月の輪通信 日々の想い
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昨日、習字に向かう車の中でアユコがポツリポツリとしゃべっていた。クラスの「学級代表」がなかなか決まらないと。 立候補も無かったし、多数決の投票をしようというと「そんな決め方はイヤだ」と主張する人が出た。結局その時間には決まらなくて、次回に延期ということになったのだそうだ。 「アユコ、立候補すればよかったのに・・・」というと 「うん、それも考えたんだけど・・・」と言葉を濁す。 昨年度末、アユコは生徒会の役員選挙に出て落選した。一年間、生徒会活動を一生懸命やって、2期目を目指す選挙だった。 よほど自分に人望が無かったのかとか、一年間の活動が評価されていなかったのかとか、あれこれ悩んでいたようだ。 「いいよ、今年はクラブ活動の方に力を入れるから。去年は生徒会のためにずいぶん抜けたから。」 とようやく気持ちを入れ替えての4月なのだ。
今日、帰宅したアユコが「お母さん、『おめでとう』っていって!」とニコニコしている。 学級代表、就任決定だそうだ。 結局、立候補推薦なしの多数決になって女子の代表はアユコに票が集まったという。 「で、学級代表って何する人?」ととぼける母に 「『起立、礼』の号令とか、ホームルームの司会とか・・・。あー、これが一番苦手なんだよな。人前にたって、司会とかするの・・・」 と畳み掛ける。 苦手だとか、いやだなとかいいながら、やっぱりちょっとうれしいんだな。 「アユコなら、きっと出来るよ。それもきっといい経験になるよ。頑張れ、頑張れ。」 とおだてあげているところに、電話のベル。 「かあさん、アユコの担任の先生から。」
・・・・PTAのクラス委員をお願いできませんか。 だそうです。 はぁ、今度は母ですか。 ま、中学の役員もそのうちくるだろうとは思っていましたが。 本当ならこの忙しいのに、Pの役員なんてやってられないところだけれど、さっきのアユコの「就任おめでとう!」の勢いで、何となくむげにお断りする気持ちにもならなくて、「お受けいたします。」と返事してしまった。 あっけなく決まって、担任の先生がほっとしておられるのが声の調子で感じられる。きっと他の委員さんたちがなかなか決まらないのだろう。
ええい、ままよ。 アユコとダブル就任だ。親子でクラスを牛耳ってやろう(嘘・・) ということで、今年の我が家にはオニイも含めて3人も「委員さん」がいる。
オニイ、今日、自転車初登校。 ずいぶん早めに用意をしていたけれど、外にでると天候が怪しくて、雨合羽だの何だのとバタバタ慌てふためく。 「タオルは?カバンのナイロン袋は?」と世話を焼きたがる母をうるさそうに振り払って、ギーコギーコと自転車を漕ぎ出す。 もう、帰りの雨の心配なんかしてやらなくてもいい年齢になったんだということを、オニイの後姿を見送ってからようやく思い出す。 そうそう。 まだ、うちにはそういう心配をしてやらなければならない子どもが、ごろごろしている。
今日、オニイは剣道部の練習を見学してきたらしい。多分、そのまま入部するつもりだろう。明日は防具や竹刀を持ち込むという。 クラスでは、どういうわけか推薦されて、「何の因果か」学級委員就任決定だそうな。 おまけに、「かあさん、剣道部と美術部、両立は無理やろか・・・」とさらに手を広げそうな勢いだ。 中学からの知り合いもほとんどいないまっさらの環境の中に飛び込んで、あれもこれもやってみよう、挑戦してみようときょろきょろ周りを見渡しているのだろう。 そして、どうしちゃったのというようなハイテンション。 いいよいいよ。 そのテンションが続いている間は、あれもこれもとりあえず手を広げてみるといい。 無理になったらそのとき考えよう。そのくらいでちょうどいい、君の生真面目さには・・・。
「かあさん、腹減った! 帰り道の途中でさ、どこかの家の台所から夕飯のコロッケでも揚げてるような匂いがしてさ、たまらんかったわ。 一瞬『ヨネスケになりたい!』と思ったわ。」 ・・・・隣の晩御飯ですか。
昨日に続き、今日も雨。 オニイの自転車通学は、とりあえず明日からということで、電車通学に変更。車で駅まで送る。 朝のお弁当作りも今日から始動。 あわただしい朝が始まった。
昨日の始業式。 アユコは、仲良しの友達とことごとく違うクラスになったと凹んでいたが、担任は楽しい先生と評判の高い先生。きっと楽しいクラスになるだろう。 アプコとゲンのクラスは今年は持ち上がり。担任も去年と同じ先生が受け持ってくださることになって、まずはバンバンザイ。
今日、小学校ではよその学校へ転任になられる先生方の離任式が行われたそうだ。オニイ、アユコ、ゲンが以前に担任していただいたおなじみの先生方が3人もよその学校へ移られることになり、なんだかちょっと寂しい。 ことに新卒で始めてやんちゃ盛りのゲンのクラスを受け持っていただいたI先生は演壇の上で大泣きしておられたそうな。 アプコの大すきな「赤レンジャー」校長先生も市内の別の小学校に転任になられた。
新しく来られた校長先生のお名前は「小泉先生」。 他にもたくさんの新しい先生が転任してこられたそうだ。 「おかあさん、新しく来られた先生たちって、やっぱり『小泉チルドレン』って呼んでもいいかな?」 とニタニタ笑うゲン。 うまいっ! 座布団一枚!
ニュースの言葉や時事ネタをいつの間にやら仕込んでおいて、思いがけないところで笑いのネタにする当意即妙はゲンの得意技。 ちっとも関心がないように見えて、結構新聞やTVのニュースからいろいろな情報を取り込んで消化しているのだろう。
長い春休みがようやく終わって、今日、小中学校は始業式。 そして、午後からはオニイの高校の入学式。 せっかくこの日まで咲き残っていた桜を散らす、あいにくの雨模様。 ちょっとがっかり。
時間よりずんぶん早めにオニイが新しい制服を着ておりてきた。 ちょっと古風な感じもする濃紺の詰襟学生服。 3年間での成長を期待して大き目サイズを選んだ上着の中で、なで肩細身のオニイの体がちょっと泳いでいる感じはするけれど、それでも急に大人びて高校生の顔に見える。 「記念の写真を」とカメラを構える父さんに、うるさそうにしかめっ面する無愛想もすっかり高校生だ。
学校へ向かう道中も、オニイはさりげなく母と距離を置いて歩く。 雨風の強い坂道をぐいぐい早足で歩いていく濃紺の背中が思いがけなく大きく見えて、ピンと張り詰めたオニイの心持がうかがわれる。 お天気は痛恨の雨降りだけれど、気持ちはやっぱり「晴れの日」だ。
オニイと別れて体育館の保護者席に着いたのは、開始期時間のずいぶん前だった。まだ着席している人もまばらな体育館の中では、吹奏楽部の生徒たちが、音あわせをしたり練習したりをしたりしている音が静かに流れていた。 扉のそばに立って雨にぬれたグラウンドをぼんやり眺めていたら、自分が高校生だった頃のことがなんとなく思い出されて、懐かしさがこみ上げる。。 中学の卒業式の時はまだこの学校の入試の前で余裕もなくて、卒業の感激に涙するきっかけを失ってしまったというのに、今日、入学式の前に吹奏楽部のチューニングの音を聞きながら、不覚にも涙腺が緩んでしまった。
ここでオニイも青春の3年間を過ごすのだなぁ。 新しい学校、新しい友達、新しい先生たちとの新しい生活。 充実した3年間になるようにと祈る。
4月になった。 朝、雨戸を開けたら、川向こうの咲き始めたばかりの山桜にちらほらと雪が舞っていた。 なんだか季節がちぐはぐだけれど、きれいだなぁ。
高校生になっても、剣道を続けるつもりらしオニイ。 愛用の剣道着がすっかり小さくなったので、実家においてある叔父さんの高校時代の剣道着を譲り受けることになった。 その了承を得るために、東京の叔父さんに電話をかける。 普段、改まった電話をかける経験の少ないオニイ、ピリピリ緊張して受話器を握りしめた。
出勤前のこの時間だったら・・・と教えられた時間に電話したら、すでに叔父さんは家を出たあとだという。緊張の糸が切れてますますしどろもどろになって、「どうしよう?」と困り顔。 「また後で電話していいですか」とか、「伝言をおねがいします」とか、適当な答えが思いつかなくてオロオロしていたら、叔母さんが気を利かせて叔父さんの携帯の番号を教えてくれた。 「ダメダメだなぁ、今の電話。高校生の電話とはいえないなぁ。今度はもうちょっと言いたいことを整理してから掛けなさいよ」 母にダメ出しされて、しばらく考え込んでいたオニイ、「今は出勤の途中かなあ。今、携帯に掛けてもいいかなぁ。」とあれこれ悩みながら再び電話をかける。
「・・・・はい、・・・はい・・・。 それで、あの・・加古川にある叔父さんの剣道着、使わせていただきたいと・・・。 ・・・はい、・・・はい。あ、ありがとうございます!うれしいです! はい・・・・ありがとうございます!」 受話器を握り締めて直立の姿勢になり、何度も何度も深々とお辞儀をしながら返事をするオニイ。 あはは、それ、電話だよ。お辞儀しても見えないよ。 そういいながら、最敬礼でお礼を言うオニイの生真面目が楽しい。
オニイが今着ている剣道着は、同じ道場の大先輩から譲り受けた洗いざらしの中古品。新品も欲しいけれど、強い先輩からのお下がりの剣道着や尊敬する先生からいただいた面タオルなどをことさらに有難がって、ここ一番の時には必ず元を担いで身に着けようとする。 オニイにとっては、東京の叔父さんも剣道の大先輩。その剣道着を譲り受けられることになって、思わず言葉遣いまで道場モードになってしまうのが可笑しい。 高校生になって、今の道場をやめ、学校の剣道部に入って続けようかと思案中のオニイ。中学時代、運動部の経験もなくていきなり高校の剣道部が着いていけるのかどうか、はなはだ不安に思うのだけれど、「新しいことを始めたい!」と背伸びをするオニイの心意気が感じられる。 最敬礼でいただいた剣道着が、ヘナチョコ剣士のオニイに力を与えてくれますように。
アプコとアユコ、朝から二人で加古川のおじいちゃんおばあちゃんのところへ出かけていった。一つ、お泊りして、「イカナゴの釘煮」の作り方を習ってくるのだと言う。 実家のあたりではこの季節、あちらこちらの家の台所から甘辛いお醤油の匂いが漂ってくる。明石の漁港から昼網で揚がった小さなイカナゴを買い込んできて、大きなお鍋で釘煮を作る。釘煮の煮方にはその家、その家の独特のやり方があって、出来上がった釘煮は宅配の荷物にして遠くの親類や知り合いに送ったり、ご近所で互いに配りあったりして春の味を楽しむ。 本当なら、母の釘煮を受け継ぐのは娘である私なのだけれど、我が家ではアユコが、そして弟嫁のTちゃんが、この季節に実家を訪れて母と一緒にイカナゴを炊く。 母の懐かしい味を、アユコや若いTちゃんが学ぶ。 いいなぁと思う。
昔は流通の問題もあってか傷み易い生のイカナゴは我が家の近所ではなかなか手に入らなかったが、ここ数年、この季節になると近くのスーパーでも生のイカナゴが出回るようになった。 その気になれば我が家でも、釘煮を炊くことは可能になったのだけれど、ずぼらな娘は相変わらず母の煮てくれる釘煮を楽しみに待つ。 毎年母からもたらされる春の便り。 その暖かさに甘えたくて。
朝剣道。 風邪で声がでなくなったオニイはお休みで、ゲンだけを乗せて道場へ。 車から降りるなり、ゲン、「しまった、竹刀袋、オニイのと間違えた!」と言う。 馬鹿者。武士がひとの刀と取り違えてどうする!
今朝は、稽古前の掃除の際にいつものモップがけに加えて、体育館の床の水拭きをすることになっていた。各自、家から持ってきた雑巾を濡らして、体育館の端から一列に並んで「よーいどん」で雑巾ダッシュ。小さい子達が意外に闘志を燃やして全速力で雑巾がけをしていたり、大きいおにいちゃんたちが途中でヘロヘロになったりして、傍目にはとても面白い。結構体力も使うようなので、今後も稽古前の清掃に取り入れていってもいいかも。 外野のお母さんたちがあんまり面白がっているので、後からきた先生に、「じゃぁ、今度はお母さん方にお手本を見せてもらいましょうか」とからかわれた。 とんでもない。とてもとても体力がもちましぇん。
で、その雑巾がけの雑巾のこと。前日に「雑巾持参」の連絡を受けて、中にはご丁寧に家からお母さんがお湯で絞った雑巾を持ってくる子がいたりする。そうかと思うと、低学年の子どものなかには「おかーさーん」と母親に雑巾を渡して、自分では最初から絞ろうとしない子もいる。実際そういう子達はまともな雑巾絞りは出来なくて、ぼとぼとの雑巾をおにぎり絞りにしていたり、かりんとうのようなねじくれた雑巾絞りだったり。家庭であまり絞る経験がないのだろうなとうかがわれる。 オニイやゲンが小さいときには「雑巾絞りも修行のうち」とよその子たちも集めて雑巾の絞り方を教えたりもしていたのだけれど、一世代下のお母さんたちを横目に余計なでしゃばりもどうかなぁと片目をつぶる。 ホントは「おかーさーん、絞ってー」と甘えた声で雑巾を振り回している遊んでいる子を見ると、「自分でやりなさい、それも稽古のうち!」と叱りつけたくてうずうずしてしまうのだけれど、これもおばさん化の一端か。
稽古前、ゲンが借り物のオニイの竹刀を先生に見せて、なにやら話をしている。 「お母さん、お兄ちゃんの竹刀、ささくれがひどくて使えない。」 よって、自分の竹刀袋を取りに戻ってもらいたいという。 車で往復20分。さらっと言ってくれるじゃないの。 それに、何故オニイの竹刀の不備をわざわざ先生に告げ口するような真似をする。後でオニイ一人に告げればいいことではないか。元はといえば、ゲンが自分の竹刀を取り違えてきたのが原因。それを棚に上げて、オニイの不備を見つけて得意げに言い立てる気持ちの有り様が気に入らない。稽古前のゲンを呼びつけてコンコンと叱る。
この日は他にも竹刀のささくれや割れなどの不備のある子が多かったらしく、先生のほうから厳重注意があった。 先生が稽古時間内に分解して組みなおしてくださった廃棄分の竹を見せてもらうと、長い亀裂の入ったものや大きな割れが目立つものなど見るからに危険なものがあって驚く。竹刀の不備は大きな事故にもつながりかねないので怖いなと思う。 竹刀は消耗品だけれど新調すると結構痛い出費なので、少々のささくれは気づいていない振りをしてごまかしている保護者もいるようだ。怪我をするのは不備のある竹刀を使っている本人ではなくて、打ち合っている相手の子なので、改めてもらいたいと思う。そういう家庭の子に限って、目上の人への言葉遣いもひどかったり、雑巾絞りを母親に言いつけて遊んでいたりする。 それなりの子どもが育つと言うことか。いろいろと腹ふくるることではある。
大きな個展を終えて、息子の高校受験もめでたくかたがついて、ほっとしたばかりだというのに、また新たになにやら悩み事を抱えているらしい人がいる。 寝る間も削って次の展示会に向けての制作に取り掛かり、なにやら新しい取り組みを検討しているらしい父さん。来るべき襲名の日を前に、作品の制作のことばかりでなく、窯元としての経営のことや工房の仕事の後継者のことなどいろいろと頭を悩ませることも増えてきているようだ。 「あかんなぁ、経営のことや販売のことも、もっともっと勉強せなあかんなぁ。」 弱りきった顔で頭を抱える父さん。まじめな人だなぁ。
たとえば、百貨店で接客の仕事をすれば、他のプロの店員さんたちの上手な接客を見て「あかんなぁ、もっと接客も上手にならなくては」と思う。 自分の箱書きの文字が気になると、「初歩から書道を学んでおいたほうがいいのかな。」と不安になる。 小学校で子どもたちに陶芸を教えると言うと、他の先生たちのように決められた時間の中で充実したまとまった授業をしなくてはと、焦る。 たまたま講演会の講師を依頼されたら、著名な評論家や学者のように立て板に水の口舌で聴衆をひきつけなければと肩に力が入る。 あれもこれも、自分に期待された役割はみんな完璧にこなさなければと、自分自身に鞭打って追い詰めていこうとする父さんのまじめさが苦しい。 そんなに頑張らなくてもいい。 今だって十分に頑張っているのにと思う。
窯元の仕事は土をこね、釉薬をかけ、焼き上げるだけの仕事ではない。 作品を売ることも、広報や営業のことも、経営のことも、伝統の継承ということも、どれも境目のない渾然とした形で共存している。あれもこれも、勉強しておけばよかった。自分にもっとこういう才能があればいいのにと自分を追い込む気持ちもわかる。 諸事に万能な、スーパーマンのような人がいればいいけれど、実際には家族がいろんな形で役割を分担し、助け合って窯を支える。出来ることなら父さんは、陶芸作家として、ただただ毎日物を作りことだけに専念していければこれ以上の幸せはないのかもしれないけれど、実際には制作以外の多くの仕事に時間を取られたり、頭を悩ませたりしているのが現状だ。
これがよく出来た奥さんなら、家事も育児もこなした上で、工房の手伝いや会社の事務方もそつなくこなして、営業や販売にも積極的に手を出して、父さんの充実した制作活動の時間を確保する助けが出来ただろうに。 わるいね、こんな奥さんで。 「諸事に万能」 父さんが切望するスーパーマンの亡霊の影が、無力な妻の背後にも忍び寄る。そんなの無理だってわかっているのにね。 それでも父さんのため息を減らしたくて、黙って熱いコーヒーを入れる。 これが私に出来ること。
朝から晴れ晴れとした春らしい青空。 小中学校は今日が終了式。 昼前には、アプコとゲンと自転車を押したアユコが一緒に「ただいま」と帰ってきた。一年間一緒に過ごしたクラスメートや担任の先生と一応の「さよなら」をして、宿題のない春休みに突入する開放感にどの子もちょっとハイテンション。玄関のところでキャアキャア賑やかにおしゃべりする声が台所にいる私にも早くから聞こえていた。
「お母さん、はい。成績表」 一番に成績表を見せてくれたのはアプコ。1,2学期にはあった「おまけつきの○」がなくなって、3学期の欄には文句なしの「よく出来ました」の○が続く。「字がきれいになりました」の講評がうれしい。 「僕のも見るのぉー?」 ともったいぶって見せてくれるゲン。 ふむふむ。ありゃ、結構上がってるじゃん。 「あたしは一番最後。」 とニヤニヤ笑っていたアユコ。前回の懇談で成績の低下を指摘され、学年末試験の時には遅くまで頑張って勉強していたようだけれど、その甲斐あってか、どの教科もかなり成績が上がってる。 みんな凄いねぇ。 3学期はずいぶん頑張っていたんだね。
我が家の3学期は、オニイの受験と父さんの展覧会で振り回された3ヶ月だった。夜遅くまで勉強してるオニイや釉薬だらけになって働く父さんの後姿とオロオロしながらそれを見守る母。 右往左往する親たちやオニイの姿を横目に見ながら、どの子も彼らなりの思うところがあったのだろう。 2年後の自分の高校受験に意識を改めるアユコ。 将来の職業について、オニイを通してイメージを膨らませるゲン。 「お母さん、花丸もらった。みてみて!」と母の注目を引き寄せようとアピールするアプコ。 オニイの受験の微妙な相乗効果が、下の兄弟たちの頑張りに現れているのかもしれない。これだから四人兄弟っていうのは面白い。
昼過ぎ、慌てて出かけていく父さんを駅まで送る。 降り際に、 「子どもら、みんな頑張ってんのにな。頑張らなあかんな、ぼくも・・・」 と父さんの一言。 またなんだか、考え込んでいることがあるらしい。 父さんは今でも十分に頑張っていると思うけどね。
オニイ、公立高校の合格発表の日。 「発表は一人で見に行く。付き添いは勘弁して」と言い張るオニイを駅まで送る。車中、くだらないダジャレを連発してオニイの不安そうな顔を紛らわそうと試みてはみたものの、不機嫌な仏頂面をますます険しくしてばかり。駅で車を降り、バイバイと後ろ手に手を振るオニイは妙に足早だ。
10時きっかりに電話のベルが鳴った。 慌てて飛びついた受話器から聞こえてきたのは「お兄ちゃん、どうやったの?」という、実家の母ののどかな声。数日前に発表は終わったものと思っていたらしい。 「今から発表で、オニイから電話がかかってくるかもしれないから」と慌てて母からの電話を切る。 受話器を置いたまさにその瞬間、再び電話が鳴った。
「かあさん、僕・・・。・・・残念ながら・・・・合格しました!」 馬鹿者! こんな大事ときに変な冗談を言うな! 心配してたんだぞ! 「ごめん。ありがと」 よかったね、ほっとしたよ。 おめでとう。
午後からさっそくで入学説明会。 入学までの手続きや校則の説明、制服や体操服などの採寸、申し込み。 怒涛のように先生方のお話が続いて、受験生はあっと言う間に新入生の顔になっていく。 オニイの選んだ高校は、ちょっと古風な感じの田舎の普通科公立高校。 生真面目そうな校風がオニイにはちょうどいい。校内で見かけた在校生の先輩たちも変に崩れたところがなくて、おっとりしたのどかな顔をしているような気がする。 今日改めて気がついたが、この学校の女生徒の制服は30年前私が通っていた母校の制服にそっくりの紺のブレザーと長めのプリーツスカート。男の子の詰襟学生服も母校のそれとよく似ている、 以前にこの学校を見学に訪れたとき、なんだか懐かしい思いがしたのはきっとこの旧式な野暮ったい制服のせいかもしれない。
この学校での3年間。 オニイはどんな人と出会い、どんなことを学ぶのだろう。 たくさん挑戦して、たくさん寄り道して、たくさん悩んで、実り多い学校生活にして欲しい。 成長を見込んでワンサイズ大きめをえらんだ詰襟の学生服。 まだ服の中で泳いでいるオニイの痩せた体が、強くたくましく成長していくことを祈る。 おめでとう、オニイ。 よく頑張った。
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