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2004年05月25日(火)
「目標に見合った努力」の限界

時事通信の記事「イチロー2000本安打達成関連・談話」

【仰木彬・元オリックス監督 とにかく早い。彼にとっては1つの区切りにすぎないのでしょうが…。普通の選手は1000本や2000本を目標にしているわけだが、彼は旬のときに2000本。とてつもなくすごいことだ。これで3000本も射程圏。あと5、6年ですかね。
 オリックス・谷外野手 年数も短いことですし。価値あることだと思います。日本でも、毎年すごい成績を残してすごいバッターだった。
 オリックス・大島内野手 次は3000本を目指してください。世界の頂点を目指す気持ちを忘れず、これまで通り妥協のないプレーを続けてほしい。
 オリックス・河村打撃コーチ 入団当時のリポートに12年間で2000本安打を達成すると書いていた。彼がここまできたのは本当に努力のたまもの。(日本記録の3085安打は)当然いくだろうね。その時はぜひ日本で達成してほしい。
 ヤンキース・松井秀外野手 イチローさんは、2000本安打なんて気にしていないんじゃないかな。そういう記録に価値観を抱いているとは思えない。でもすごいですね。】

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 イチロー選手が超ハイペースで日米通算2000本安打を達成したのは、さる5月21日のことなのですが、そのことについてのオリックス時代の元チームメイトたち、そして現在ともにメジャーリーグで活躍している松井秀喜選手のコメントです。
 ここには、さまざまな選手の「イチロー論」が集約されているような気がするのですが、その中で僕が共通点として感じたことは、「イチローは2000本安打を目標としていない」というものでした。まあ、人によって「3000本くらいは…」という選手もいれば、「数字よりも野球選手としての自己完成を目標としているはず」という選手もいるのですけど。

 僕は子供のころから歴史が好きで、小学校時代は「マンガ日本の歴史」というのを愛読していたのですが、確か、その本の中にこんなエピソードがありました(もちろん、フィクションかもしれませんが)。
 毛利元就は、安芸(現在の広島県)の小領主の次男坊として生まれました。当時は家督を相続するのは基本的に長男でしたから、元就は「田舎の小豪族の次期領主の弟」でしかなかったわけです。
 元就の子供時代、家臣と初詣に行ったときのこと。帰り道で自分の隣で手を合わせていた家臣に「お前はいったい何をお祈りしていたんだい?」と尋ねました。その家臣は気を利かせて「はい、若様(元就)が、中国地方の領主になれるように、お願いしておりました」と答えました。
 すると元就は、その家臣に向かってやや気色ばんで、こんなことを言ったそうです。
 「どうしてお前は俺が『天下を取るように』とお祈りしなかったんだ!」驚く家臣に「そもそも、天下を取るつもりで頑張っても、せいぜい中国地方くらいしか取れないものなのだ。最初から中国地方を…というようなつもりでいては、中国地方だって取れるわけがないじゃないか」と続けたのです。
 若者らしい大言壮語、なのかもしれませんが、最後の「天下を取るつもりでも…」というところに、僕は強いインパクトを受けました。
 目標に対する努力というのは、「このくらいでいいだろう」と自己満足するレベルでは、所詮目標達成には届かないものなのだ、と。

 陸上の50m走では、こんなふうに習いました。「50m先のゴールまで」走ったら、最後のゴールのところでは「ゴールだ!」と気が緩んで失速してしまうから、もっと先にゴールがあるつもりで走らないと本当にベストの記録は出ない、って。
 
 2000本ヒットを打つ、というのは、数字以上の目的意識がないと、達成できないことなのだと思います。イチロー選手にとっては、まさに「通過点」なのかもしれません。

 「目標に見合った努力をしているのに」というのは、本当は「努力がまだまだ足りない」のですよね、きっと。

 そういう「大きな目標を目指す」というのが、ひとりの人間としての幸せとイコールなのかは、人それぞれ、だとは思うんだけど。