| 2003年10月31日(金) |
狂気と誓約の関係 6 |
10/22の続き。
「アンタ、本気なの!?」
沙羅達がいる場所から更に森の奥に入ったところで、漸くルーティが腕を放す。 思いもかけぬ事態に目を白黒させていたスタンは、それでも素直に彼女の問いに答えた。 短く一言だけ。
「うん」 「うん…って……。さっきのセシリスの話、ちゃんと聞いてた!? ハッキリ言って、理解できるできない以前の問題よ!? アンタだって、解らないって顔してたじゃない!」 「理解はし難かったよ?」
矢継ぎ早に問いただすルーティに、スタンがサラリと肯定した。
「だったら……」 「でもさ」 「?」 「でも、沙羅の事を知る良い機会になると思うんだ。沙羅って自分に関する事、何も喋らないだろ?」 「……それは私たちだって同じじゃない」
自分たちだって肝心な−突っ込んだ事までは打ち明けていないはずだ。 ずっと、それこそ数年来の付き合いのような気安さが存在しているが、実際にはほんの2・3ヶ月程度。 徐々に各人の背景が解り始めている感はあるが、それでもまだ全体の3分の1にも満たないだろう。 いずれ接点がなるなる者同士、それくらいの距離感でいた方が楽で良い。 今現在、旅を続けていかねばならない仲間なら尚の事。 精神部分(もしくは過去)への介入は避けるべきだ。 内面を知るという事は、ある意味とても恐ろしい事だから。 じゃあ、何故セシリスの時はあからさまに興味を示したのかと問われるかもしれない。 あれは、彼とのこれ以上の関わりはないと確信していたからこそ。 もし、彼とも今後顔を突き合せねばならなかったとしたら、止めていただろう。 それにもう一つ、沙羅絡みでの理由があったから。 けれど。
「とにかく、私は反対。これ以上深入りすべきじゃないわ。―――って、何よ、そのアホ面は?」 「あ…いや、ルーティも偶にはまともな事言うんだなと思って」 「どーいう意味よ?」
ポカンと口を開けたままのスタンに目を眇める。 全くもって失礼な奴だ。
「俺だって、いつもなら他人の過去を根掘り葉掘り聞きだそうなんて思わないさ。誰にだって、触れられたくない傷は必ずある。……俺にだって」 「スタン?」
最後の呟きと共に、スタンの瞳に暗い色が宿る。 言葉は聞き取れなかったが、色の変化には気付いたルーティが眉を潜めた。 どんな時でも明るい色を忘れない彼らしからぬ、それ。 けれど次の瞬間には消え失せていて。 意味を問うタイミングを逸してしまう。
「でもさ! 今回は沙羅から話を振ってきたんだし、だったら乗ってもいいかなって。俺、沙羅について、もっと色んな事知りたいし。多分リオンもそうなんだと思う。だって、このままだと、本当の意味で【沙羅】って人間を知らずに終わっちゃいそうだ。勿論、聞いたからって本当に解るかどうかなんて解らない。でもチャンスだから。【ここ】と【あそこ】。【彼等】と【俺達】。明らかに違う二人の彼女。もしかしたら、今だって違うのかもしれない。だったら、何とかして【違い】の中にある真実の片鱗を見つけたいんだ」
真剣に言い募るスタンに、ルーティは思わず呆気にとられた。 確かに、自分達といる時の【沙羅】とセシリス達といる時の【沙羅】はどこか違うというのはルーティも感じていた。 雰囲気や言動や。 もっと言えば、沙羅そのものが別人であるかのように。 そんな可笑しな事を思ってしまうほど、何もかもが違った。 それほど彼等と親しい間柄なのだと説明されれば「そうなのか」と納得してしまうかもしれないが、それだけではない【何か】が横たわっているような。 だからこそ、あそこまでの空気が彼等の周りを取り巻いているのではないかと。 そんな気がしてしまって。
(それにしても)
バカはバカなりに、気付いてはいたんだなと感心する一方、小さな小さな棘が彼女の胸を刺す。 それ程までに聞きたいのかと。 沙羅を理解したいのかと。 けれどルーティはあえて痛みとその意味を気にしない事にして。
「……勝手にすれば」
暫し互いに見つめ合い、折れたのは彼女だった。
「ルーティ……!」 「ただし!」
嬉しそうに顔を綻ばせるスタンの眼前に人差し指を突き出し、忠告。
「話が全部終わっても、後悔や泣き言は聞かないからね!」 「もちろん!」 「威勢の良いその返事が嘘にならない事を祈ってるわ」
言い置いて、先に踵を返す。 その後姿に、「言わないよ!」と返すと、スタンもまた後を追った。
「スタンさん、ルーティさん!」
元の場所まで戻ると、待ちかねていたと言わんばかりに、すぐさまフィリアからの声が飛ぶ。 沙羅を除く他の二人も待ちくたびれたといった様子だ。
「それで? 決着はついたのか?」 「ああ。聞かせてもらうよ。ルーティもそれで良いよな?」 「……ええ」 「……だそうだ」
二人の意志を確認すると、組んでいた腕を解き、リオンが沙羅に向き直った。 フィリア・ウッドロウ・スタン・ルーティもそれに倣う。 受けて沙羅は一度瞬き。
「じゃあ、私側の事情に行きましょうか」
唇を湿らせ、語りだした。
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