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2005年09月27日(火)
飛行機内での、許されない「娯楽グッズ」

「オーケンのめくるめく脱力旅の世界」(大槻ケンヂ著・新潮文庫)より。

【4年ぶりに海外へ行ったのである。
 なぜ長い間、国外に旅をしなかったかと言えば、4年前に突然、飛行機恐怖症になっちゃって、行きたくても行けなかったのだ。タイから日本への機中で発作のようなものを起こしてしまって、すっかりおじけづいてしまったのだ。どうやらその頃に患っていたノイローゼの一症状であったようなのだが、もう飛行機まったく駄目になって、CMの撮影でサイパンに行ったのを最後に、好きだった海外への旅を一切止めてしまった。サイパンに行くのも、それは決死の覚悟が必要だった。飛行機に乗るかと思うと手足が震えちゃってたまらない。何かに集中していれば恐怖感もやわらぐであろうと、機中にとっておきの娯楽グッズを持ち込んだ。
 二箱のプラモデルだ。
 機動戦士ガンダムに出てくる「ガンキャノン」と、そして「おでん屋の屋台」のプラモだ。
 もしあなたが成田→サイパンの飛行機に乗っていて、隣の席の人がやおらプラモデルをつくり始めたとしたらどうであろう?
「お、プラモ! やっぱフライトのお供にはタミヤの1/24スケールがベストだよね〜パンサー戦車とかぁ」
 とはまず思わんであろう。それよりもまずギョッとするであろうし「こ、こいつヤバイやつじゃねーかな?」と焦るであろう。しかも「おでん屋の屋台」に接着剤チュウ〜ッとしぼられた日には本当に恐ろしい、がんもどきスカイハイである。機内プラモ持ち込みは、ノイローゼならではのバカ・チョイスだったのである。していいことと悪いことの判断能力がなくなってしまっていたのだ。結局、プラモの箱をバッグから取り出したところで当時のスタッフにやんわりと止められ、代わりにその箱の上にコクヨの原稿用紙を置いて、エッセイ書きながらサイパンまでの3時間をやり過ごした。】

〜〜〜〜〜〜〜

 飛行機や新幹線など、比較的長時間乗ることになる乗り物は、大概、席の好みを乗る前にリクエストすることができます。飛行機でいれば「窓際がよろしいですか?」というように尋ねられますよね。まあ、窓際を好む人もいれば、飛行機恐怖症で、窓際なんてとんでもない、という人もいるでしょうし、比較的通路に出やすいという意味で、窓際よりも通路側のほうがいい、という人だっているに違いありません。
 しかしながら、このような乗り物では、「席の位置」は選べても、現代でも乗る前には選びようがない、旅の快適さを決める重要な要素が存在するのです。
 それは、「隣にどんな人が乗ってくるのか?」ということ。
 こればっかりは、どんな乗り物でも、こちらで「指定」はできませんよね。もちろん、国賓であるとか、超セレブといったひとたちは、それなりに配慮してもらえるのでしょうけど。
 ちょっと前に、「ひーっこし!ひーっこし!」と毎日大音量で騒いでいるおばさんの話がありましたが、仮にああいう人が隣に住んでいたとしたら、たぶん、いくら大金を払って手に入れたマイホームでも、実勢価値はかなり下がってしまうと思われます。でも、家や土地は選べても、隣人は自分の力では、どうしようもないこともあるのです。あのくらいになるまでは、辛抱しなければならないというのは、ちょっとあんまりですが。

 とくに飛行機などでは、隣にちょっと勘弁してほしい人が乗ってきた日には、目もあてられません。ただでさえ、狭くて身動きもとれず、ストレスがかかる飛行機の中で、新聞をバーンと大きく広げたり、やたらとイチャイチャしたり、聞きたくもない自慢話を延々と続けたり……
 明らかに「隣の席で、こんなことをされたら困る!」ということはあるのですが、ここでの大槻さんとその周囲の人の判断基準では、飛行機の中でのプラモ作りはNGだろう、ということになっています。確かに、僕もあの接着剤のニオイは気になりそうだし、何より、隣でそんな細かい作業をされていたら、こちらまで息がつまりそうです。
 では、どこまで許されるか?と考えると、これも、なかなか難しい問題なんですけどね。読書は大丈夫だとしても、携帯ゲームをガチャガチャとプレイされるとダメだとか、パソコンのキーボードを打つ音もけっこう気になるとか…
 とはいえ、「周りの迷惑にならないように」と、あまりにずっと身を硬くしていたら、自分の身がもたないですしねえ。