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2002年07月11日(木) 嵐事情 +++ 其の壱

 ガン!カン、カン、カン、……
 蝉も泣き出す梅雨の中晴れ。蒸し暑い初夏の一日。

「なー三蔵。坊さんたち、皆して何やってんだ?」

 カン、カン、……ズゴッ、ズゴッ、……
 寺中の僧侶が総出でかしましい音を遠慮なく生み出している図というのは、悟空でなくとも疑問に思う光景である。



「嵐が来るらしい」
 三蔵は、積み上げられた書類からは片時も目を離すことなくいとも簡潔に答えた。
「嵐?」
 齢十五にして退屈な寺院暮らしを満喫している悟空が、『嵐』という響きに喜びを感じてしまうことは、決して褒められたものではないにしろ、むやみと責められるものでもない。日頃から大きな瞳が更に大きくなり、効果音が付きそうなくらい輝いている。
「窓やら何やらの補強でもしてるんだろ。……だから今日は外へは出るなよ」
 普段から外へ出たがり、しかもいつもと違うことが大好きな悟空のことだ。彼がわんこ状態であることなど目で確認せずとも悟った三蔵は、先手を打ち、釘を差した。
「うっ……」
 耳と尻尾が垂れた犬……もとい猿こと悟空は、恨めしそうに三蔵を見上げる。彼としては、まだ体験したことのない『嵐』というものの激しさを、身をもって味わってみたかったのだ。
「濡れ猿を回収するのは御免だからな。風邪猿なんざもってのほかだ。それくらいなら雷に打たれてイッちまえ」
 口答えする隙さえ与えてもらえない。それどころか反対意見ばかり述べ立てられてしまっている。仕方なく、心の中で(かみなり……)と反復するに止めた。
 かなりぶーたれた表情になっている悟空を目の端に捉え、三蔵は再び書類へと全神経を向ける。嵐が来る前の静けさは、仕事をするにはもってこいな空間なのである……補強作業の音さえきれいさっぱり無視すれば。

 嵐に心を傾ける少年と、仕事に精を出す青年。
 勝敗の行方を決める勝利の女神の第一手は、一人の生真面目な僧侶によってもたらされた。



 沈黙を媒体に口論を交わす二人の間に、無遠慮なノックの音が割り込む。一瞬にして静寂は破られ、嵐を目前に控えたけだるい空気の音が三蔵と悟空の耳を直に刺激する。
 溜息混じりに三蔵は誰何した。
「…何だ?」
「三蔵様のお部屋の補強を、と思いまして……」
 そのセリフを聞くなり三蔵は心底嫌そうに眉間に皺を寄せたが、執務室の窓は連日悟空が出入りしている窓である。色々弱くなっている可能性も高く、万が一嵐が酷かった場合に窓が破れでもしようものなら、今数人の僧を中に入れることの方が被害は小さく済み、なおかつ休憩にもなるではないか、と理詰めで結論を導き出す。
「……入れ」
 しかしそれは、更に数瞬の間を置き、ようやく吐き出された。
 直後、失礼します、と言って入ってきた僧は三人。おそらく扉の向こうで待ち構えていたのだろう。床に座り込んでいた悟空を大儀そうに迂回してから、即座に作業に取り掛かった。
 一〜二分ぼんやりとそれを眺めていた二人だったが、赤マルを取り上げた三蔵が書類をそのままに扉の外へ向かうのを見て、悟空も後を追うように姿を消した。



  


---+++*+++-----+++*+++-----+++*+++--- キリトリ ---+++*+++-----+++*+++-----+++*+++---

・・・すみません・・・なんかどんどん長くなりそうなので切ります。そして寝させて下さい。(爆)続きはまた後日。(←こうやってどんどん連載を抱えてゆくおバカ川原。嗚呼自爆・・・)

2002.07.16 01:45
間違い探し的修正 2002.07.16 23:00


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