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2005年10月26日(水)
「とうとう銀座に来れるようになったわねえ」の傲慢

「週刊SPA! 2005.10/25号」(扶桑社)の記事「キャバクラ考現学」(木村和久著)より。

(コラム「声に出して読みたい、キャバクラ迷言集」の一部です。)

【お言葉「とうとう銀座に来れるようになったわねえ」(昔、銀座で言われました。ほっとけよ)

 銀座の高級クラブに行っていたころのことだ。信じられないが、当時は最低でも5万円を払って飲んでいた。今そんなカネがあるなら、液晶モニター2台買うって。
 それはともかく、昔、六本木で働いていたコが銀座で働きだして、お呼ばれしたときに言われたセリフがこれだ。「木村さんも、とうとう銀座に来れるようになったわねえ」だと。喜んでいいんだか。女ってこういうふうに考えているのかと思うとイヤだね。たぶん客室乗務員も、ファーストクラスのなんかで出くわすと「とうとうファーストクラスに乗れるようになったんですぁ」と言われそうで怖い。
 ここで勘違いしてほしくないのは、女のほうが単に高級クラブで働いているだけで、別に出世したわけではないのだ。厳密に言うと、出世した男たちの世話をしているだけの仕事である。なのに偉そうにさ。でも銀座にはそれだけの見栄という魔力があるのは確か。古い考えだが、いまだ「昨日、銀座で飲んでさあ」という虚栄の部分が必ずついて回る。】

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 まあ、こういうのって、働いている女の子にとっても、「自分はこんな高級店で働けるようになったんだから」というプライドがあるんでしょうけどねえ。
 でも、それを客に向かって「あんたも出世したねえ」というのは、ちょっと勘違いも甚だしいのではないかと。
 実際は、こういう話は、キャバクラだけではなくて、「自分の所属している器の大きさ」=「自分の大きさ」だと思い込んで偉そうにしている人っていうのは、けっして少なくはないのです。たとえば、大学病院の若手研修医などが「そんな軽症の患者さんは、大学病院の適応じゃない!」とか横柄に答えている姿なんていうのは、同業者の僕からみても不愉快です。もちろん、大学病院のような高次病院には、その病院にしかできない医療があるのですから、あらゆる患者さんを受け入れて専門医療に手が回らなくなるのは困った事態にはちがいありません。でも、だからといって、「自分が大学病院で研修しているだけ」の人間が、そんな物言いをしていいということにはならないはずです。せめて、「申し訳ありませんが、今病室が満床で、うちでは受けられないので…」というくらいの「節度」があってしかるべきなのに。あるいは、「高級ブランド店」などでの、店員さんのお客をバカにしたような態度なんていうのも、この類でしょう。
 偉い(あるいは、みんなが畏れている)のは、お前が所属している「イレモノ」あるいは「看板」であって、お前自身じゃない!
 そういう「虎の威を借る狐」みたいな態度の人って、本当に多いのです。自分が所属している「組織」の力を、自分の力だと勘違いしている連中。
 そんな人に限って、その「組織」から離れてしまったら、急にシュンとしてしまったり、「ブランド批判」をはじめたりするのです。
 本当にデキる店員さんというのは、適度な自信と謙虚さを併せ持っているものだし、自分が所属している組織を鼻にかけて自慢したり、威張り散らしたりするのではなく、「自分ができることで、どうやったら、お客を喜ばせられるか」と考えているものです。そして、「高級感」というのは、「店員のプライドの高さ」ではなくて、そういう「お客のプライドをくすぐる接客術」によって生み出されるものなんですよね。ああ、この店で、こんなに丁寧に扱ってもらえるなんて、自分は「高級な人間」なのだな、という甘美な錯覚。
 僕もごくまれにブランドショップなんてところに行く(というか、引きずりこまれる)こともあるのですが、多くの場合、いちばん言葉遣いが丁寧で物腰の柔らかい人が差し出す名刺に「責任者」と書いてあるのですよね。