月の輪通信 日々の想い
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ゴールデンウィーク、真っ只中。 例によって一家で車に乗り込み、加古川のおじいちゃんおばあちゃんのところへなだれ込む。 格別何をするというでもなくて、父さんはおじいちゃんと延々仕事のお話をして、子ども達はそれぞれに買い物に出たり、庭で砂遊びをしたり・・・。 私は母と久しぶりに庭に出て、新しく造り替えたガレージや花壇、家庭菜園の様子を見たりして、のんびりと過ごした。
「田舎へ帰る」というけれど私の実家は新興住宅地にあり、スーパーも大型店舗も病院も我が家と比べ物にならないほど近くにたくさんあり、正真正銘田舎者の我が家の子ども達はおじいちゃんおばあちゃんの自転車を借りて、あちこちうろついて、都会の生活を楽しんでいる。 ちょうど、実家の裏に大型のドラッグストアが最近開店し、裏口を出るとものの1分でティッシュやちょっとした食品が買える。 「あかあさん!ここだったら、一人でちょこちょこっと行って、お買い物ができるねぇ!」アユコがお昼のレトルトカレーを買出しに行って、感激して帰ってきた。 「ホントにねぇ。でも、うちだって徒歩1分でハイキングコースよ。めったにない環境なんだから・・・」 ・・・て、誰もうらやましくないか・・・。 うちの近所に、このあたりの大型店舗を一軒か2軒、もらって帰りたいといつも思う。
私達の到着から1日遅れで、下の弟夫婦がようやく2ヶ月になったユキちゃんを連れてやってきた。 私は赤ちゃんが生まれてすぐ、病院で「はじめまして」は済んでいるのだけれど、父さんや子ども達は初めてのご対面。 大柄な弟にひょいと抱きかかえられてやってきた赤ちゃんは、本当に小さくて子ども達がわぁっと寄ってくる。 身の回りに小さな赤ちゃんを見る機会が減って、アプコなんかはちゃんと物心ついてからは初めて見る赤ちゃん。 「おかあさん、手、ちっちゃいねぇ。」 こそこそっと戻ってきては私の耳許でアプコが囁く。 アユコもどきどきしながら赤ちゃんを抱かせてもらって、しげしげと赤ちゃんの各パーツを「観察」して、微笑む。 ゲンはどこやらのTVで見た裏ワザを試したいといって、ぐずり始めたユキちゃんの耳元でスーパーのレジ袋をガシャガシャ言わせて、本当に泣き止むかどうかの実験を始める。 ふと気がつくと、ベッドメリーが回転する赤ちゃんのお布団の周りにアユコ、ゲン、アプコがおんなじ格好で腹這いになり、頬杖をついて赤ちゃんの寝顔を眺めていたりする。 「なんだか大騒ぎやなぁ。」 一緒になって周りに寄っていくのがちょっと恥ずかしいお年頃のオニイも含めて、思いがけなく小さくかわいい新しい従姉妹の到来が子ども達に新鮮な驚きと興奮を運んできた。 「新しい命」の持つエネルギーは、ちょっと前まで同じような赤ちゃんだった子ども達にも嬉しい感動を持ってくる。
「なんだかしょっちゅう指しゃぶりをするんですけど、ミルクがたりてないのかしら。」 「とっても長い時間寝てることがあって、こんなにミルクの時間があいちゃっていいのかしら。」 新米ママのTちゃんが赤ちゃんの世話の合間にポツリポツリと、「育児相談」。 その時代を通り過ぎた者から見ると、何のことはない健康な赤ちゃんの成長の一過程であることも、初めてのママにとっては心配事であったり、悩みの種であったり・・・。 ああ、私も始めての子育ての頃には、こんな風にいちいち判らない事だらけで赤ちゃんと向き合っていたのだなぁと思い出す。 おっぱいオムツねんね、おっぱいオムツねんねの毎日。 甘酸っぱい乳の匂いに四六時中包まれていた懐かしい日々を振り返る。
「ユキちゃん、かわいいね。」 アプコが何度も戻ってきては私の耳に囁いていく。 「ユキちゃんのおへそ見ちゃった。かわいい。」 「ユキちゃん、げっぷしたよ。ぐふーって」 末っ子姫のアプコにとって、赤ちゃんは子犬か電池入りのお人形のように興味津々の珍しい生き物。 そして、自分の母や姉が自分より小さい子を抱っこしたり、あやしたりして、ちやほやしている状況もアプコにとっては初体験。 はじめは一緒になってちやほやしていたものの、途中から「あたしが一番じゃないなんて、ちょっと許せないわ」という、お姫様根性も垣間見えるようになって来た。 「ユキちゃん、かわいいから2,3日借りて帰ろうか」 と聴いてみたら、「いや」と即答。 理由を聞いたら、「赤ちゃんはすぐ泣くし、しょっちゅう抱っこせなあかんで。」 はい、そのとおり。 ご安心ください。母にももう一から赤ちゃんを育てるエネルギーはございません。そうでなくても手のかかるお子さん達が4人もいるからね。
「片手で抱っこして片手でご飯。あんな時代も長かったよなぁ。」 帰りの車の中で、父さんも感慨しきり。 「すっかり堪能しちゃったねぇ。子育ての大変な時代をいくつも乗り越えてきたんだねぇ。今だって、まだまだ結構大変だけど・・・。」 オニイの初めて育児で不安な赤ちゃん時代。 心臓病を心配したアユコのガラス細工に触れるような赤ちゃん時代。 おおらかに乳を飲み、丸々と太っていったゲンの赤ちゃん時代。 そして、なるちゃんの死をこえて、家族みんなで迎えたアプコの赤ちゃん時代。 小さい命が運んでくれたたくさんの驚きや感動。 その結果として、今のガチャガチャうるさい、手のかかる子どもらがいる。
生まれたての小さいユキちゃんの握りこぶしが、何を握っているのか見るのを忘れた。 新生児のこぶしの中には綿ほこりだか手垢だか、なんだか得たいの知れないものがにぎられていることがある。 小さい子ども達がぐっと握り締めて離さない大事なもの。 そんなものの存在を何時までも忘れない親でありたいと、昔思ったことがある。
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