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2004年05月05日(水)
本屋さんが与えてくれる「感謝と喜び」

「本の雑誌増刊・本屋大賞2004〜全国書店員が選んだ いちばん!売りたい本」(本の雑誌社)より。

(大賞受賞作「博士の愛した数式」の著者・小川洋子さんの「感謝の言葉」の一部です。はじめて本になった作品「完璧な病室」のことを回想して。)

【自分の書いた本が、本屋さんに並ぶ。子供の頃から、それだけが私の望みだった。誰に感謝していいのか分からなかったが、とにかく書棚のその場所を見つめながら、あらゆる人々と、あらゆる物事に感謝した。
 背表紙にそっと触れ、それからバスターミナルまで急いで走った。早く帰らないと、授乳の時間が迫っていた。私は初めての赤ん坊を産んだばかりだった。
 今でも、元気が出ないときには本屋さんへ行って、自分の本を眺める。平積みになっていなくても、ベストセラーリストに載っていなくても構わない。長い時間、誰の手にも触れられず、半ば忘れられたようにひっそりたたずんでいたとしても、決して落胆などしない。
 背表紙を見つめているだけで、いつかは私の小説を必要としてくれる人がここに立ち、この本に手をのばしてくれるはずだという、理由のない確信を持つことができる。手を伸ばすその人の指の形までが、いつかパリの書店で店主が見せた手の様子と重なりながら、浮かんでくる。
 本屋さんはいつでも私に、感謝と喜びの気持ちを与えてくれる。】

〜〜〜〜〜〜〜

 この小川さんの「感謝の言葉」を読んで、僕は「この人は、ほんとうに本が好きなんだなあ」と感じました。もちろん作家である小川さんにとって、「本を売る」ということは商売でもあるんでしょうけど、ここには、通りいっぺんの「お愛想」ではない、自分の作品への愛情、そして、人と本とが触れあう場所である「本屋さん」への愛着が綴られているのです。
 人気作家や人気歌手でも、デビューのときは「自分の作品がちゃんと売られているか見にいった」とか、「しばらく本屋で手に取る人がいないかどうか見張っていた」なんて話をよく耳にします。そういう「いても立ってもいられないような気持ち」になれるって、創作とは無縁の世界で口に糊している僕にとっては、ちょっと羨ましくも感じるのです。

 「本」というのは、本当に不思議な力があって、「本屋さん」というのは不思議な場所だと思います。
 いくらネットが発達しても、ディスプレイに映し出される文字に、人間が【いつかは私の小説を必要としてくれる人がここに立ち、この本に手をのばしてくれるはずだという、理由のない確信】というような感情を持つことができるようになるには、まだまだ時間が必要なはずですし。

 やっぱり、本好きにとって、「自分の書いたものが本になる」っていうのは、無上の喜びなんだよなあ、きっと。売れるとか売れないとかは、たぶん、別の話なんでしょう。
 まあ、売れるにこしたことはないにしても、ね。