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僕の、場所。

今日の僕は誰だろう。



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 僕の部屋は6畳一間だ。ただの学生なので大して良いアパートでもない。大学よりも附属特別図書館への利便性を優先した結果、バス路線も少ない変なところに借りてしまったが、まあそれなりに愛着のある部屋である。
「大学へは行ってるんですか?」
 アパートに着き、そこが本当に学生街というより住宅街の中だと知ったらしく、もっともな質問をカヤから受けたが、それには自信を持って答えられる。イエスだ。
「僕が行かなきゃならないのは週に一回だけだ。他の日はずっと図書館に居る。でも…」
「………」
「…でも、もう無意味かもな」
 喋りながら、安っぽい階段を上がる。ポケットから取り出した鍵でドアを開ける。手探りで明かりをつける。靴を脱ぐ。
 こんな何年も続けてきた動作さえ、きっと無意味な物になってしまう。この女の子に会って、僕はこの世界に違和感を覚えた。現実の何たるかを知ってしまったからだ…。
 カヤは、開いたドアの手前一歩下がったところで立ち止まっていた。また、僕の顔をじっと見つめる。
「あんまり綺麗じゃないけど、まあ、お嬢様、どうぞ」
 照れくさくなったのでわざと大げさに礼をして、セーラー服の女の子を招き入れた。
「…おじゃまします」



 正直、少しばかり緊張している。
 大学院生の自分、そして部屋に女の子。ぶっちゃけた話、可愛い子だ。
 久々に誰かの手料理を家で食べた僕は少なからず感動していた。
 しかし、これもまた正直な話、この子を相手にどうこうしようとは思わない。
 彼女が作ってくれた夕飯――まあ、ただの炒め物だが――は美味しく、僕の作り溜めしておいた煮物を彼女は誉めてくれた。そして今テレビを見ながらコタツでお茶を飲んでいたりする。
 これはしばらく忘れていた、団欒というもの。
「わあ、酷いニュースでしたね今の…」
「そうだなぁ…あれじゃ被害者も浮かばれないな」
 もしかして僕の探し物はカヤなんじゃないか…とさえ思える、この安堵感。不思議な少女だ。
「ところで、アキトさん。明日なんですが」
「え」
「何ですか?」
「いや……」
 団欒していたのに…。やはり、やはり、現実は僕を見つめているのか。なら僕は睨みつけてやろう。リモコンで、テレビの音量を少し下げた。手頃なBGMになる。
「私、実はこの町に来たのは1週間前です。でも、アキトさんは何年も住んでいますよね」
「4,5年かな」
 大学に入った頃から住み始めた町だ。一度引越し、独り身の気軽さであちこち歩き回りもした。今では近所のおばさま連中の中では好青年として認識されるに成功した。
「で、アキトさん。どこかココだ!っていうポイントはありませんか? …私は骨董屋さんなんかを主に探していたのですが…」
「骨董屋…ってことは、やっぱりあの扉の鍵を探した方が良いのか」
「そうですよ! 何言ってるんですか。扉が見つかっても鍵が無くっちゃ開きません」
 どうやら本人怒っているらしいが、湯飲みを両手で持っているのであまり迫力が無い。一生懸命な様子が可愛らしくもある。いや、贔屓目じゃないぞ決して…。
「鍵掛かってるとも限らないし、それに何なら力ずくでも開くさ」
「だめですっ、そんな野蛮な」
「野蛮って」
「ちゃんと…ちゃんと段階を踏まなきゃいけませんっ。そういうものなんです」
「………そうか」
 コタツに入ったったまま寝転がって腕を伸ばして本棚。一番下の地図を引っ張り出す。
 起き上がってそれを見せると、カヤは嬉しそうな顔をしてくれた。

 ……そうだ。あの扉を探し出して開ければいい。
 白い雲と透明な風と、そしてその向こうに。




「……じゃあ、明日はこの辺りでいいか? 一応僕の良く知ってる、少しおかしな区域だ」
「はいっ」
 色々書き込んで説明した地図を見ながら、カヤは元気よく返事をする。そして、それはまた僕に再認識させる。客観的に見ればどうなってもおかしくないこの状況を。
「カヤ…」
 明日の予定を組み、面白いテレビ番組も無く、そしてする事が無い。後は、寝るだけだ。何となく、どちらも風呂に入るとは言い出さなかった。初冬だし、一日くらいは、まあ良いだろう。
 そう、そして本当に後は寝るだけなのだ。
「何ですか?」
「えーと…どこで寝る? 一応布団なら」
「コタツで良いです、暖かいですし」
 新聞紙被って寝るのに比べれば遥かに良いです、なんて続けて笑いながら。ベッドに寝ころんで布団を被って寝ている僕は、何もいえない。
「…何ならおにーさんの胸の中で暖まるか?」
 掛け布団を捲って、布団をぽんぽん。悪い人っぽく笑ってみる。
「いえ、いいです」
 ……即答されてしまった。



「アキトさん、おやすみなさい」
 そして、カヤはセーラー服のままコタツで寝てしまった。
 僕は、なかなか眠りにつけなかったのだが。
 暗い部屋の中で誰かの寝息が聞こえてくるなんて、緊張以外の何者でもない。
 だが、色々あった今日はさすがに疲れていたようで、薄暗い空に鳥の声が聞こえる頃ようやく睡魔に襲われた。
 僕はそのまま、深い睡眠に引きずり込まれてしまった。




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