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2006年02月27日(月)
「日本の国民に謝罪」なんてしなくていいのに。

毎日新聞の記事より。

【トリノ冬季五輪日本選手団の遅塚研一団長(日本オリンピック委員会常務理事)と亀岡寛治総監督(日本スケート連盟理事)が26日、当地で総括会見を行った。「メダル5個」を目標に掲げながら、フィギュアスケート女子の荒川静香(プリンスホテル)の金メダル一つに終わったことに対して、遅塚団長は「厳粛に受け止めなくてはならない。最低の結果といえる。日本の国民に謝罪を申し上げる」と話した。
 荒川の金メダルについては「日本のウインタースポーツに新たな1ページを加えた画期的なこと」と称え、「私を含めて選手団全員が救われた」と感謝した。そのうえで「成績不振については徹底分析しなくてはいけない。各競技団体には猛省を促したい」と厳しい表情で語った。
 目標と現実がかい離した原因については、選手団編成の際の各競技団体との個別折衝で、見通しの甘い数字を報告されたと説明。「端的な例はスノーボード。メダルは確実と答申を受けた。きちんと情報収集して確実な情報を上げるようにしないと」と要求した。
 日本オリンピック委員会(JOC)選手強化本部の情報戦略チームは比較的正確な分析を行っていたことを明かし「最悪の場合はメダルゼロだった。だが、悪い数字を目標にするわけにはいかない」と話した。
 今後については「選手団のスリム化にも手をつけなければならない。国内で競争原理を導入し、戦う選手団にする」と、各競技団体の派遣総枠を絞り込む方針を示した。】

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 今回のトリノオリンピック、荒川静香選手の女子フィギュアでアジア人としてはじめての金メダルなんていう偉業があったものの、日本勢の総括としては「低迷」と言わざるをえないでしょうね。あれだけ僅差の4位だった選手がいたのは、当事者たちにとっては、「あと一歩なのに…」と無念の思いが強いのだろうな、とも思うのですけど。スピードスケートの岡崎選手や及川選手やスキーアルペンの皆川選手なんて、3位だったらまさに「快挙!」だったでしょうに。1位と2位ならともかく、3位と4位にこれだけの差があるというのは、ちょっと残酷な気もします。
 もっとも、今朝テレビで観たコメンテーターの人によると、「アメリカ人は、金メダル以外はどうでもいいと思っている」らしいので、「メダルにばかりこだわる日本人」が、一概に冷たいとも言い切れないのかもしれません。
 ところで、この遅塚団長の【「厳粛に受け止めなくてはならない。最低の結果といえる。日本の国民に謝罪を申し上げる」】という言葉って、僕としては「そこまで大仰にならなくても…」とも思うんですよね。そりゃあ、選手の派遣費用は税金でまかなわれているとはいえ、「オリンピック」というイベントは戦争じゃないんだし(でも、サッカーとかだと、「ワールドカップは戦争だ!」とか言う人が出てくるのには僕は閉口してしまうのですが)。僕自身、いわゆるウインタースポーツを観る機会って、せいぜい冬の日曜日にときどきやっているスキージャンプを「飛んでる飛んでる」とか言いながらボーっと眺めているくらいのものですから、日ごとから熱心にサポートしているわけではないですしね。

 むしろ、雪の多い地域を除いては、けっして日常的な競技ではない冬のオリンピックなのに、日本人にこれだけ世界レベルの選手がいるというのは、すごいことなのかもしれません。フィギュアなどのごく一部の人気競技の選手を除いては、オリンピックに出場するような選手でさえ、「お金がなくて競技生活を続けられない」なんて話もありますし、以前、ショートトラックでメダルを獲得した選手でさえ、「スポンサーがいなくて競技者生命のピンチ」だったというスポーツ新聞の記事もありました。人気競技であるフィギュアスケートだって、リンクを借りきって練習しなければならないことが多いわけですから、ものすごくハイリスク、ハイリターンの世界だし。
 日本の場合、地元の長野オリンピックの際は、開催国ということでそれなりにお金をかけて強化していたみたいなのですが、「長野以降」は、なかなか次の世代の選手への世代交代が進んでいかないのです。そりゃあ、日本国内で人気がなく、お金にもならない競技が、4年毎のオリンピックのときだけ急に強くなるわけなんてないのです。
 そういう意味では、あの女子カーリングチームが、あれだけ困難な競技環境のなかであそこまで健闘したというのは、まさに「偉業」でしょう。

 それにしても、この「アテが外れたこと」を謝罪するというのは、なんだかちょっとヘンですよね。天気予報じゃあるまいし、メダルが獲れなくて無念なのは、観ている国民より選手団のほうに決まっています。国民は、ちょっと「失望」はしたでしょうけど、原田選手の失格や荒川静香さんの金メダルで僕の人生が変わるなんてこともないわけで。「みなさんは残念に思っているだろうけれど、選手たちはできるだけのことをしました」とか言ってはダメなのかなあ。
 もちろん「国民が日頃から応援してくれないからダメだった」なんて、口が裂けても言えないだろうけど。
 しかしこの「とりあえずスノーボードのDQNコンビをスケープゴートにしておけ!」みたいなのって、なんだかとってもみっともないし、「お祭り」なんだから、多少欲目でみてしまうのもしょうがないのかな、とも思うのですよね。そりゃありアルタイムで観ていて、メダル候補のはずの人がいきなりゴロゴロ転がってしまっていたりするとガッカリしますけど、予想通りにいかないのがスポーツの面白さなのだし。それに、こうやって選手のことをあれこれみんなで話したりするだけでも、その人なりに「オリンピックに参加し、楽しんでいる」ということなのだとも思うのです。そういう意味では、今回のオリンピックって、「語りたくなるところ」が沢山あって、けっこう面白かったのではないかなあ。
 まあ、予測なんて、どんな場合でも「最悪の場合はメダルゼロ」に決まっているので、そんな予測が当たっても嬉しくもなんともないからなあ。
 「がっかりした」と言う人だって、「がっかりできるくらい期待できるものがあった」というのは、決してマイナスじゃないですよね。それこそ、お金を賭けてたわけじゃないのだから。
 それにしても、荒川選手の金メダルは、すべてを「浄化」してしまったような気がします。世の中というのは、本当にうまくできているものです。僕の心の中には、「メダルゼロのオリンピック」になってしまった場合の世間のリアクションを観てみたかったというような、ちょっとだけ残念な気持ちもあるのですけど。