのかもしれませんが。
 それにしても、こういう話を読んでいると、人間にとって「悲劇」と「喜劇」というのは、対極にあるようでいて、本当は「紙一重」であるような気もします。現代でも、お笑いの人たちがやるコントには「ヘンな人」をネタにして笑うというものが多いですし。
 『殺人狂時代』の「一人を殺せば犯罪者だが、百万人を殺せば英雄だ」という言葉も非常に有名なものです。僕もすっかりチャップリンの言葉だと思い込んでいたのですが、そんな昔の哲学者の言葉だったとは。ということは、ギリシャ時代から、人は同じことに矛盾を抱き続けていて、それはずっと、解決されてはいない、ということでもあるのです。
 「すべての人間を殺すと、神である」
 ある意味、地球上の生物にとって、人間というのは、「迷惑極まりない神」みたいなものかもしれませんね。

 そんな人間のいない世界で「神」になることに意味があるのか?なんて考えてしまうのは、凡人の発想なのだろうけど……