即興詩置き場。

2004年07月26日(月) 泥霧



泥霧


あなたがたがそのように日々わたくしを名付けていくとしても
わたくしにとってまさしく霧のような
それは一寸の先も見えぬ濃霧のような
わたくしとわたくしでないものとを遮断して
穴という穴から
わたくしの内部にまで浸り
破壊していくような
たとえば憐憫にも似た
肌を舐め回すような圧迫感を
あなたがたが与えるとしても

それはすべてわたくしの屍骸なのです
あなたがたはいつも
わたくしを殺すこともせずにわたくしの屍骸を産み
それにわたくしという名前を与え
まるでそれがわたくしであるかのように
せめて
わたくしを殺してからにすれば
そのような戯れを知ることもなく
安らかに過ごせるのでしょうに

夜の明ける直前の
泥にも似た霧が
わたくしに似た影を
幾重にも作り出す
紫の東雲に映る姿が
わたくしのものであるのか
わからないまま
崩れ落ちるのが
わたくしであるのか
わからないまま




2004年07月21日(水) 親指



親指



昔の女と話をする
昔の女は昔を知らない
ふりをして
少しだけ話す

サンダルから
知らない親指が生えている
尻の形は
変わらないのに





2004年07月07日(水) 朝の烏




朝の烏



君に語る言葉が見つからないので
女を買った
入浴料1万円
サービス料2万5千円
女と談笑する
女と語る言葉はある
女に伝わる言葉はある

路上で浮遊している
誰か轢かれないかなと思う
誰も轢かれないけれど
誰か死なないかなと思う
誰もが女たちと語り合う
君に語る言葉が見つからない
俺が死んでもいいと思う

ひとつ気付いたこと
朝の烏はよく鳴く
うるさいくらい鳴く
誰と語ることもなく
烏たちは鳴く

女は声を上げる
挿入すると声を上げる
サービス料2万5千円の
声を上げる
君に語る言葉が見つからない
君に語る言葉が見つからない
食欲がない
でも食べる
君に語る言葉のために
女も買う
メシも食う
君に語る言葉が見つからない
その隣で浮浪者が糞をしている
烏が鳴く






2004年07月05日(月) 保存用短歌


(以前書いた即興短歌。2001〜2002)



催涙ガス食らったみたいに笑いながら泣く君見て笑う僕

目の前で起こったことではない あれはテレビの中 あれは11日

名も知らぬ野花を土足で踏みつけてうつむきながら「花」と名付ける

仰ぎ見る空を隠して泣く人を花は名付けることができない

お互いがお互いを敵と言い続け 平行線は闇の間に間に

さよならをしたいしたいのあいだもも 大好きだから黒木香も

超えてしまうとわからなくなるもの哀れ たとえば超音波哀れ

おはようのちゅーする頬をはたかれて今日も元気に行ってきますを




2004年07月04日(日) 遠い朝、泣かない夜



遠い朝、泣かない夜


苫小牧の少女が一篇の詩を書き上げる頃
渋谷の未成年たちは今日の居場所を探す
小さなハコで鮨詰めになって揺れながら
沖縄の夜の珊瑚礁を思う
糸井川の漁村の少年は
明日の朝の漁を邪魔しないよう
小さな自分の部屋に閉じ込められ
暗闇の中、昼間に聴いた流行歌を口ずさむ

すべての人に
すべての夜を
夢を見るには早く
あきらめるには
ほど遠く

病院の地下の霊安室で
実習生が泊り込みの番をする
ホルマリンの臭いの奥で
生きてきた人々の気配が消えていく
すべての人に
すべての夜が
ときどきには
訪れないまま
眠らない人々の溜息と吐息が
紫煙のように目的もなく立ち上り
それはまるで
愛しいものを知らない嘆きのように
呪いとなって降り積もる

すべての人と
すべての夜に



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