| 2003年10月22日(水) |
狂気と誓約の関係 5 |
10/13の続き
「え〜〜と。どうコメントしたらいいのか……」
何故か代表者よろしくスタンが口を開くが、それ以上続かない。 困ったように周りを見回してもみるが、フィリア達も同様の表情で顔を見合わせるばかり。
気持ちは、解る気がする。 けれど、実際セシリスのような体験をした事がないから……。 しいて挙げればウッドロウがそれに近い経験(父親を殺害されている)をしているが、当然ながらセシリスとは全く同じという訳ではない。 それに、ウッドロウには最初から王たる道が存在していた。 つまり、民に平和を約束し、国を導く心構えが。 けれどセシリスは違ったのだと。 願いは全く別のところにあったのだと。 そう言われてしまうと、ウッドロウは自分と彼を同じように考える事ができなくなる。
「まぁ…別に理解しなきゃいけないわけじゃないから。ただ、当時のセシリスはそういう感じだったんだなーってのを前提に話を聞いて欲しいだけ。……言い当てたリオンには、正直驚いたけどね」 「……解らないこいつ等が愚鈍なだけだ」 「解る貴方の方が珍しいんだよ」
言い捨てたアメジストの瞳に暗い影を見つけ、沙羅は苦しげに瞳を細めた。 彼の想像が当たったのは、恐らく自分自身を重ねて見てしまったからだろう。 セシリスと選択肢は多少違えど、彼もまた近い将来、選ばなければならない。
選ぶ前も、選んだ後も。 どちらの彼を思っても、気分が塞ぐ。 せっかく仲間−友と呼べる人間に巡り逢えたのに。
「……本当に、残酷な事をする」 「何か言ったか?」
誰にとも知れぬ小さな小さな沙羅の独り言。 聞き咎め、怪訝そうなリオンに何でもないと首を振り。
「で、どうする? 【誓約】絡みで言うならば、今のはあくまでもセシリス側の事情。もし先を続けるなら、今度は私の事情も必要かなーと思うんだけど。【誓約】までいくつもり、ある?」
悪戯っぽく笑いながら、訊ねる。 『止める』というのなら、その方が良いだろう。 ハッキリ言って、沙羅の事情もセシリス同様、楽しいものじゃない。 そんな事情が【前提】としてある【誓約】もまた然り。 正直、オススメしたくない。 聞かされた方も困るだろうし。 多少ひねくれ者が混じっているとはいえ、総じて皆、優しく真っ直ぐな人たちばかり。 自分やセシリスの歪んだ【事情】に理解を示せと言っても無理に決まっている。 いや、むしろ解って欲しくない。 解らない方が、良い。
「さあ、どうする?」
思いながらも、再度問う。 皆が迷う中、真っ先に反応したのはリオンだった。
「僕は聞く」 「って、ちょっと、本気!?」 「当たり前だ。僕は冗談は嫌いだからな」 「そうじゃなくて!」
まるでリオンの正気をも疑っているかのようなルーティの言い様に、リオンはさも当然といわんばかりに返した。 更に。
「第一、最初に興味を示したのは僕等−というかお前達だろう。だったら、例え内容がどうであれ、最後まで聞くのが筋というものだ」 「……」
幾ら最初に沙羅からのお許しがあったとはいえ、止められたものを止める事なくねだったのは、確かに自分達だ。 だが、そんな風に『聞くべき』と諭されても困る…という、沙羅とリオンを除く者達には共通の沈黙だったはず、なのだが。
「……そうだな」
違った者が一人いたらしい。 両の蒼の目を閉じ、リオン曰く『軽い頭』を上下に振りつつ唸るように口にする青年。 言わずもがな、スタンである。
「確かにリオンの言う通りだ。中途半端で投げ出すのは一番良くないって、じいちゃんも言ってたし!」
騙され易い…いや、丸め込まれ易い…いやいや、純朴な人間が一人いたのを失念していた。
中途半端は良くない。 確かに良くない。 しかし、それとて時と場合と内容によっては許されるのでは?と皆が皆感じたとしても、責められはしまい。 それが例えスタン曰く【じいちゃん】だったとしても。
「……」
今度の沈黙は明らかに【呆れ】を含んだものだろう。 沙羅は可笑しくて堪らないのか、口元を手で覆いつつ肩を震わせている。
「私も聞きたいですわ」
スタンの【じいちゃん】発言から真っ先に立ち直ったのは、意外な事におっとりフィリアだった。 短く意志を伝えた後、暫し考え付け加える。
「リオンさんではありませんけれど、聞きたがったのが私達である以上、最後まで責任を持つべきだとは思います。それが始めた者に与えられる責務です。それに…こういう言い方はおかしいかとも思いますが、ここまで来て降りるのは気分的にすっきりしませんもの」
リオンとスタンに追従するかのようなフィリアの発言。 続けて。
「そうだな。私もやはり気になる」
ウッドロウまでもが。
「ちょっとちょっと! あんた達、本気なわけ!?」
思わぬ反乱に、先とは違った意味で呆然としていたルーティが我に返った。 彼女自身はこれ以上聞くつもりはなかったし、皆もそのつもりだと思っていたため、今回のコレは意外以外の何者でもない。 思わず詰問するような口調になってしまったが、それでも彼等は躊躇いなく頷いた。
「信っじらんない……」
こめかみを押さえ、頭を振りかぶる。 次いで、きっと顔を上げるとスタンの腕を掴み。
「ちょっと、アンタ来なさい!!」 「えっ!? お、オレ!!??」
何故か再び代表者よろしく、素っ頓狂な声を上げた彼だけがルーティに連れ去られていった。
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