Monologue

2010年04月13日(火) いつか王子様に

“ブルブルブルブル・・・・”と空気を振動させた携帯電話をズボンのポケットから取り出すと
真倉はパカッと蓋を開けて右耳に押し当てた。

「はい!真倉です!
あ、照井さん・・・大丈夫ですか?
ええ、ああ・・・はい、はい判りました・・・いえ、とんでもありませんよ、
はい、お大事にどうぞ。」

真倉は携帯の通話ボタンをピッとOFFにすると、刃野に向かって事務的に告げた。

「照井さんでした。
“今日は気分が悪いので、先に帰らせて貰う・・・質問は受け付けない!”との事でした。」

「そうか・・・やっと瞳を覚ましたと思ったら、今度は体調不良で早退ですか。」

刃野は呆れた風に呟き、ツボ押し棒でポンポンと軽く自分の肩を叩く。

「まぁ・・・無理もねェけどな・・・」

くくっと可笑しそうに微笑いながら、翔太郎は何気無く真倉の右掌の中の携帯電話を見た。
蓋が閉じられる一瞬前にチラっと待受画像が見え・・・

(え?今のまさか・・・!?)

反射的に翔太郎は真倉の手から携帯電話をバッと奪い取るとパカッと蓋を開けた。

「あ!いきなり何すんだよ!探偵!」

(・・・・・・っ!?)

翔太郎は驚きに瞳を大きく見張る。
その携帯電話の待受画像に写っているのは翔太郎が良く知っている人物だった。

ゆるやかなウェーブを描いて流れる黒髪の巻毛にピンクのサテンのリボンが飾られ、
シルバーグレーのワンピースにパープルのジャケットを羽織っている、
強い意志を秘めたアーモンド型の黒い瞳、
かわいらしい鼻に、ラメ入りのピンクグロスで艶を増した可憐な唇・・・

それはまぎれもなく・・・

「な、何でマッキーがコイツの写真を待ち受けにしてんだ?!」

翔太郎が信じ難いと言った口調で大声を上げる。
次の瞬間、

「返せよ!探偵!」

真倉は携帯電話を奪い返すと大事そうに両手で抱え込み、キッと翔太郎の顔を睨み付けた。
翔太郎の胸に改めて罪悪感がふわりと浮かび上がる。

「あ・・・悪ぃマッキー・・・
だけど何でマッキーがそのコの写真を・・・」

「『ひとめ惚れ』・・・だろ?真倉・・・」

ツボ押し棒で肩をグイグイと押しながら刃野が言うと、真倉はポッと頬を桃色に染め、
ゴニョゴニョと言い難そうに話し始めた。

「確か・・・『電波塔の道化師』を確保した時に『風都フリリアホール』に行って、
偶然見掛けたんだ。
もろ俺好みで・・・マジで俺の運命の王女様が現れたのかと思ったよ。」

真倉はそっと携帯電話を取り出すとパカッと蓋を開けて、
改めて待受画像の写真を眩しそうな瞳で覗き込んだ。

「まさか犯人確保中に声を掛ける訳には、いかないから、
せめて写真だけでも・・・と思って、必死に近付いてコッソリ隠し撮りした訳・・・」

言われてみれば、
待受画像の写真の人物の視線は完全にカメラから外れているし、
輪郭もチョットぼやけている。
かなり望遠で狙った所為なのだろうが、その割にはなかなか上手く撮れている。
やはり愛のなせる業だろう。

「へェ・・・それは興味深い・・・」

翔太郎の傍に立っていたフィリップが、艶めいた下唇の縁を左の指でなぞりながら、
真倉の右掌の中の携帯電話をひょいと覗き込んだ。

翔太郎は慌てて止め様としたが間に合わず、
フィリップの視線は待受画像の人物の姿に釘付けになる。

「これ・・・僕・・・」

そう彼が呟いた言葉を聴き付けた真倉は、
待受画像の人物とフィリップの顔をマジマジと見比べた。

「そう言えば・・・キミ・・・彼女に良く似てるなぁ・・・
その瞳といい、鼻といい、ツヤツヤした唇といい・・・もしかして・・・彼女はキミの・・・」

“バレた!”と翔太郎とフィリップは二人同時に覚悟を決める・・・
真倉はフィリップの顔をじぃぃ・・・っ、と見つめながら言った。

「キミの・・・お姉さん、とか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

二人はしばし返す言葉を失い呆然としていたが、
いち早く我に返った翔太郎は、わざとらしく明るい声を立てて、

「そ、そうそう!コ、コイツの姉ちゃん!で、ちなみに俺の今の彼女!」

「ちょ、ちょっと翔太郎?」

右手の小指を立て、引き攣った笑顔を浮かべながら翔太郎は、
フィリップの耳朶に形の良い唇を近付けると小声でヒソヒソと囁いた。

「しょうがねェだろ?
もし自分がひとめ惚れした娘が実は男だったなんて知ったら、
マッキー、腹かっ捌いて死んじまうぜ!」

「やっぱりなァ・・・ま、そうだろうとは思ってたけど。」

「えっ?」

ハァ・・・と溜息混じりに真倉が言い、
翔太郎とフィリップの心臓は、
同じタイミングでドクン!と大きな音を立てて跳ね上がった。

「あのコ・・・
事件の時もず〜っと探偵の傍にくっついてたし、
帰る時は探偵のバイクの後ろに乗ってたから・・・多分、そうだろうなって・・・」

その口振りから、既に真倉が、
翔太郎と待受画像の人物が只ならぬ関係にある事に気付いているのが察せられる。

だが、その人物が、すぐ瞳の前にいる少年だとはさすがに判っていないらしい・・・

「ああ!でもせめて一目だけでも会ってみたい!俺の王女様・・・
一度で良いから今度会わせてくれないか?頼む!探偵!」

両掌を合わせて頭を下げる真倉に聴こえない位の小声で翔太郎はヒソッと呟いた。

「王女様じゃなくて・・・ホントは王子様だけどな?」



“風都の皆さん、こんにちは。
若菜は今、体調が悪いので、
病気の悪魔から若菜を救い出してくれる素敵な王子様が来てくれるまで、
しばらく『ヒーリング・プリンセス』をお休みさせていただきます・・・“

「お姫様はご病気か・・・」

流れる川の傍の白いベンチに座って、右掌の中のラジオを見つめながら、
サンタちゃんはハァと落胆の溜息を吐いた。

「最近若菜姫ちょっと変だったもんね〜
いきなりハイになっちゃったかと思えば生放送中に突然キレたりしてさ・・・
何かヤバい物でもやってたりして・・・」

隣に座っているウォッチャマンが意味有り気に呟くと、
サンタちゃんは、ふいに思い付いた様に声を上げた。

「あ!『姫』と言えば・・・
前にお前のブログに写真載ってたあの『お姫様』みたいなコ・・・見つかったか?」

「へ?『お姫様』みたいなコ・・・って?」

「ほら!『風都に新たなプリンセス発見!』とか言って、一時ちょっと盛り上がってたじゃん!」
「ああ!あのピンクのリボンの!いやぁ〜あれからサッパリ・・・。」

パタパタと顔の前で右掌を横に振りながらウォッチャマンは答える。

「目撃情報も「それは私です♪」って名乗り出も全部ガセだったし・・・
この街に住んでるコじゃ無かったのかもねェ?」

「ええッ!残念〜!いつか逢えると思っていたのにィ!」

さも残念そうにガックリと肩を落とすサンタちゃんを眺めながら、
ウォッチャマンは微苦笑しながら寂しそうに呟く。

「若菜姫と言い、そのコと言い、
プリンセス不在だなんて、最近の風都は味気無いねェ・・・」

「全くだよ
 ・・・翔ちゃんにでも頼んで探してもらおっかな?」


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