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2005年06月09日(木) 「ミリオンダラー・ベイビー」

今日は北米旅行の戻る前に、先にひとつ。帰国後最初に何を観に行ったかというと、キングダム・オブ・ヘブンでもコンスタンティン(というかもう終わっていた!)よりも先に、「ミリオンダラー・ベイビー」を観てきました。アレキサンダー以来の傑作映画でした。大勢の人が多分この作品に戸惑ったことでしょうが、痛いくらいに鋭く真摯な姿勢で、人間の尊厳について描こうとしている作品でした。これがアカデミー作品賞を獲ったということは歓迎すべきことではありますが、まったく腑に落ちないのは、どうしてこの作品の良さを理解できて、「アレキサンダー」の良さは理解できないというのでしょうか。映画界において、アカデミー賞自体にさほど価値があるとはもう見做されていないとはいえ、やっぱり権威のある賞ではあります。
この二つの違いはやはり「セックス観」なのでしょうか。

 ヒラリー・スワンク演じる貧乏な田舎娘マギーが、ボクシングで勝取る人生の栄光と転落。
 このドラマは「女性らしさ」だとか「男女の性差」といった観念を差し挟む余地のない、ジェンダー論を飛び越えた次元で展開します。そんな悩みや葛藤は最初からマギーの遥か後方に追いやられており、最後まで彼女は「女」ではなく一人の「人間」としての誇りを賭けて戦います。典型的なホワイト・トラッシュ。生活保護を受けて中古トレイラーで暮らす、無教養な家族を背負い、三十二才までウェイトレス生活を続けるマギーにとって、「女であろうとする」ことなど、贅沢なことです。だから彼女が「女らしくない」こと、彼女に「女として共感できない」ことを理由に眉を顰める人がいるなら、この物語はそうした考え方とはまったく違う次元で展開していることになります。
 クリント・イーストウッド演じるボクシングの名トレーナー、フランキーと彼女の間に、性別も年齢も超えた人間同士の絆が芽生えていく過程は、とても感動的です。私はこれをスラッシュだと思いました。男同士の友情の中に私たちスラッシャーが夢見るものと、共通するものが二人の間にはあったように思います。果たしてマギーとフランキーの間に芽生えた感情が友情なのか、親子愛なのか、男女の愛なのか、分類することは難しく、きっと分類する必要もありません。

ここからは大きなネタバレを含むので、これから観ようと思っている方は飛ばしてください。

 この物語はキリスト教の教義と真っ向から対立し、神父が登場しフランキーと会話する重要な場面があることからもわかるように、そのことから逃げも隠れもしません。むしろ真摯にぶつかっていきます。
 最後にフランキーが取った行動――マギーが一度手にし、奪われた尊厳を再び返してあげることは、私個人としては、当然の行動のように思えましたが、さてどうでしょうか。「アレキサンダー」でも、大王が瀕死の兵士を楽にしてやるために止めを刺すシーンがありましたが、日本人にはそれほど受け容れ難い選択ではないように思います。フランキーが神父を通してどんなに問いかけても、神は納得のいく答えをくれなかった。後悔の念から解放されることはないにしても、彼は最後には知りたかった答えを見出したのではないでしょうか。
 愛は必ずしも血の繋がった家族から得られるものではないし、救いは必ずしも聖書にあるわけではない。つまりこの世には善意にしろ悪意にしろインチキが横行していて、皆それを信じている。もしかするとすべてがインチキかもしれないし、信じ込まされているだけかもしれない、と感じている時に、二人はそのゴミ溜めの中で真の絆を築いていったんだろうと思います。


「ミスティック・リバー」もそうでしたが、クリント・イーストウッドの孤独な哲学には胸を打たれます。なんといっても孤独です。彼の年にもなると世の中の不条理に寛容になれるのでしょうか。
 マギーと家族のやりとりは、もう少し公平に、あるいはコミカルに描けたかもしれない。本当はその予定だったのに、状況があまりに悲惨すぎて、そんなふうに観る事が出来なかったのかもしれません。「ミスティック・リバー」もですが、きっと原作はまた更にいいんじゃないでしょうか。
 モーガン・フリーマンの立場もとてもいいですよね。

話は戻りますが、この映画は賞賛されて、「アレキサンダー」はバッシングされたというのは残念なことです。マギーのような女性を受け入れることは出来ても、バイのアレキサンダーは受け入れられないのか! もちろんアレキサンダーとマギーはまったく異なるタイプの「ヒーロー」だし、セクシャリティ以前にアレキサンダーには共感できる人が少なかったということもあるでしょうが、もし彼からゲイという要素を取り除いてさえいたら、「ミリオンダラー・ベイビー」並じゃないにせよ、そこそこの評価を得ていたのではないか、という気がしてしまいます。逆にもしマギーがレズだったら、この映画はクソミソに叩かれていたのでしょうか。「レズなら違う世界の住人。私の知ったこっちゃない」と思われたのでしょうか。私にはたいして大きな違いには思えないのですが。

ところで全然話は変わりますが、あの懲邪ムービーを下ろしたら、今でも海外から「見れない」という問合せがきます。「もっと作ってくれるのかな?」「作るって言ってたよ」「今は素材探しをしてるんだって」などと他のLJにもコメントが載っており、哀しい限り。しかし、著作権法に違反しているのだから、諦めるしかありません。

コメントもこちらから。私が旅の途中で撮っただいたいが欧米の風景写真が表示されます(地味に交換してます)




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