2005年03月20日(日)  嘘をついた男


嘘をついた男ニコル・ガルシアによって映画化され、2002年のフランス映画祭でも『見えない嘘』という題名で上映された映画の原作。
著者はエマニュエル・カレール。彼はフランスでも著名な作家で、95年に(フランスにて)発表された『冬の少年(原題:LA CLASSE DE LA NEIGE)』は、フランス文学賞のひとつ、フェミナ賞を受賞。この映画も同名で映画化され、やはり99年のフランス映画祭で上映された。後に、『ニコラ』という邦題で一般公開されているのでご存じの方もいるのではないでしょうか。

実はわたしは、この本を読むまで、この『冬の少年』がエマニュエル・カレールの書いたものだとは知らず、そう言えば、心の奥深くにある「闇」をテーマにしたこの話は、『嘘をついた男』に出てくる主人公(実在の人物)に共通するものがあるなあと改めて気がつきました。『冬の少年』に出てくる少年は、まさに嘘をついた男の幼少時代の心を表現したものだったのですね。

偽医者として親族友人を18年間も騙しつづけた男ジャン=クロード・ロマン。収入源は、人の善意を利用し、だまし取ったお金。最終的に彼の選んだ道は、妻に子ども二人、両親を殺害し、自宅に火をつけること。そして自らも命を絶とうとするが未遂に終わる。事件後、彼の正体が明らかになるやいなや世間・マスコミは大騒ぎ。作家エマニュエル・カレールは、この男の「頭のなかにあるもの」に興味を持ち、獄中に居る彼に手紙を書きはじめる。膨大な資料を読み、裁判を傍聴し、7年の歳月をかけて1冊の本をしたためた。
映画を観たときもショッキングだったが、映画でいうならば、いささかドキュメンタリーともいえるこの本は、そのほとんどが事実に基づいて描かれているので驚かされることばかり。人が四苦八苦して何かを創造したとしても、こんなすごい事実を知ってしまったら最後、創造することに限界を感じるのではなかろうか。というか、本当にこの話は嘘みたいだ。

原題は「L'Adversaire(敵)」
心のなかに「敵」を宿した男。男はその敵を隠すために「嘘」をつく手段を選んだ。しかし、彼にとって敵とは、本当は、とうの昔に「心」をなくした彼の実体そのものかもしれない。フランスでは死刑が廃止されているので、いくら残忍な行ないをしても死でもって罪を償うことはできない。判決で無期懲役を言い渡された彼は、獄中生活に問題なければ2015年(61歳)に出獄する予定になっているらしい。

ロマン事件の詳細はこちら(フランス語のみ)


 前の日    次の日

MAILchat gourmand X

Copyright 2000-2009 nekotama club All rights reserved.

リンクは自由に貼っていただいてかまいませんが、
記載内容の無断転載はお断りいたします。

My追加