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2003年09月20日(土)
仙台文学館の館長給与額の妥当性と「文学館」の存在意義。

河北新報の記事より。

【仙台市が管理する仙台文学館(青葉区)で、館長を務める作家の井上ひさし氏に市が2002年度に支払った給与と観覧料総収入の差がわずか14万円で、01年度は給与の方が100万円近く上回っていたことが19日分かった。同日の市議会決算等審査特別委員会で市が明らかにした。

 井上氏は1999年3月の開館当初から市歴史文化事業団非常勤嘱託職員の立場で館長を務めており、月額50万円、年間600万円の給与が支払われている。02年度の勤務日数は延べ13日間だった。

 文学館は99年度に約5万2000人の観覧者が訪れたが、2000年度は約3万人、01年度は約2万500人まで落ち込んだ。02年度は約2万4500人と持ち直したが、減少傾向が続いている。

 「井上氏の貢献度は大きいが、(給与額には)割り切れない思いもある」と指摘した委員に対し、市民局は「井上氏の人的ネットワークを活用させてもらっている上、文学館の看板的な存在で(給与は)妥当だと思う」と理解を求めた。

 「就任丸5年を迎える来春を区切りに、名誉館長に就任してもらってはどうか」との提案に対し、藤井黎市長は「(就任5年は)1つの大きな検討の時期だと思う」との考えを示した。】

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 仙台文学館は、東北新幹線の仙台駅よりバスで約15分の立地。入館料は、大人400円、こども(小中学生)100円、高校生200円。ただし、特別展・企画展は別料金、ということです。

 この記事からすると、要するに「年間延べ13日しか勤務していない井上ひさし館長が、毎月50万円もの給料をもらっているのはおかしい」というのが、「わりきれない思い」の委員の意見なのでしょう。
 その気持ちは、わからなくもないですが。

 それにしても、年間約2万5千人、という入場者数は、週一回の休館日があったとして、だいたい1日平均80人くらいの入場者数、ということになりますね。もちろん季節や曜日によっても違うでしょうし、寒さの厳しい地域ですから「冬場はほとんど人が動かない」ということで、季節による差もけっこう激しいのでしょうが。
 それにしても、開館時間が1日8時間として、1時間に10人。うーん、さすがにちょっと閑散としてるかな…という感じですね。
 ただ、こういう「文学館」というのは、日本中にたくさんあるのですが、実際に年間5万人の来館者があるところは、日本中でも10箇所くらいなのだそうです。

 「文学館」の中には、人気作家個人(たとえば、太宰治とか)を扱ったものと、その地域の歴史的な流れを扱ったものがあるらしいのですが、仙台文学館は、後者にあたります。ちなみに、扱われている作家は、島崎藤村や土井晩翠、真山青果など。魯迅も仙台で学んでいたことがあるそうです。
 しかしまあ、正直なところ、やや地味なラインナップというか、エース不在というか、好きな人じゃないとキビシイかな、という感じですね。
 「絵画」というのは、例えばピカソの絵なら、ピカソに対する知識がなくても、それを見ることによって、人はなんらかの感情を持つことは可能です。先入観がある人はあるなりに、そして、ない人はないなりに。

 しかし、「文学」というのは、ある程度予備知識を必要とするものです。
 テレビ番組などで、ある作家の人生を知って、作品に興味を持つことは珍しいことではないかもしれませんが、文学館の展示物として何の予備知識も無しに、有名作家の貴重な初版本、とか直筆の手紙、なんてのをいきなり見せられても、「字、読みにくいよ、これじゃ編集者は大変だったろうなあ」というような感慨しか抱かない人も多いでしょう。
 まあ、興味がない人は、最初から来ないのかもしれませんが。

 それに、特別展などで頑張っているとはいえ、こういう施設は、とくに常設展については、なかなか更新されないホームページみたいなものですから、時間が経つにつれて入場者数が減少してくるのには、致し方ない面もあるのではないかなあ、と思います。

 僕個人としては、井上ひさしさんの給料は全然不当なものではないと考えているのです。
 この地味なラインナップの文学館がそれなりに話題になったのは井上さんの知名度が大きかったでしょうし、1年間に延べ13日現場で勤務していたとしたら、井上さんの1回の講演料などを考えたら、むしろリーズナブルな価格なのではないかなあ、と。
 こういう施設は、あまり大赤字では困りますが、お金のことより多くの人に観てもらうことを重視すべきだと思いますしね。
 まあ、井上さんは槍玉に上げられただけで、その他の人々の人件費や施設の維持費を考えたら、毎年かなりの赤字なんでしょうけれど…

 こういうニュースを聞くと、あらためて、「文学を広めることの難しさ」を考えてしまいます。
 やっぱり、受け手の側の努力の必要性は、絵画や彫刻より高いのではないかなあ、と。
 逆に、「美術館に行かなくても『本物』に接することができる」というのは、大きな魅力なんですけどね。