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2005年05月30日(月)
「いやな顔になりそうなとき」の対処法

「やぶさか対談」(東海林さだお・椎名誠共著:講談社)より。

(東海林さんと椎名さんがホスト役になっての対談集。「実演販売」の達人、川口隆史さん(2001年にお亡くなりになられています)がゲストの回の一部です。)

【川口:いや、どうしても目って強くなりがちじゃないですか。売れなくなると、やっぱりひきつってきたりしますよね。僕、それがまるっきり表に出ないんです。

東海林:常に目が笑ってますもんね。職業的にやってらっしゃるわけではないんですか。

川口:それはあります。僕も、昔はキツイ目をしていたんですよ。売れないとイライラして、「何てこんだけやってんのに買わないのッ」とか「たった千円なのに、何で買えないのッ」とか言ってしまったり。

東海林:お客に当たっちゃう。

川口:ええ。おふくろとか姉にも「目つきが悪い」って言われて。それで、売れても売れなくても、自分の一番いい表情を崩さない、お客さんにはいやな顔は見せないようにしようと。

東海林:鏡見て練習したり?

川口:ええ。あと、いやな顔になりそうなときは、台のところにいない。デパートの人に怒られても、喫茶店に行ってお茶飲んじゃうとか。

東海林:今は第一印象が目がやさしいですね。つくりあげたんだ、その目を。

川口:でも、これ、営業用の笑いじゃないですよ。自然体です。

東海林:川口さんの笑顔と落としのテクニックを使ったら、たいていの女性は……。

川口:それで何でモテないのかなあ。

椎名:アヤシイなあ、絶対モテると思う。】

〜〜〜〜〜〜〜

 「実演販売」の番組って、眠れない深夜にテレビを点けてみると、偶然観てしまうことってないですか?これは、その「実演販売」の第一人者と言われていた、川口隆史さんとの対談の一部です。人前が苦手な僕にとっては、ああいう人と常に接していなければならないような仕事は苦手で、実演販売をしている人を観ているのもなんとなくいたたまれない気がして(買わないと悪いなあ、とかね)、ついつい避けて通ってしまいがちなんですけど。

 川口さん本人は「自然体」と仰っていますが、実際のところ、これは「トレーニングによって身についた、顔の一部になってしまった仮面みたいなもの」なのでしょう。あまりに長年着け続けてきたために、はがせなくなってしまった仮面。
 でも、本人にすら、それが「日常のもの」になってしまっているというのは、凄いことですよね。

 この文章のなかで、僕がもっとも印象に残ったところは、こういう「プロ」でも、「いやな顔になりそうなとき」があるということでした。そして、川口さんはそんなときにどうするかというと、「プロ意識で表情を変えないようにする」のではなくて、「喫茶店で休憩して、気分転換をする」んですよね。どんなベテランでも、「どうしようもないとき」っていうのはあるのだし、そういうときにムリをして、お客さんにいやな顔を見せてしまうほうが、ちょっと気分転換のために時間を遣ってしまうことよりも、結果的には、はるかにマイナスになる、ということなのでしょう。
 もちろん、仕事の種類によっては、そう簡単に「一息入れる」ことが難しいものがあるというのはわかります。でも、ちょっと気分転換して、自分を落ち着かせてから仕事を再開したほうが、はるかに良い結果を生むことは、少なくないはずです。いやな顔をしながら、その場に踏みとどまることが、常に良いこととは限りません。
 「逃げる」なんて言うと言葉が悪いのですが、「気分転換」というのは、ものすごく大事なことなんですよね。「うまく逃げる」のも、いい仕事をするための秘訣なのかもしれません。
 さすがに「逃げてばっかり」では、どうしようもないのだろうけれど、「逃げるという選択肢」を持っておくというのは、けっしてマイナスではないだろうと思うのです。