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2003年01月31日(金)
カンボジアとタイとイラクとアメリカ。


西日本新聞の記事より。

【カンボジアのプノンペンでタイ大使館などが焼き打ちされた暴動は、事実上の国交断絶という深刻な事態に発展した。デマの可能性が高いタイ人女優の「アンコールワット強奪」発言報道がなぜ、ここまでカンボジア人の怒りを駆り立てたのか。背景として、両国間の大きな経済格差や「歴史的に複雑な国民感情」(タイ・ネーション紙)が指摘されている。

 女優の「強奪発言」そのものは今月十七日、プノンペンで大量にばらまかれた出所不明のビラが発端。これをカンボジア各紙がそのまま報じ、女優も発言自体を否定しており、デマの疑いが濃厚だ。

 カンボジアでは、ビラがばらまかれたのと同じ十七日から、七月の総選挙に向けた有権者登録作業が各地で始まったばかり。タイ国立タマサート大東アジア研究所のスラチャイ・シリクライ助教授は「総選挙妨害を狙って、何者かが政治的混乱を起こす意図でデマのビラをばらまいたのではないか」とみる。

 隣り合うタイとカンボジアの関係は複雑だ。内戦終結から十年以上たった今も復興途上にあるカンボジアには、タイ企業が次々に進出。タイの国民総所得約二千ドル(約二十三万円)に対しカンボジアは二百六十ドルという経済力の差を背景に、カンボジア国民の間にはタイによる「経済・文化侵略」への反発が強い。

 また、今回焦点になった世界遺産アンコールワットは十二世紀前半、インドシナ半島一帯を支配していたカンボジア人のクメール帝国が建立したが、十五世紀にタイ人のアユタヤ王朝軍が侵攻し、帝国は滅亡。同王朝も十八世紀にビルマ(現ミャンマー)軍の猛攻を受け、滅びたとされる。

 カンボジア人の心の象徴でもあったアンコールワットに関するタイ人女優の「強奪発言」報道は、こうしたカンボジア人の根強い反タイ感情を一気にあおった格好だ。】

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 「女優の発言で、カンボジアとタイが国交断絶!」というようなセンセーショナルな見出しで語られることが多いこのニュースなのですが、実際はたぶん、「有名女優のアンコール・ワット強奪発言」というのは、単なるきっかけにすぎなかったということなのでしょうね。
 確かに、隣の国なのに、収入格差が8倍もあって、企業の進出による経済支配も盛んになっているという状況では、カンボジアという国が潜在的に反タイ感情を持っていても不思議はないでしょう。とくに東南アジアには仏教が生きている宗教であり、アンコール・ワットは、彼らの誇りとする場所ですから。
 僕の友人が、卒業旅行に東南アジアに行ったのですが、各国の印象を語るときに、「カンボジア…う〜ん、アンコール・ワット以外はとくに何も…」と言っていました。それも、アンコール遺跡のなかには、まだまだ立ち入りが危険な場所もあるらしくて。
 
 第3者的には「そこまでしなくても…」と思われるこの暴動なのですが、おそらくカンボジアの人たちとしては、「タイの連中は、お隣さんのくせにいつも贅沢して俺たちをこき使って、その上、俺たちの唯一最大の宝にまで触手を伸ばそうってのか!」
と怒り心頭に達しているんでしょう。

 タイから、日本からみれば「そんなことでこんなに怒らなくても…」と感じてしまうこの問題ですが、小さな国(人口や潜在能力としては、戦乱がなければカンボジアはけっして「小国」ではないと思いますが)には、小さな国なりのプライドがある、というのは歴史的事実。でも、それに大国は気づかない、もしくは気づかないフリをしている。

 それにしても、こういう経済格差や文化的侵略が背景にある混乱のニュースを聞くと、日本という国もきっと他の国から恨まれたり、妬まれたりしてるんだろうなあ、と思ってしまいます。
 日本企業が生き残るための海外進出が、どんどん進んでいけば
「浜崎あゆみが万里の長城は日本のものだと発言した!」なんて記事が出たりするのかなあ、まあそれは、あまりに根拠がない主張で、影響される人がいるとは思えないけれども。

 ただし、「そんなことで熱くなるなよ!」というのが、まさに大国の論理であるわけで。
 人間にとって、うるさくて刺されると痒い蚊をパチンと潰すのは、造作もないことかもしれませんが、潰される蚊の側からすれば、巨大な物体が、自分の存在を消し去るために飛んでくるわけですから、切実な問題です。
 でも、僕たちの目に触れるのはだいたい、人間側からの視点だけなんですよね。