いやーまたまたやってしまいましたね。 というわけでして久々のシンゴ日記です。 皆さん今年は海に行きましたか? 「海」 その大いなる海原。時折見せる凶暴さは男達のハートをくすぐる。 毎年この季節になると、果敢にアタックをかける・・・。 浜辺に打ち上げられた貝殻は、はかなく消えた男達の夢のかけら・・。
「ばっかじゃなーい。プシューー!!」 深夜特番「嵐を呼ぶZ」を見ながらそういった。 山育ちの悠には、画面に映っている命の危険をかえりみず海に向かっていく人の姿が、幼い頃大雨の中、山に入って土砂崩れに遭い行方不明になってしまった友人「小山」とだぶって見えていた。
翌日、友達で自称丘サーファーの胃潰瘍賢一が悠を海へ誘った。 「そんなにプシュプシュしてたってつまんないだろー、カブトムシもさー。おまえもいい年して虫取りはやめろよなー!!夏がおわっちまうぜー!そうだ!海に行こう、海にはおまえの好きなルーギャーもいっぱいいるぞぅーー」 「えぇー・・でもーー。カブトムシはいる?」 「・・・・・カブトガニだったらきっといるぞーー」 その話をどこからか嗅ぎつけ、悪友シンゴも「トップレスですかーーー」と鼻息荒く加わった。 こうして3人は、とびきりの波とトップレスギャルとカブトガニに期待と股間を膨らませスターパインズビーチへと繰り出した。
ちょうどそのころ海岸では二人の男が月明かりの中、会話をしていた。 「波が・・・荒れてきよった。今年も奴が来るか・・・・。 いつも少し遅れてやってくるんだよ。あいつが来ると、あぁ今年の夏ももう終わりだな・・・」遠い目をしながら、年老いた竹内がつぶやいた。 「わしも、若い頃は『奴』に魅了されてね。気が付いたらもうこんなに時間が経っていたよ。『奴』と対峙するたび・・思うんだ。あぁ、今年こそは飲まれてしまう、もうこれでおしまいかなってね。でも『奴』は、まるで意志でもあるかのように私を誘うんだ。ほら、こっち側に来てごらんってね。そしてね、毎回行ってしまうんだよ。もう戻ってこれなくなるかもしれないのにね。」 「そうなんですかー」 「奴」に見せられたもう一人の男はそういった。 「でも、竹内のおっちゃんは、うれしそうだね。俺はすごく怖いよ。」 「ふふ、わしだって怖いさ。だから右端でいつも高見盛関みたいになってるんだよ」 煙草の煙が海風に飲まれ遠く消えてく。波の音がだんだんと激しくなっているのか、2人とも妙な胸騒ぎを感じた。
「・・違うんだよ!!もっとこうやって・・そこ!!ピンと伸ばす!!」 [ーー・・・・ガ・ガ・・ガ・・・ガガーーー臨時ニュースです。] 「おぉ、なんだなんだ!?」
車中でフリーダムの振り付けを熱心に賢一に教えている時だった。 「まずは芸能から。香港ついに新曲発表か!?いままで、『いつまでも俺達は変わらない、いやかえられない』をモットーに活動を続けてきたアカペラバンド「ホンコンパラダイス・・失礼しました。香港ラッキーズ」に新曲発表の噂が各地で広まっています。この噂の真相は9/28日に明らかになる模様です。・・・続いて、台風情報です。毎年各地で猛威を振るっている台風「残間」が、オホーツク海で突如発生し、吉祥寺スターパインズビーチ目がけて南下しております。「残間」は雨、風もさることながら、その轟音に毎年、鼓膜が破れる、寝付きが悪い、夢枕に出てくるといった被害を多数出しており、気象庁は、耳栓を町で無料配布するなど対応に追われています。現在、福島県中島村上空を70キログラムの重さで南南東に向かっています。残間の中心の気圧はまっまっまっまっha、血圧は正常。最大瞬間音量は580682ホンと前例のないうるささです。気象庁では、夜中に一人歩きしてると不意に後ろから残間が襲ってきて○の叫びがきこえなーい、と言ってきますが決して答えないようにと注意を呼びかけています。」
「おい。。。聞いたかよ。。。一昨日の夜テレビでやってた奴じゃないの?なんかロボットみたいな動きするじじいがでてた・・・うん、そうだよ。「昨日夢を見ました「奴」はきっと近々やってくるでしょう。」とか訳わかんないこといってたよ」運転しながらシンゴは言った。 「あれ?おまえも見てたんだ?嫌な予感がしてたんだ。やっぱこなけりゃよかったよ。ついついカブトガニにつられて来ちゃったけど・・これじゃ採れないよ。戻ろう。」 シンゴが車をUターンしようとしたとき賢一が叫んだ。 「ダメだ!!明日を逃すともう夏はない。今年こそは丘サーファーから足を洗いたいと思ってるんだ!!それに、カブトガニはちょうど今が産卵期。特に台風の来ているときはもうそこら辺でうようよ。どうだ?行くだろ?」 「トップレスギャルは?」 「もちろんいるさ。去年はたくさんのギャルがお気に入りの水着を風にとばされてたなー・・・」
「・・・・・行こう!」
振り付けは、I wish に変わり、車はビーチへと進んでいった。
朝が来たというのに薄暗く波は一層激しさを増している。 「奴」に魅せられた男は、ビール片手に竹内の帰りを待っていた。 「おっさんどうしたんだ・・・。ちょっとトイレに行くって言ったっきり戻ってこねぇ。・・・まさか!?」
竹内の愛用しているボードが、近くの浜に打ち上げられた事を知ったのは2時間後のことだった。 男は知らせを聞き竹内の営むサーフショップに駆け込んだ。 店の前には、「本日「奴」のため、臨時休業」の張り紙と男宛の手紙
前略 記憶喪失の君が来てからもう10年ほど経つか・・・。 腕前もずいぶん上達したな。まあわしほどではないが。(笑)
冗談はここら辺にして、もうおまえに教える事はないつもりだ。 わしは今年で引退する。今後はおまえがこの海を守る番だ。 裏の倉庫に伝説のボード「あなたがいれば・・」がある。 わしはうまく乗りこなせなかったがおまえならきっとできる。 けっして奴を恐れるな。
ps、それと実はおまえはわしの子じゃ。という夢を見ました。
「馬鹿じじい・・・」
涙をこらえて男は倉庫にある「伝説のボード あなたがいれば・・」を手に海へ向かった。
男が浜に着く少し前に、氷の世界の振り付けをようやく覚えた賢一達が浜に着いていた。
波は大きくうねっている。風のつよさは今まで体験したことがないくらいだ。
地元の警察がやってきて 「先ほどここで水難事故があったから、、危ないから家に帰りなさい。え?カブトガニ??いるわけないだろこんな所に。・・ささ帰った帰った」
・・・・・・だまされた。
悠は思った。カブトガニどころか、人っ子一人いやしない。勿論ギャルも。そこにあるのはもの凄く速い速度で流れる雲と、大きな波、悲しい叫びにも聞こえる風の音。 「カニいないってさ。」 帰ろうと車に戻ってみると、シンゴしかいなかった。 「あれ胃弱な賢一は?」 「なんだか、「おれはできる、俺ならやれる、そうさ、そうだろ!!なあ悠帆!!」とかいって、ボード片手に海に行ったよ」 「ばか!!何で止めないんだよ。あいつは泳げないんだよ!!このくそデブ!!プシューっ」 脳裏に幼い時の記憶が蘇った。 あの日は、小山と山でかくれんぼをしていた。 あいつは鬼で僕らを探してた。突然夕立になって足がぬかるみはじめたため 小山に何も告げずに僕たちは帰ってしまった。小山は僕らを探し回った・・・。 小山の母からうちの子が帰ってこないと連絡があったのは夕飯時。 うちの親父も地元消防団に混じって小山を捜した。土砂崩れの現場からあいつの靴が見つかるまでそれほど時間はかからなかった。でもあいつは帰ってこなかった。
悠にうながされ、シンゴも海に向かって走っていった。 賢一は何処にもいなかった。 「とりあえず警察に・・・」 「・・・おい、あそこ、、、、なんか見えてきたぞ」 波間にボードに捕まる人影が二つ。 ぐったりしている賢一を抱えてきたのは、あの男だった。 「有り難うございます。こいつはいつも突っ走って。よくかむんですよ」 シンゴは言った。 「あぶないだろう!!君たちも!!早く家に帰りな!!もうすぐ奴が来る」 そう言う男の顔を見ていた悠は戸惑った。 声、目、鼻、口、、おかしい。見たことがある。 「あの、、名前は・・・?」
「おれか?おれは・・・・竹内だ」 少しがっかりした悠達をよそに風が強く吹いた瞬間それは始まった。
波が急に静まり、どこからかゴジラのテーマソングみたいな物が聞こえてきた。
「や・・・奴だ・・・」
もの凄い早さでそれはやってきた。 「いいいいいいいいいいいっつああああああーーーー!!!!!」 音の津波とでも言うべきか、、立っていられないぐらいの大音量。 賢一はカニのようにあわを吹いている。 もうダメだと思った瞬間。 竹内と名乗る男が「シューワラットゥダ・オー・シューワラットゥダ」と言って 海に向かってステップを踏んだ。 あ・・あれは!?昔一緒にやったシューワラットゥダ遊びだ!! 悠は確信した。小山だ。小山しかあのステップはできない! 「たぁまぁしぃの叫びがきこえなぁーーい!!」 残間は激しくなる一方だ。 悠も小山に続きボイパに入った。 つられてシンゴも入った。 賢一は泡を吹いている。 ベース音もどこからか聞こえてきた。 小山が振り返る。 竹内だった。 「まだまだだな。おまえ達。そんなんじゃ奴には勝てんぞ!」 竹内は、トイレに行く途中、帽子を風にとばされてしまい、どうしようと困っていた。悩んだあげく、小山を置き去りにして、帽子屋の前で開店を待っていたという。 人生のうちで2度も置き去りにされるなんて・・・・ 悠は思った。
奴はどんどん大きくなり私たちの目に立ちはだかっている。
賢一は相変わらず泡を吹いていた。
さあ、みんなも9/28は残間と戦おう!!
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