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2004年05月16日(日) トロイ辛口レヴューとパトロクロスのこと

中つ国、19世紀と最近何かと忙しいのですが、最近大王のせいで
古代ギリシアにはまっております。そしてトロイを見て参りましたよー。
敵はブラッド・ピットとオーランド・ブルームの連合軍だからな〜
手強いぞーと2時間前に行きましたが、なんとかベターな指定席を
取ることが出来ました。

まずは肯定的な話とツッコミから。
とにかくオトコを見る分には、素晴らしい映画だ!
ヘルム渓谷でレゴラスが弓をつがえた時にはどうしようかと思ったが、
映像としてはなかなか申し分がなかったです。衣装も美しく、セット
も期待していた程度にはよかったです。指輪の規模を堪能した後では、
どんな映画も厳しい見方を余儀なくされて分が悪いのは仕方がない
ことです。戦闘シーンもカット割りがよく練られてて、見せ方を
心得てるという気がしました。

見終わった後釈然としないものも残り、早速イリアスを読みました。
辛かった……近年稀に見る辛い読書だった……イリアス(河出書房の
世界文学全集・堂々の第一巻)を完読することに比べたら、指輪物語
なんて楽なものです。もっと読解本みたいのから手をつけるべきだった
でしょうか。それを読めば、アキレスとパトロクロスの関係を除けば
他のカプはどれも荒唐無稽にしかなりようがないことがわかります。
でもあれだけオイシイオトコが揃ってるんだから、
映画版トロイの荒唐無稽スラッシュ・アーカイヴ
くらい誰かが作ってもよさそうなものです。

昨日読み始め今日の午後読み終えたという付け焼刃も甚だしい私
ですが、原書イリアスとの比較も交えて、やや辛口な全体レビュー。
ホモ妄想ネタは、また明日にでも。

そもそもこの話を映画化するのは無謀だったんじゃないかな。
イリアスを読めば、映画との共通点を探すことの方が難しいとしか
言いようがなく、同じ原作ベースの映画指輪物語と大きく違うのは、
PJは変更を加えながら何とか、トールキン・ワールドの精神を尊重し
ようとしている一方で、WPのトロイは古代ギリシアの精神そのものを無きものに
して果敢にも作り直そうとし、のらりくらりやって失敗してます。
これは半分ギリシア神話の神様の悪戯のような話で、そもそもが現代人の
感覚では受け入れがたい代物、人間がどんなに努力しようとも、神様の
気まぐれにかかれば天地はひっくり返る、ということが前提の話なので、
WP監督が「あくまで人間だけの、人間ドラマにしたかった」と言うなら
それはそれでいいと思います。神話の部分を根こそぎ切り捨てて、
ホメロス作の中ではたいして重要でもないキャラの内面の掘り下げを
行い、それぞれの野心や苦悩を描くのもひとつの試みかと思います。
ただし、映画の中では現代人に好まれるそうした脚色が、原作の
精神性とあまりに相容れないために、途中でアウト・オブ・キャラに
なったり辻褄合わせに陥ったりしてるところが多くて、やや悲劇的な
出来栄えです。
ヘクトールあたりは、原作の中でも共感を得られる勇者という立場を
貫いているので、納得のいく形に仕上がっていますが、アキレスあたりは
悲惨です。監督自身が、「映画を見てアキレスとヘクトールどっちが好き
かと尋ねたら、観客は半々に分かれたんだ」と言ってましたが、
それは君がアキレスを描く上で大失敗してるからだな、監督。
ヘレンも、古代ギリシアにおいては女性は「一番価値のある財宝」という
扱いでしかなかったわけで、原作ではメネラオスはおろか、パリス側に
さえそれほどの愛情(現代的な意味合いでの)があったかも疑わしい。
それを前提に作られた顛末という枠組みの中では、ヘレンはどう足掻いたって
無力で多少苛々する綺麗なお人形さんで、賢明に「私のせいで」
「こんなことになるくらいなら私が」と言わせているものの、どこか
白々しい。どんな意思も男たちに踏みにじられる不幸に、したたかに
耐える女、くらいに描けばよかったのかも。
パリスはオーランドの美しさに眼を奪われているうちに見過ごしがち
ですが、原作と比較してこうした掘り下げ方は良かったんじゃないで
しょうか。
オデュッセウスは、ショーンの演技はどこを見ても素敵だったのに、
脚本のせいで「ゼウスに匹敵するほどの知将」というキャラが伝わって
来なかったですね。トロイの木馬案を思いつくシーンも適当な感じが
して、そもそも木馬が取ってつけたようでした。実際取ってつけてる
んですが。

でも何よりも失敗だったのは主人公のアキレスの描き方です。
私のような付け焼刃ではなくて、以前にイリアスを読んだ方なら
皆さんご存知の通り、この話が主眼を置いている人間関係があると
すれば、それはパリスとヘレンではなく、アキレスとパトロクロスに
他なりません。私はアレクサンドロス大王の本を読んでいてこの
二人を知りました。しかし! 実は私のやわな頭はもっと昔に
この二人のことを、記号としてではあるけれど知っていたのでした。
大学の西洋美術史において勉強しとったことを途端に思い出し、
それどころか、アキレウスをモチーフにした黒像式壺絵を、
英国の大英博物館で見ながら母相手に中途半端な説明をぶった
ことがありました。日々、それとなくホモと接しているのですね。

我が愛しのアレクサンドロス大王が、自分と男の恋人
ヘパイスティオンを「アキレスとパトロクロス」に置き換えて
ウハウハしてたこともひとつですが、アキレスとパトロクロスの
関係は古代ギリシアの歴史に累を及ぼしているといっても過言では
ありません。
というのも、ホメロスが広く読まれた紀元前300年頃の、
テーバイやスパルタにおいて、この「パトロクロスを失ったアキレス
が闘志を燃やしてヘクトールを討った」ことを教訓として、
かの素晴らしいホモ精鋭部隊が誕生し、特にテーバイの
神聖部隊は、アレクサンドロス大王にカイロネイアの会戦で潰滅させ
られるまで、ギリシア随一の軍隊として恐れられていたのです。
彼らはなんとまあ、男同士の恋人同士を二人一組にして戦わせるという
軍隊でした。名誉や誇りを重んじた彼らの、「愛する者の前では
情けない姿は見せられない」という感情をうまく利用していたのです。
文字通りこれが最強軍団だったというから凄い。ちなみに、前の
日記にも書いた通り、スパルタは精神的な愛で結ばれたものたちを
主に指していたのに対し、ギリシアのテーバイは肉体こみです(だからなんだ)。
これを優れた戦略で打ち破った大王ですが、この大王の精鋭部隊
ヘタイロイ(兵士仲間)は、テーバイの神聖部隊を元に作られていた
というから、やっぱりホモホモ軍団だったに違いない。

なんて話はさておき、こうした状況を生んだのはホメロスの
「アキレスとパトロクロス」だったのです。イリアスを読んで
なかなか驚きましたが、最後のあたりはアキレスとパトロクロスの
恋愛物語みたいなものじゃないですか。読む気のない大勢の方の
ために、ふたりの主な顛末だけ。

原作では、仲間たちが無残に死んでいくのを見ておられず
アキレスの傍らでパトロクロスが涙を流し、それを気の毒に思い、
アキレスが
「どうしてそう涙にくれているのか、パトロクレース(パトロクロス)よ、
がんぜない小娘みたいに(中略)。パトロクロスよ、きみはつぶらな
涙をしきりに流すが、何かまたミュルミドーンらか、それとも私自身に
いいたいことでもあるのか(略)」
するとパトロクロスは、仲間を見殺しにするアキレスは無情すぎる
と言い、自分がアキレスの兜、甲冑を身につけて戦場へ行けば、仲間の
士気を高めトロイア軍を震え上がらせ、退陣せしめるだろうと言います。
アキレスは承知しながらも、
「いいか、私がいまいうことの、肝心かなめの大切な点を、しっかりと
肝に銘じて忘れないでくれ(略)。それは、船陣から敵を追い払ったら
引き返してこい、ということだ。けして君が、私を離れ自分だけで、
戦争好きなトロイア勢と戦いつづけよう、などと望んではならない」
そして、パトロクロスはアキレスの甲冑を纏って戦地へ赴きます。
この「第十六巻 パトロクロスの物語」に、いかにホメロスが力を
入れてるか、読んでるだけで伝わってきます。
映画とは違い小僧ではないパトロクロスは、勇猛果敢に戦い
敵を討ちまくって「パトロクロス一人でトロイアの城壁を陥落させる
のではないか」と思われるほどです。
けれど、親しい友がヘクトールに殺されるのを見て、アキレスの言いつけ
を守らず駆けていくパトロクロスは、ヘクトールとの闘いで(アポロン
に屈する形で)殺されます。このシーンが腐女子的に萌え。
ヘクトールは槍を突き刺したまま言います。
「武勇をいつも誇りとしているアキレウスまで、きみを助けるのに
役立たなかったとは。きっときみが出かける際には、ずいぶんたくさん
いすわったままで文句をつけたろうがな。馬を駆るパトロクロスよ(中略)、
武士を殺すヘクトールの鎧帷子を血みどろにし、胸のまわりに切り裂かない
うちは、けして帰ってくるな、とでもな。そうたぶんお前に言っただろう。
そしてお前の愚かな心に、そう覚悟させようとしたのだな」

――それに向かって、はやもう息も細々と、騎士パトロクレースよ、
きみは言った――<ホメロス>

「いまはもうはや、いくらでも、ヘクトールよ、威張るがいい(中略)。
 お前自身とて、長くは生きられまい。もうすぐ間近にお前の死と、
 容赦もない運命の日が迫っているのだ、誉れも高いアイアコスの裔、
アキレウスの手に討たれるようにと」

この後、みんなに愛されていたパトロクロスの屍を巡り、トロイア側と
アカイア(ギリシア)側で壮絶な争奪戦が始まります。ヘクトールは屍の
首を晒す為、アカイア側はアキレスのもとに持ち帰るためです。
なんとか屍は持ち帰ることに成功しますが、アキレスの悲嘆ぶりは
異常なほどで、ここまでどんな状況でも心を動かされなかった彼の
取り乱しようは凄まじく、映画同様討ったヘクトールを引き摺り
回し、屍を犬に与え、パトロクロスの火葬においては、トロイアの
12人の若い男を斬り捨てて一緒に焼いてやると誓うほど。
しかもこれを実行します。
その後も、パトロクロスの亡霊が枕元に立って別れを告げに来るのを、
「どうやってここへ、私の大事に思っているきみが(中略)、
もう少し近くに寄れ、たとえしばらくでも、お互いに身を投げかけ
あって、思う存分痛ましい嘆きに胸を慰めたいから」
この「身を投げかけあって」なる表現が微妙です。

これを読むと、アレクサンドロスは生前自ら言っていた、
「おれはアキレスの生まれ変わり」というのを、最後まで
その通りに実行したのだから、凄いですね。
確かにヘパイスティオンは彼に対してどこまでも忠実な友であった
とはいえ、若き日にアリストテレスに学んだ「ホメロス」が、
アレクサンドロスにもたらした影響は大きく、自分はアキレスで
ヘパイスティオンはパトロクロスだから、大事にしなければ
ならない、なんてことを子どもの頃に思っていたのかもしれない
ですね。絶対アキレス-パトロクロスごっこをしてエッチ
したことがあるぞ、この二人。それも14歳くらいで。いや、
それ以後繁く。


映画に戻ります。そもそもこの映画は娯楽大作であって、
こうしたことを一々指摘しても意味がないのですが、それにしても
このイリアスのくだりを知れば、おのずと判ってくることは、
ブラピアキレスに足りなかったのはパトロクロスとの関係でした。
パトロクロスこそが、アキレスをヘクトールに向かわせた動機であり、
それは映画でも描かれてはいましたが、あまりに中途半端すぎました。
なぜあそこまで、アキレスが怒ったのか、その理由として
苦し紛れに「最愛の従兄弟(肉親)だから」ということを強調してましたが、
もしもホモい関係とまではいかなくても、パトロクロスに
無名のGarrett Hedlundなる役者をあてがわず、せめて
ヒース・レジャー(オーリと二度目の共演を!)クラス↓


の若手(私としては若くなくていいんだが)人気急上昇アクターを
配し、丁寧に描いていれば、彼をヘクトールに殺された怒りに
燃えるアキレスに、納得に至るドラマを与えることが出来たん
じゃないかな。その盛り上がり(アキレスが立ち上がって
ヘクトールに相対する過程)にこそトロイという映画の大ゴミ、いや
醍醐味があったはず!
今思い返すと、ブラピアキレス側のパトロクロスへの気持ちは
多少描かれていたと思うけど、なんといってもパトロクロス側が
うすっぺらすぎましたよ。彼一人でもキャラとして立ってないと。

ヘクトールには立ち上がるべき理由が充分にあるのに対して、
アキレスにもそれと引けをとらないほどの動機付けがあってはじめて、
二人の戦いがたまらないものになるんですよね。
「ああ、パリスや国への愛情〜ヘクトールの気持ちはわかる……
でもあんなに魅力的だったパトロクロスが殺されて、アキレスの気持ち
はもっとわかる」という気持ちに、させて欲しかったものです。


まあ、それでもアキレスとパトロクロスはセクシーでしたけどね(笑)。
二人が登場し、そこにショーンが現われた時は、珍子がカチンコチンコ
になってましたよ。

また、萌えの話は今度。今日はパトロクロスの話でした。






コメントもこちらから。私が旅の途中で撮っただいたいが欧米の風景写真が表示されます(地味に交換してます)




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