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2002年07月13日(土) 嵐事情 *** 其の参

 ふいっと、風が吹く。
 まるで何かを告げるように。それは二人を柔らかく包んで、去った。



 っざああああああああああああっっっ!!!

 何の前触れもなく豪雨が訪れる。突風にあおられた雨粒は三蔵の視界を白く渦巻き、会話すら阻むような大音響を立てて地に落ちた。風も雨も、容赦など微塵も感じさせず、しかし優しさを孕んで世界を揺さぶっていた。
「……さんぞ……大丈夫か?」
 信じられないほどの豪雨に突風。一瞬にして全ては嵐に征服され、周囲の欄干からはいっせいに水が滴り落ちる。油断していた三蔵は、当然濡れ鼠である。
「……チッ」
 嵐の喧しさを上回る、不機嫌絶頂の舌打ち。その三蔵が盾となったため僅かに濡れただけで済んだ悟空は、さすがに少し気になって肩越しに三蔵を振りかえった。
「うっわ、濡れ坊主」
 濡れに濡れた三蔵と、音を立てて落ちてくる雨粒が視界に入った。三蔵の機嫌は見なくても明らかだ。
「黙れ」
 悟空の待ち望む雷だけがまだ遠い。聞こえなくなった雷鳴を探すように、彼は耳をそばだてた。未だ座り込んでいる三蔵にのしかかって、遠くの空を見つめる。
「こんだけ降ってると、かえってソーカイじゃねえ?」
「知るか」
 三蔵は、上に乗り上げた状態になっている悟空を退けようともせず、常以上に冷たい返答を返した。既に素っ気無いを通り越して刺々しい。
「なぁっ三蔵っ!すげくねぇ?俺こんなスゲェ雨初めて見た!」
「……うるせぇ」
 その時突然、やる気なく相槌を打っているだけだった三蔵が動いた。
 ぐっ、ズシャァッッ!
 上に乗っかっていた悟空の襟首を掴み、豪雨の跳ねあがる大地へと投げ飛ばしたのである。水滴は更に激しく空を舞い、柔らかく崩れた泥も負けじとその饗宴に参加する。
「ってぇっ!…ちょっさんぞっ!いきなり何……」 
 五秒も経たないうちに全身ずぶ濡れになった悟空は、当然三蔵へ非難の目を向け―――驚きに目を見張った。
 三蔵が、雨の中、踏み出している。
 ゆったりとした歩みで惜しみなく雨に身を曝し、その視線はどこまでもただ悟空を見据え……。
 ドッ……ガラゴゴッ!
 強い閃光と強い轟音。激しい雨は激しい雷を連れてきた。生憎と悟空はそれを見られなかったのだが。
 カッ!どど……。
 響く轟音が、他のどんな音も掻き消してくれる。
「なぁ……さんぞ……」
 雷鳴とくちづけの合間を縫って、悟空の声はなんとか三蔵の耳まで届いた。
「俺って」
 水と光と音とキス。目を開ける暇はおろか、息を吸う暇すらどこにもない。それでも悟空には、三蔵に伝えたいことがあった。今、確かめたいことがあった。
 だから息を吸う。思いきり。
「…天才……だよな?」
 どどどどどど…ん……。
「あ?」
 雷がなる一瞬前に聞こえた言葉に、三蔵は自分の耳を疑った。
「俺って、三蔵の気分を変える天才、だろ?」
 柔らかく微笑った。
 頬に触れる体温の暖かさに、いつだって泣きたくなるくらいの安堵を覚えていた。触れれば痛いほどの雨粒を背に受け、ただじっと悟空を見下ろす自分勝手な想い人。その視線すら愛しい、気分屋な想い人。彼がこの雨の優しさを感じたらと、悟空は心の底から願った。少年を雨から守ろうと無意識に必死になっているのが、こんなにも伝わってくるのだから。
「…天才、だな……」
 地に横たわる悟空をしつこく眺め回してからようやく、三蔵はぽつりとそう言った。悟空が不安になるくらい長い沈黙だった。三蔵の声以外何も聞こえないし、それ以外を必要だとも思わなかった。だから、返事が返ってきた時彼はひどく安心した……まるで滑稽なほど。
 思わず頬が緩み声が笑ってしまうのも致し方ないだろう。
「……だろ?」
 明けない夜はない、と言う。しかし例え明けなくても、夜そのものを変えてしまえばそれで済むと、彼らはいつでもそう括る。
 同じように、止まない雨はないのだ。だから、雨を楽しむことは罪だろうか。それは誰かを裏切るだろうか。自分を傷つけるだろうか。雨のように泣きたがっている立ち止まったままの心に、救いを与えはしないだろうか。
 悟空の笑みに、三蔵の機嫌は再び上下の移動を激しくする。
「濡れ猿だがな」
「あ、ヒデッ!自分だって濡れ坊主のくせに!」
 降り出した時と同じように唐突に雨は止んだ。雲は切れ、夏の太陽が顔を出す。小川のように流れる雨水に陽光がきらめき、三蔵の髪の一房一房から飽くことなく水滴が滑り落ちていった。その金色の眩しさに悟空は目を細め―――大事なことを思い出した。
「っあーーーっ!雷、結局見逃したじゃんかよっ!三蔵のせいだっ!」
 今更なようだが、悟空はかなり真剣である。そんな悟空に、三蔵は少し、ほんの少しだけ、口角を緩めた。

 嵐の休息。また吹き荒れるその時まで―――






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『濡れ猿』って言葉は特に気にならなかったんですが、『濡れ坊主』っていうと妙にえっち臭い気がしてならない川原です・・・。1日遅れてしまい、申し訳ございませんでした。でも終わった!終わったぜベイベー!(←誰)其の壱其の弐は2時間ずつ程度で書けたんですが、第3幕、3度に渡るチャレンジの末、10時間近くかかってしまったという恐ろしい事実!!もう書けなさすぎて気に入ってんだか気に入ってないんだかも判りません。其の壱其の弐はかなりのお気に入りですよ。なんでこんなトコでひっそり書いちゃったんだろーとか思うくらいお気に入り。皆さん、身の回りの三空な方に宣伝しちゃって下さいv(←図々)
ってゆーか『嵐』が書きたかったんですけどね。どうして最後は雨になってるんでしょうね。雨よりは雷が書きたかったんですけどね。川原が雨好きなせいでしょうね。(←自己完結するな)
とにもかくにも〔アラシジジョウ〕、これにて終了でございます。読んで下さった方、ほんとにありがとうございます。毎回変わらず三蔵に苦悩しててすいません。私変な三ちゃんが好きなんですかね。・・・あーもうそういうことにしときましょうかね。って、こんなどうでもいいコトなら5分で書けるんですね・・・。悲しくなってきたのでまた明日。
そう言えば『空白の4日間』、まだ1日分余ってるんですよ・・・フフ・・・。(←思わせぶりなようでいて実はまだ何も考えていない、穴だらけ人間川原)でわオヤスミなさいませ。ってこれから風呂に入るのかい私・・・。

2002.07.19 00:30
ちょっとだけ加筆  2002.07.20 21:35
もうちょっとだけ加筆(←オイ)  2002.07.21 21:05


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