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2005年11月04日(金)
「美宝堂」のCMを、知っていますか?

「地球のはぐれ方」(東京するめクラブ(村上春樹・吉本由美・都築響一)著・文藝春秋)より。

(都築響一さんが、名古屋の有名な宝飾店・美宝堂を取材して、書かれた文章の一部です。)

【そんな美宝堂を一躍有名にしたのが、なんといってもテレビ・コマーシャルである。社長と孫がカメラに向かって語りかける素朴なスタイルは、すでに二十年近く続いているそうで、はじめは幼児だった孫も、いまでは大学生。名古屋人は美宝堂の孫の成長を、リアルタイムで目撃しつつ長年過ごしてきたわけだ。派手派手の衣装に身を包んだおじいさん(実は社長)と若者(実は孫)が、「買〜ってください、お願いします」「名古屋市清水口の美宝堂へどうぞ」と、セリフ棒読みで語りかけるCFは、すべての名古屋人のDNAに刷り込まれているといえよう。
 ちなみにCFはいっさいプロダクションや代理店を通さない、社内手作り。原案、演出、セリフ、絵コンテ、衣装まですべてを専務が手がけ、登場するのも関係者のみ。年間十パターンのCFを放映し、基本的には1パターン1.5ヵ月の放映期間だが、効果がなければ1〜2週間で新しいものに変えてしまうというフレキシブルなシステム。自社制作ならではの強みだ。「CMというのは会社のほんとうの姿をわかっていただくためのメッセージであると考えます。そのためには、会社のことをよくわかっているものが出演して、嘘偽りのない真実の言葉で話すことが当然です。会社のことをよく知らないタレントがいくら勧めても、意味のないことです」(同社ホームページより)という正論に、おしゃれ広告業界人たちは謙虚に耳を傾けていただきたいものである。こうした宣伝戦略によって、同社は一店舗あたりの売り上げ日本一の記録も達成しているのだ。】

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 たぶん名古屋の人にとっては「一般常識」なのだと思いますが、僕はこの「美宝堂」のこと、この文章を読んではじめて知りました。いや、おじいちゃんと孫が出てくるCMに関しては、どこかの「CMの裏話」みたいな番組で、観たような記憶もあるのですが…
 それにしても、このCMのコンセプト【「CMというのは会社のほんとうの姿をわかっていただくためのメッセージであると考えます。そのためには、会社のことをよくわかっているものが出演して、嘘偽りのない真実の言葉で話すことが当然です。会社のことをよく知らないタレントがいくら勧めても、意味のないことです」】というのは、まったくもって「正論」と言えば「正論」ですよね。確かに、いくら松浦亜弥がテレビの画面で美味しそうにお菓子を食べていても、それは彼女にとっては「仕事」なわけですから、「美味しそうに食べるのなんて、当たり前」ではあるわけです。まあ、ああいうのはまさにイメージの世界であって、「フィーノ」のCMには宮沢りえが出ているからこそ、世間の女性たちの購買意欲をそそるのであり、どんなにその商品を愛しているとしても、資生堂の無名の社員の人が出演していては、なんとなく「華がない」のも事実なのです。もしかしたら、それはそれで「使用前・使用後」みたいにやれば、評判になったりするのかもしれませんが。
 でもまあ、自分にもその商品にも直接関係のないタレントが勧めている、なんていうのは、考えてみれば、その商品の内容とは「全然関係ない」ですよね。にもかかわらず、そのCMのデキで、商品の売り上げにはものすごく影響があるわけですから、結局僕たちは、詳細な情報よりも、イメージで買い物をしている部分が大きいのでしょう。
 「イナバ物置」みたいに、視聴者へのアピールと同時に、CM出演の権利をかけて、営業の人たちが切磋琢磨している、なんていうケースもあるんですけどね。
 「美宝堂」の場合は、ありがちな社長の自己満足CMだったのに、長年続けることによって「ドラマ性」を持つようになった、稀有な例だとも言えるでしょう。

 ちなみにこの美宝堂には、【CFと同じくらい有名なのが、店の奥にある「100万円以上の品をお求めになる方だけをお入れするVIPルーム」。ごらんのとおり(注:原文には写真も載っています)、天井から壁、床、置物、絵画、電話、電卓、コンピュータにいたるまで、ことごとくが金一色! めくるめく豪華空間というか、名古屋に咲いた20世紀末のウルトラ・バロックというか、とにかく空前絶後の室内である。】という名物もあるそうです。なんだか、堅実なんだか派手好きなんだか、全然わかりません……