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2006年02月18日(土)
僕が「自己啓発中毒」だった頃

「papyrus(パピルス)2006.2,Vol.4」(幻冬舎)の劇団ひとりさんへのインタビュー記事の一部です。

【過熱状態にある昨今の”お笑いブーム”のなかで、独自の存在感を保ちつづけている劇団ひとりだが、22歳頃大きなスランプを迎えたことがあるという。コンビ『スープレックス』を解散した直後のことだ。

劇団ひとり「コンビ時代は、お客さんが笑ってくれればすべてよし、でした。完全に客側に歩み寄っていたんですよね。ところが解散後はまったく逆の心理状態になった。いわゆるアーティスト気取りになってしまったんです。今思えば、あの頃僕がやっていたネタは、誰も笑うわけがないものだった。いつのまにか、お客さんに理解されなくてもいい、と思ってしまっていたんです」

 当時を少し反省するように、彼は言う。

「やりすぎて失敗する時って、妙に深く考えてしまう。お笑い芸人をやる意義だとか、内なる哀しみがどうのだとか。そうすると、どんどんいけない方向に進み始めるんです。客は笑わないし、仕事はなくなるし、周りはどんどん出世していくし」

 危機的状況のなか、本を読み漁った。

「図書館に行って、心理学の本を理解できないままに読んだ。人はなぜ笑うのかから考えてみようと。でも結果、笑いとはなんぞやと考えてもまったく意味がないという結論に達しました。それでこれじゃいけない、もうちょっと俺もポップになろうと思って、徐々にバランスを戻していったんです」

「すごい鬱状態だった」という当時の彼を支えたのは、難しすぎる心理学の本だけではなかった。並行してはまったのが、いわゆる「自己啓発本」。

「ある日書店に行ったら『小さなことにくよくよするな!』というタイトルが目に飛び込んできたんです。読んだら1日で鬱状態から回復しちゃいましたね。すごいですよ。読めば読むほど勝ち組になっていくような気がするんです。千円ちょっとで癒されるんだから、安いもんでしょう。次から次へと片っ端から読みました。自己啓発中毒です」

 読めば自己が啓発されるのだから1冊で十分な気もするが、そういうわけでもないらしい。

「値段が安いだけに、やっぱり1ヵ月くらいしか持たないんですよ。1冊1冊の効果は薄い」

 スランプに陥っていたのは5年前。今はもう遠い過去のことだ。

「本当にどうしようもなかった。その頃の僕は、今の僕を想像することすらできなかった。自分で言うのもなんだけど、今がいちばんいいバランスだと思う。客に媚びすぎず、離れすぎず」】

〜〜〜〜〜〜〜

 劇団ひとりさんが、スランプだった5年前の自分を振り返って。
 この話を読んでいると、人というのは、こうやって「ネガティブスパイラル」に嵌ってしまうのだなあ、ということを痛切に感じます。僕にもそういう時代があったんですよね(遠い目)。
 【あの頃僕がやっていたネタは、誰も笑うわけがないものだった】というようなことは、後から冷静になって考えればわかりきったことなんですけど、リアルタイムでそれをやっているときって、「わからない方が悪い」とか「わからないほうがバカ」をか思い込んで、どんどん「わからないものを作ってしまう方向」に行ってしまいがちなのです。そして、「他人にわからないもの」を作っている自分に陶酔しつつ、その一方で、「わかってくれない他人」に失望してみたり。
 しかしながら、そうやって到達した「結論」は、【笑いとはなんぞやと考えてもまったく意味がない】ということだったんですよね。なんだか、ぐるっと回ってスタート地点、という感じなのですが、そのプロセスというのは、劇団ひとりさんにとっては、大きな経験だったに違いありません。

 それにしても、世間にはあれだけ「自己啓発本」が溢れていて、いったい誰があんなにたくさんの種類のああいう本を読んでいるのだろう?そんなにニーズがあるものだろうか?と疑問だったのですが、これを読んで、その疑問は氷解しました。この時期の劇団ひとりさんのような人生に迷っている人にとっては、「自己啓発本」というのは、麻薬のように「効く」ようなのです。でも、その効果が一時的なのも「麻薬的」で、結局は、その一時的な「回復」のために、片っ端から「自己啓発本」を渡り歩くということになるんですね。だから、それらしくて元気が出て自信がつきそうなことさえ書いてあれば、細かい内容なんて、あんまり関係なさそうです。本当に「効果と値段が比例する」のかどうかは不明ですが。

 「自己啓発本」の読者って、なんだか「他人に影響されやすい、いいかげんな人」が多いのではないかというイメージがあったのですが、実際は、真面目に自分を突き詰めようとして、かえって「自己啓発中毒」になってしまう人のほうが多いのかもしれませんね。
 しかし、「媚びすぎず、離れすぎず」のバランスって、簡単なようで、本当に難しいものですよね。僕も日々、「よそよそしすぎる」と「なれなれしすぎる」の間を行ったり来たり。