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2006年01月04日(水)
「カラー・コミュニケーション」の魔術

「色の秘密」(野村順一著・文春文庫)より。

(「最新色彩学入門」というサブタイトルがつけられているこの本のなかから、「カラー・コミュニケーション」という項の一部です)

【カラー・コミュニケーションとは言葉、単語、会話によらず、色彩のサイン、シグナルでメッセージを伝える相互作用である。サイン、シグナル、メッセージを伝える色彩観念は、広く人びとに共通して作用する。
 たとえば、企業経営の意思決定にかかわる重役会に、取締役4人の男性と2人の女性が出席したとしよう。服の色は1人がネイビーブルー(navy blue;暗い青で紺色または鉄紺)、2人がグレー、1人はベージュ色、残る2人が赤であった。客観的な議決を求められる席上で、赤は主観的で感情的反応を起こすシグナルとなって、他の人びとの意思決定を散漫にしてしまう。重要な会議では、出席者の服の色は控えめにする心遣いが必要である。
 次に、黄色は実際よりも大きく見せる色であり、コミュニケーションもうまくいく。登校拒否の「はにかみや」の子どもに、黄色のシャツを着せたところ、早くもそのはにかみがなくなり、それ以来、黄色が大好きになり内気を克服した。黄色はコミュニケーションがうまくいく色、それにたくさんの友達ができる色である。
 一般に、一番好かれる色は青である。文化がテクノロジー志向になれば、それだけ人びとは青に飛びつく。なぜか? 青は理論的、実践的なシグナルである。青は左脳の色で、感情でなく知性のしるしであり、青のメッセージはいつも意識にはたらきかけ、感情を落ち着かせる。
 青は企業経営を強く支持する色だが、個人にとっては、あまり使いすぎるとマイナスの作用となる。働く人たちの心身に消極性をまねく。たとえば、リビドー(libido;原始的衝動から誘発されるあらゆる本能的なエネルギーと欲望をいう。例:性的衝動)は低下し、体のエネルギーも低減する。
 とりわけ、財務、会計、コンピュータ、秘書といった細かな神経を要する人々には、青はよくない。青は余計な神経を使わせ、疲れやすく消耗させてしまう。ところが、同じ青でも例外がある。ネイビーブルーはわるくない。ネイビーブルーは青の暗色(ahade;ある色に黒が混ざってできる色)で着る人も見る人も落ち着かせ、仕事を効率よく運び、エネルギーも維持してくれる。】

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 この本の著者の野村順一さんは、元東洋大学教授で、建築・インテリア・アパレル・食品・照明などの各業界で、カラーコーディネート、デザインなどを指導されてきたそうです(2004年に亡くなられています)。
 ここに引用させていただいた文章だけをあらためて読んでみると、「黄色い服を着ただけで内気が克服できるなんて、そんな簡単なものなの?」とか僕も考えてしまうのですが、この本の中には、【暖色系(赤や橙など)の色で囲まれた部屋では時間が経つのを長く感じ(実際の1時間が、2時間くらいの長さに感じられるように)、寒色系では逆に短く感じられる】とか、【同じ重さのものでも、黒い包装紙と白い包装紙とでは、黒のほうが白より2倍の重さに感じる】というような僕の経験からも納得できる研究結果が書かれていて、「色」というものが人間の感覚に与える影響というのは、僕の日ごろのイメージ以上に大きいものなのだろうな、とあらためて考えさせられました。
 この会議の話でも、「会議のときに赤い服を着ていく人なんて、ありえない!」と僕は思ったのですけど、重要な会議のときに地味な色のスーツを着てくるのが「礼儀」になったのは、こういう「経験から生まれた知恵」の賜物なのかもしれません。逆に会議を荒れさせたかったら、赤い服を着て登場するという手もありそうですけど。
 青色はけっこう好まれているし、身の回りでも多く使われているのですが、使いすぎると【働く人たちの心身に消極性をまねく】というのははじめて知りました。最近仕事にやる気が出ないのは、まさか、そのせいなのだろうか…
 WINDOWSって、けっこう青が目立つ印象があるんですけど、まさかこれは、マイクロソフトが人類からリビドーを失わせてパソコン漬けにする陰謀なのでは…などと妄想にふけってみたり。
 ちなみに、【私たちはまた、身につける色で自分が何を必要としているかを表現する。たとえば、赤を着ている人は新しい愛を求めているか、体の耐久力の回復をはかっている。】のだそうです。色というのは、「とりあえずそこらへんにあるものを着る」という僕には想像もつかないくらい、数多くのメッセージを秘めているようです。
 そりゃ、街で真っ赤な服を着ている人をみかけたら、「タダゴトじゃないな」というくらいのことはわかりますけど。