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2005年09月18日(日)
父・ヒロシの「唯一の長所」

「ツチケンモモコラーゲン」(さくらももこ、土屋賢二共著・集英社文庫)より。

【ツチヤ:でも、ヒロシさん(さくらさんのお父さん(=「ちびまる子ちゃん」のお父さんに近いキャラクターだそうです))みたいなタイプは結婚相手にいいんじゃないですか。

ももこ:うん、悪くはないと思うんですよ。でも、母に言わせるとヒロシと結婚してよかったことは、気楽だったということだけだって。それであとは全部ダメだって(笑)。

ツチヤ:ほとんどの男はなんのとりえもないんだから、一つでもいいところがあれば立派ですよ。でも気楽以外は全部ダメなんですか。

ももこ:それはそう言えますね。私もそれはわかっているんです。ヒロシは気楽だということ以外に長所がとくにないんです(笑)。

ツチヤ:娘にまで気楽にそんなことを言われて、いいんでしょうか、ヒロシさんは。

ももこ:いいんですよ。だって私は、そのヒロシの唯一の長所である気楽だということが結婚するうえでいかに大切かということをよくわかってるんですから。

ツチヤ:へー。気楽って、そんなに大切なことなんですか。

ももこ:ええ。だって、気楽だという長所しかないヒロシと、母は離婚していませんもん。気楽だということだけで他が全部ダメでも、離婚に至らないというのは、結婚生活のうえでいかに気楽なのが大切かということを物語っていると思うんですよ。

ツチヤ:なるほどね。気楽だとなかなか別れるまでにはならないんですね。怖くて別れられないこともあるけど…。

ももこ;だから私は気楽さの面から見た場合、ヒロシ度の高い人がいいんです。最悪でも現状のヒロシがいいですね。

ツチヤ:現状のヒロシでもいいんですか。

ももこ:最悪でもね。私も、ヒロシだったら離婚しなかったと思うんです。何回かは離婚を考えることもあるかもしれないけど、本当に離婚に至ることはないと思うんですよね。それでこのまえ母に「私は最悪でもおとうさんみたいな人がいい。お母さんはよかったね」と言ったら、それをヒロシがきいていて「結局オレかよ。うちの女はみんなそうなんだよな」って、得意になっているんですよ。

ツチヤ:最悪でもというところを忘れていますよね。

ももこ:そうなんです(笑)。最悪なヒロシが、気楽点だけで60点でギリギリ合格だとしたら、それよりもっと追加点がいっぱいほしいところですね。】

〜〜〜〜〜〜〜

 まあ、こういう「価値観」みたいなものって人それぞれだろうし、「お気楽で緊張感がなくて、刺激がない」という理由で離婚を求められる人だっているのでしょうから、「結婚生活を続けるための最低条件」というのは、一概にいえるものではないのでしょうけど。
 それでも、離婚されてそんなに時間がたっていなかったこの対談の時期にさくらももこさんが、「気楽」であるということの重要性を語っておられるのには、ものすごく考えさせられます。それこそ「気楽でさえあれば、離婚には至らなかった」とまで、仰っているわけなので。
 確かに、人と長くつきあっていく上で、この「気楽さ」というのは、けっこう大切な要素のような気がします。短い間のつきあいであれば、お互いに刺激しあえるというのも大事そうですが、とくに生活をともにするようになれば、お互いの嫌な面だって、見えてくるんですよね。そういうときに、相手を自分の型にキチンとはめようとしたり、あまりにあれこれ干渉しすぎたり、家の中が厳しい雰囲気になって、気が休まらなくなったりすれば、やっぱり、その関係は破綻に向かっているのでしょう。もっともこれは、お互いに高めあえるけど、比較的短い関係というのが必ずしも無益だというのではなくて、あくまでも「結婚生活を続ける」という観点においての話ですが。
 でも、「気楽さ」とか「明るさ」っていうのは、どんな人間関係においても、愛される基本なのだと思います。

 それにしても「最悪でもお父さんのような人がいい」というのは、父親にとって、ほめ言葉なのかどうか……ヒロシさんは、けっこう喜んでいるみたいなんですけど、そういう愛嬌みたいなのもまた、「気楽な人」のいいところなのかもしれませんね。