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2006年01月22日(日)
奥寺康彦さんが、ドイツで発掘した「自分の個性」

「Number.645」(文藝春秋)の記事「突撃!!エイジーニョ」(吉崎エイジーニョ・文)より。

(「ドイツ10部リーグ体験取材」中の吉崎エイジーニョさんと、1977年に日本人初の海外組・プロ選手となった奥寺康彦さんとのやりとりの一部です)

【吉崎:ドイツサッカーの壁に正面衝突しています。移籍、自己主張、チームメイトとのコミュニケーションと……奥寺さんは、すっと溶け込んだイメージがあります。移籍1年目の’77年にすぐに出場機会を得て、カップ戦とリーグ戦の2冠も手にしました。

奥寺:まぁ、僕の場合は、監督が予め特徴を理解したうえでチームに呼んでくれたからね。でも1年目のある時、試合の途中で下げられて、2つほど指摘を受けた。『もっと自分を出していけ』『強気にならないとダメだ。蹴られたら、蹴り返せ』ってね。

吉崎:僕なんか、もう言われっ放しです。練習中、MFでプレーしていると、同時に逆のことを指示されるんです。FWには「前に来い」、DFには「下がれ」と。泣きそうです。

奥寺:いちいち聞いてちゃ、ダメなんだよ。彼らは、主張することに意味を置いているんだから。相手の返事うんぬんよりもね。だから、キミも言い返さなきゃ。ただ、気をつけるべきは『サッカーを知らない』って思われちゃあ、立場が難しくなるってことだ。やっぱり、アジア人は分かってないと思われるからね。意見の相違は構わない。自分のサッカー観に基づいた意見があることが大事なんだ。

吉崎:どうしても、ビビっちゃうんですよ。チームメイトと分かり合えてないなと感じるから、ひとつのミスで萎縮してしまう。

奥寺:自分を出さなきゃって焦るのはよく分かるよ。練習に率先して取り組んだりして、態度で示していくこと。それでも自分の個性は周囲に伝わるんだよ。
 僕は、最後の5年間所属したブレーメンでは普通の選手だったんだ。僕が発掘した個性は”周囲と調和が取れる”ってことだった。その時監督も、日本人選手のよさをすごく理解していた。主張する人が多い中で、僕のようなタイプが必要だったんだろうね」】

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 海外で初めて日本人プロ選手としてプレーした奥寺康彦さんが語る「海外でプレーする上で大事なこと」について。
 僕は海外生活の経験はないのですが、実際に留学した人の話などを聞いていると、やはり「日本人は自己主張がヘタ」というのをよく耳にします。そして、海外のサッカーチームでプレーしている吉崎さんも、そういう「コミュニケーションの壁」を感じているようです。そりゃあ、正反対の指示を一度に出されても、どうしようもないですよね。でも、この奥寺さんの話によると、彼らは「とりあえず自分の考えを主張している」だけであって、それに相手が従うかどうかは、それほど重要視していないみたいです。要するに、「こういう理由だから、俺は前に行く(あるいは後ろに下がる)」という自分の意見さえ持っていれば、それはそれでいいのだ、と。あるいは、確固たる理由さえあれば、真横に行くことすら許されるのかもしれません。

 しかしながら、この奥寺さんの話のなかで僕はいちばん印象に残ったのは、【僕が発掘した個性は”周囲と調和が取れる”ってことだった。その時監督も、日本人選手のよさをすごく理解していた。主張する人が多い中で、僕のようなタイプが必要だったんだろうね」】という部分でした。もちろん、それが許されたのは奥寺さんがチームに必要な存在であることが浸透していたことと、監督にそれを理解する力があったからでしょうけど、洋の東西を問わず、「自己主張をする人」ばかりでは、チームというのは成り立っていかないのは同じなのだと思います。そして、そういう「自己主張の強い人間の集団」であればこそ、なおさら、「調整役」は必要なのでしょう。

 目立つことだけが「個性」だと僕たちは考えがちなのですが、実際は「目立たないという個性」だってあるのですよね。無理して人と違うことをやるよりは、ごく当たり前のことでも本来の自分の良い面を追求するほうが、より「個性的」なのではないかなあ。