◆2002年日本選手権シリーズ第一戦 読売ジャイアンツ×西武ライオンズ� 陛豕�ドーム)巨人1勝 西武 000 000 001 │1 巨人 004 000 00X │4 勝ち投手 上原1勝 負け投手 松坂1敗 【西】松坂、三井、後藤、土肥−伊東、中嶋 【巨】上原−阿部 本塁打 清水1号2ラン(3回・松坂) 清原1号2ラン(3回・松坂) カブレラ1号ソロ(9回・上原) 【戦評】効果的な本塁打2本で巨人が先勝した。清水・清原ともに松坂の失投を見逃さない一発で、そのまま主導権を手放さなかった。上原は12奪三振の快投、最終回にカブレラに本塁打を浴びたものの、危な気ない投球で完投した。 エースの猛々しさと22歳の幼さが、同居しているようなマウンドだった。しかし、その対価は幼さのみに支払われたと言っていい。 伊原にしてみれば、松坂を第一戦に持ってくるローテーションは勝負手ではなかったのかも知れない。上原に対して松坂で取れれば上出来……それぐらいに考えていた策だったのかも知れない。しかし、短期決戦における第一戦の流れというものが決して軽くないことも、恐らく伊原ほどの監督ならば知っている。 それでも敢えて松坂を第一戦に立ててきたのは、松坂がその意味を理解していると踏んだからだろう。さしもの伊原も、松坂の無邪気なまでの愚直な勝負への欲求は読みきれなかった。 立ち上がりから松坂の調子はあまり良くなかったように見える。体がやや開き気味で、ストレートがあまり走らない。スライダーは抜けたり指に引っ掛かったりで、中々制球が安定しない。リードする伊東も、もしかしたらブルペンの時点で気付いていただろう。その証拠に、普段よりも随分とカーブの比率が多かった。 巨人の桑田や千葉ロッテの黒木は、自身のフォームバランスをマウンド上でチェックする為にカーブを投げるという。カーブが横に流れれば、体が早く開いて腕が横から出てきている証拠だからだ。逆に言えば、カーブがきっちりと縦に割れればフォームのバランスがとれているということでもある。 伊東の思惑は、半分まで当たっていた。1回を乗りきった松坂は、徐々に球の走りが戻ってきていたからだ。松坂本人も、その手応えを感じていた筈だ。そこに落とし穴が待っていた。 2回は松井稼のエラーから招いたピンチを凌いだ松坂だったが、3回先頭の上原にこの日初安打を与える。追い込んでからややインコース寄りに入ってきたカーブ、食らいついた上原の打球は三遊間の人工芝の上に決して綺麗とは言えないラインを走らせた。 その時、松阪の中で何かが狂い始めたに違いない。1アウトを見込んでいた投手相手に、決して失投ではない球をヒットされたことで、松坂の気持ちがキレてしまったように見える。清水に先制弾を浴びた球は、ド真ん中のストレート。見入られたように甘く入った球に、本来の力はなかった。 続く二岡に安打を浴び、高橋由には四球。無死一、二塁で松井を迎えた時には、もう崩れるしか道はない筈だった。しかしここで松井が三振ゲッツーに倒れ、ここを凌げば試合の流れはまだまだ分からなかった筈。しかし、ここで松坂の中で“持病”がムクムクと首をもたげ始める。 松坂は、シリーズ開幕前からずっと口にしてきた。『キヨさん(清原)とは真っ向から勝負したい』と。よく知られていることだが、清原は松坂の憧れであり、共に食事をする仲でもある。松坂にとって最高の勝負ができる相手、しかし未だ公式戦では対決してこなかった両雄。その巨大な存在が、目の前にいる。松坂の血が騒いでも、無理はない。しかし、場が悪かった。 松坂は、半ば「試合」を度外視して二人だけの「勝負」に没頭しようとしていたのではないか。清原をただただ力で牛耳りたいという、アスリートとしてある種当然の、しかしエースとしては甚だ幼稚な思惑は、清原の全く曇りのないスイングによって完全に粉砕される。左翼席後方の壁にブチ当たる超特大アーチ。ドームを壊さんとする強烈な打球は、同時に試合まで壊した。 伊原の決断は早かった。次の回、松坂に回ってくる筈の打席には代打貝塚が入り、松坂に残った数字は3回4失点KO……同様に立ち上がり不安定ながら、外角の制球重視に投球を切り替えて立ち直った上原とは、完全に対照的な結果になった。 伊原の目に、松坂が身勝手な勝負に固執した姿は歯痒く映ったのではないだろうか。個人の感情や私意をシリーズに持ちこむ奴に大事な試合は任せられん……あまりにも早い伊原の決断は、この登板が松坂を全面的に信頼して送り出したものではないということを表しているような気がしてならない。同時に、このシリーズでもう松坂を使う意思がないということも表している……というのは深読みだろうか。 伊原は松坂を試金石にかけたのだと思うのだ。松坂が、最も大事な時にチームを勝利に導くことができるエースであるか……伊原はシーズン中、何度も『ウチのエースは西口』と言ってきた。それは西口の力に全幅の信頼を置いているのと同時に、松坂にはチームの勝敗を託すことが絶対的にはできないという焚きつけでもあったに違いない。松坂には、試合の中でも自分の世界に入り込んでしまう悪癖があり、それによってこれまで何回も試合を壊してきた。 松坂がいなくてもローテーションを回してこられた先発陣の厚みは、確かに西武のアドバンテージである。しかし、松坂というリスキーなカードで初戦を落とした意味は、決して小さくない筈。果たして今後、伊原は松坂をどのように使うのか。中継ぎか、或いはメンバーから外すか、或いは先発でリベンジの機会を与えるか。 この初戦、結果的にはまだ伊原の計算の域を出ていないと思われる。伊原の中で松坂が崩れるということは想定の範疇だろう。だが、流れという要素は確実に伊原の思惑の外でも動いている。その流れを掴むカギは、松坂で失った以上は松坂でしか取り返せない。そして松坂が「試合」よりも「勝負」にこだわる幼さを捨て切れないなら、伊原にとっての最大のリーサルウェポンは最大の不良債権になる。
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