DEAD OR BASEBALL!

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Vol.145 オーバー40's in MLB
2003年08月25日(月)

 予め断っておけば、私はMLBには全く詳しくないし、そう多くの選手を知っている訳ではない。だからこれから書くことには随分と無理が出てくると思う。ただ、夢想を繰り広げるにはそれなりに面白い材料だとも思うので、敢えてその夢想を拡大する為に書いてみる。

 ヤンキースのロジャー・クレメンスが、来年行われるアテネ五輪に、野球の米国代表として参加する意欲があることを表明したという。クレメンスと言えば今シーズンに通算300勝と通算4000奪三振を達成し、41歳になる今年も“ロケット”の異名に違わぬ豪腕振りを発揮する90年代最高の投手。

 今年限りの引退を表明していることは惜しまれるが、野球人生最後の花道をアテネで飾るという気なのだろうか。五輪には3Aから選手を選んで派遣してくるアメリカの事情を考えれば、実現の可能性は未知数に近い。

 夢のある話ではある。MLBが主導権を握って動かしていたスーパーワールドカップ構想が宙に浮いている中、これまでMLBは野球の国際舞台には目もくれず、MLBこそが世界最強を決める舞台としてその維持に努めてきたフシがある。そこに今期限りの引退を表明しているとは言え、いまでもメジャーの一線で充分に活躍しているクレメンスが来るというなら、これは間違いなく見所の一つにはなるだろう。

 これを機にアメリカが野球の国際舞台に本気になる、とまでは流石に思わないが、国際舞台で一線級を揃えたオールアメリカも見てみたいし、戦い振りに唸ってみたいという欲求もある。ただ、MLBの事情を考えれば、本気というのがどこまで本気なのか、それもまたかなり天井が低くなる。

 そこにクレメンスが表明したアテネ参加への意欲である。大リーグ機構のバド・セリグコミッショナーは今年3月、メジャー登録25人枠に含まれる選手の五輪出場を認めない決定を下した。引退を表明したメジャーを代表するクラスの投手の意欲を、MLBはどのように受け止めるのだろうか。少なくとも引退を表明しているクレメンスに、この障壁は存在しない。

 MLBとしては、これまで3Aクラスでメダルを獲ってきている五輪にメジャークラスの選手を派遣することに、正直旨味は感じていない筈だ。だが、それはあくまでもMLBという組織の論理。MLBの功労者の一人と言ってもいいクレメンスの意欲、これはMLBとしてももしかしたら頭痛のタネになっているかもしれない。これまでアメリカでこのようなケースは聞いたことがないし、少なくとも日本でニュースにはならなかった。

 そこでふと思い立ったのが、クレメンスのように既に引退を表明している選手や40歳以上の選手で構成された、MLBの代表チームが組めないものか、ということ。

 日本に比べ、30代後半〜40代でも一線で活躍している選手が多い印象のあるMLB。選手層の違いによる絶対数の差、と言えばそれまでだろうが、41歳になる今年になってもなお95マイル近い速球を投げ込むクレメンスの姿を見ると、肉体の作り方や構造が違うということはできるかもしれない。いずれにしても、日本では超ベテランと呼ばれる年代の選手でチームを構成しても、国際舞台で一線級のチームが作れるのではないか、そんな疑問がふと頭をよぎった。

 40歳になるランディ・ジョンソンは今年故障者リスト入りで本来の力を発揮していないが、それでも100マイルを投げる“ビッグ・ユニット”の勢いは衰えをまったく感じさせない。同じく40歳のエドガー・マルティネスはマリナーズの主砲を変わらず務め、同僚のジェイミー・モイヤーは41歳になった今年も淡々とローテーションを守り抜いている。今年ドジャースに移籍した40歳のフレッド・マグリフは、昨年カブスで30本塁打103打点を記録した強打の一塁手だ。

 何と言っても驚きは、44歳になる今年、独立リーグから7月にドジャース入りしメジャー復帰した“世界の盗塁王”リッキー・ヘンダーソン。

 昨シーズンオフはどことも契約することができなかったが、引退の2文字を億尾にも出さず独立リーグに移籍し現役続行、打率.339という成績を引っ提げ出場した独立リーグのオールスターゲームではMVPにも輝いている。深刻な打撃不振に喘ぐドジャースが7月に緊急獲得したが、復帰後4試合で2本塁打を放つ活躍を見せ、ドジャースファンの間では救世主的存在になったようだ。

 46歳の今年、ヤンキースに移籍してきた左殺しの職人ジェシー・オロスコが現役最年長と聞く。38歳まで水準を下げれば、かつてはロッキーズの超強力クリーンナップの一翼を担った強打は尚健在の39歳エリス・バークス(インディアンス)や、2種類のナックルを投げ分ける現役トップクラスのナックルボーラーである38歳スティーブ・スパークス(タイガース)もいる。ジャイアンツを支える女房役のベニート・サンティアゴも38歳、何より忘れちゃならないのが、あの説明不要のバリー・ボンズも39歳だ。

 この辺りの選手が出てくる可能性は、コミッショナー通達があることを考えればいまのところゼロと言ってもいいだろう。だが、41歳のクレメンスが五輪参加の意欲を表明しただけで、これだけの夢想を繰り広げられるのがMLBの懐の深さであることは間違いない。

 クレメンスやボンズやジョンソンが同じユニフォームを着てグラウンドを席巻する姿を想像すれば、これは垂涎ものの光景になる。年齢で選手を測るのはバカげたことかもしれないが、それだけに年齢の壁を感じさせない、違った意味でのドリームチームになる可能性はある。

 このオーバー40'sが実現しなくても、クレメンスが五輪の舞台に立つ姿は、是が非でも見てみたい。

 最大の問題は、こんなとんでもないチームがもし五輪に来た日には、日本にとってとんでもなく強大な壁になることだ。しかし、そういう勝負が見れたのなら、一介の野球好きとしてはまさしく夢のような話ではある。

 日本の勝利を願ってはいるが、強大な相手とのドリームマッチも見てみたい。このパラドックスは、見ているこちらの頭が痛い問題だ。 


Vol.144 ゴルゴタの丘の失望
2003年08月07日(木)

 本日から甲子園大会が始まるというのに、私の頭の中はアテネ五輪の野球予選代表のことでいっぱいである。ただし、今度ばかりは相当悲観にならざるを得ないというのが本音でもある。

 スポーツにおいて、国際大会に相当のウェートがあることを持論としている私にとっては、今度のアテネ五輪は本気で勝ちに行かなければならない舞台設定だと考えている。途切れたメダルの系譜を復活させ、韓国からアジアチャンピオンの座を完璧な形で奪還し、世界における野球というスポーツの地位を向上させる。それだけの使命が、今回の日本代表にはある筈だ。

 勝てるメンバーを選出しなければならない。勝てるプログラムを書かなければならない。それ故に、既に発表された代表候補33人の顔触れには失望を禁じえない。

 最大の誤算は、古田敦也(ヤクルト)の選出がなかったことであろう。今回の日本代表は、これまでに類を見ないオールプロ、長嶋茂雄監督言うところの“ドリームチーム”である。ドリームチーム=最強チームではない、という持論はひとまず置いておくとして、プロの中でも各球団のトップ選手を集めた、自信もプライドも半端ないチーム編成。その中に入ってチームをまとめることの重労働は、想像を絶するものがある筈。

 選手会会長の古田以外に、その大役を任せられる選手がいるだろうか。古田は戦力としても十二分に機能する好守の要、そして彼には国際大会の経験も豊富にある。そういう選手が、代表候補にすら選ばれない。これは長嶋監督の限界以前の問題の筈だ。

 サッカーのワールドカップで、秋田豊と中山雅史が選ばれた以上の理由を古田は背負う資格があるし、必要不可欠な戦力の筈。はっきり言えば、長嶋ジャパンをチームにする為には、古田のリーダーシップは絶対に必要だった。

 長嶋監督は阿部慎之介(巨人)を使いたいのだろうが、短期決戦においては、感情がすぐリードに出る阿部の悪癖は致命傷になり得る。阿部を使うにしても、古田をベンチにおいてリード面のチェックをしてもらうだけで随分と違う筈だ。

 古田はシドニー五輪予選時、松坂大輔(西武)の球をほんの数球受けただけで、その日の松坂の調子や球筋を掴み、基本的な配球を想定したと語っていた。それだけの頭脳を持ったキャッチャーは、世界を見回しても右に並ぶ者がいない。短期決戦において古田の頭脳は、リーサルウェポンであると同時に必要最低限の戦力。ウルトラマンのスペシウム光線みたいなものである。

 長嶋監督が失念しているのは、国際大会における経験の重要さである。例えば、小久保裕紀が選出されていない点。

 確かに彼は今期はケガで1試合も公式戦に出場していない。リハビリ期間を考えれば、どこまで本番に間に合うかにも疑問符がつく。しかし小久保には、青山学院大時代に学生で唯一バルセロナ五輪の代表になった実績がある。国際大会におけるアウェーのグラウンド状態の悪さを肌で感じている選手がいれば、他の選手が現実に戸惑う中、「いや、海外の球場はこんなものだよ」と言うこともできる。それだけでチームの空気は断然違ってくる筈だ。

 古田はその点でオールマイティーな存在だ。戦力としても、頭脳としても、リーダーとしても、全ての要素を兼ね備えた選手。そんな役割は、絶対に古田以外の選手には務まらない。

 長嶋監督は選手選考の経緯について、「将来プロ野球を背負っていく選手たちが五輪という大舞台を経験することは、将来の日本野球界にプラスになる」と語った。若い選手を中心に据えて将来を見据えたというのが古田不選出の理由だろうが、日本のキャプテンとしての古田の姿を見て学ぶことは山ほどある。「古田のいない経験」と「古田のいた経験」、その中身に差が出ることは想像に難くない。

 先月スポーツ紙に掲載された「選手が選んだオールジャパン」の捕手部門で、古田は堂々の1位に輝いている。選手から磐石の信頼を得ているキャプテン古田を選ばない理由は、本来なかった筈だ。

 長嶋監督にしてみれば、「現場監督はいらん! 俺がリーダーシップを取る」というところだろうが、百歩譲って選手枠の中に入れられないにしても、コーチ枠の中に入れる手はあった筈。大野豊氏、中畑清氏、高木豊氏では長嶋監督の暴走を止められないが、古田の存在感があれば選手は一枚岩になれるのではないだろうか。

 シドニー五輪本戦の時は、黒木知宏(千葉ロッテ)を始めとしたプロ選手が率先してベンチのムードを作ったという。それに触発されたアマの選手は、黒木らにプロの意地と凄み、そしてプロ・アマの壁を一切感じさせなかった黒木の人柄とリーダーシップに随分助けられたと口にしていた。異国の地で戦う短期決戦なら、尚更そういう空気作りは重要な要素になる。

 コーチ三氏の選出にも疑問が残る。なぜ国際舞台の実地実績がない三氏をコーチに選んだのか、もう一つはっきりしないからだ。

 前述したように、選ばれた選手は実績と実力を兼ね備えた選手ばかり。平たく言えば、今更コーチングなど必要のない選手である。そうなればコーチの役割というのは、国際試合の参謀役。どれだけ世界の野球事情に精通しているかが問題であって、国内にばかり目を向けていたプロ出身のコーチでは役不足だろう。

 極端に言えば、対アメリカ限定で言えば故パンチョ伊東氏が就いた方が、少なくとも三氏よりは明確に役割をこなせただろうということである。台湾ワールドカップで三塁コーチをしていた應武篤良氏辺りが収まればよかったが、「何をするか」より「誰がするか」が大きくなった以上、プロ出身から選ぶ以外の選択肢はなかったのかもしれない。手段と目的が入れ替わった結論、と言うことはできる。

 まだレギュラー半というところの鈴木尚広の選出にも賛否両論ある。長嶋監督は鈴木を候補に入れた理由を、「国際試合は僅差の試合が多い。試合終盤に脚力のある鈴木がベンチに控えていれば、面白いのではないか」と語ったが、「今年の能力優先」という長嶋監督の選考基準に反した選出であることは間違いない。

 足が速くて尚且つレギュラーをしっかり掴んでいる外野手なら、赤星憲広(阪神)を筆頭に、谷佳知(オリックス)、村松有人、柴原洋(ダイエー)、大村直之(大阪近鉄)などよりどりみどりの状態。そういう選手を差し置いて鈴木だけが“代走要員”として選ばれるなら大問題になる。

 鈴木が選ばれるなら、ユーテリティープレイヤーとして木村拓也(広島)、走塁職人として早坂大輔(オリックス)や福地寿樹(広島)、森谷昭人(大阪近鉄)が選ばれてもいいという理屈になる。少なくとも、各チームでレギュラーとして働いていない選手を入れるような愚行は許されるべきではない。

 現状の長嶋ジャパンは、キリストがゴルゴタの丘を自らを処する磔の十字架を担いで上る光景を連想させる。古田ならその歩みを修正することはできたかもしれないが、候補メンバーに古田の名前がない以上、その望みは限りなく薄い。

 長嶋ジャパンに対しては、結果が出るまで絶望はしない。このメンバーでも一定の成果を残す可能性は低くない筈である。ただし失望することは山ほどある。本気で勝ちにいくなら、余計な線引きは何本も必要ないし、極力シンプルな考えで充分な筈である。長嶋監督はそういうことをじっくり考えてみてほしい。



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