独り言

2003年10月04日(土) 狂気と誓約の関係 3

9/28の続きです〜〜。




















衝撃の中で立ち直り、即座に切り返したのはリオンだった。

「つまり、国に対して害となる事…例えば、政務に関する悪問題や、悪ければ王主導の乱が起きるかもしれないという事か?」
「だったらまだ可愛いんだけどね。残念ながらもっと酷い事態が起きるわ」
「それ以外に、何がある?」
「……滅びる」
「滅びる?」
「そう。彼が本当に狂気にその身を委ねたのなら、あの国は一夜にして滅びの道を辿るでしょう。……彼が、それを望むから」
「ちょっと待った! 幾らなんでもそれは無理じゃない? だって、あの子は王様でしょ? あの国を愛しているのは、私でも解ったわよ? そんな人が、幾ら狂気に呑まれたからって国を壊したりする? そもそも、【憎しみ】って言葉自体があの子と結びつかないんだけど!?」

信じられない、と頭を振るルーティ。
他の皆も彼女に同意するかのように一つ頷いた。
それを見て、沙羅は微苦笑を浮かべ。

「でも、本当なの。彼はあの国を人を平和を愛してはいるけれど、同時に同じくらいの強さで憎んでもいるから」
「どうして……」
「彼は建国者だと聞いているが……。戦に終止符を打った者だと。そんな人間がどうして国を民を、何より平和を憎む?」

フィリアとスタンが呆然と呟く。
そして、民を率いる王となったウッドロウは『わからない』と疑問を述べながらやはり首を振る。
ルーティもまた眉根を寄せているが、彼等の反応とは別に、リオンだけが無表情にその話を聞いていた。
無表情?
いや、彼もまた密に眉を潜めていた事に、沙羅は気付いた。

『彼等が不思議がるのは当然の事』と、沙羅の苦笑は深まる。
自分だって、あの国の現状を、豊かな民の笑顔とそれに応えるセシリスのみを見ていたのなら、きっと信じられないだろう。
【愛している】のに【憎んでいる】なんて。
彼からはそんな雰囲気を微塵も感じ取れないのだから。
でも、自分は【あの頃】を知っているから。
あれから暫く続いた彼の【変化】を見ていたから。
あってもおかしくない感情だと、そう納得してしまう。
納得できてしまう。
だって、彼は。

「平和と引き換えに、彼は全てを失った。王という地位など望んではいなかった。平和を求めたのも、数多の苦しむ人々の為じゃなかった。彼が望んだのは、唯一つ」

区切り、静かに告げる。

「愛する義姉と、愛する親友と共にある、平凡で穏やかな日常」

一瞬の間の後、台詞の裏に隠されたものにリオンが気付く。

「得られなかった…という事か」

呟くそれは、疑問系ではなく、断定。
口元に考え深げに指を当て、沙羅を見遣る。
彼女の漆黒の瞳には、確かな哀しみ。

「そう。彼は得る事ができなかった。愛する義姉は、戦いの中で彼を親友を庇い、死んだ。彼等が共にある未来を夢見ながら。弟にそれを託して。親友は彼を想い、その命を救うために彼に殺された。自分の分も生きて、平和を見届けて欲しいと託して」

静かに、鎮魂歌を歌うようにもたらされた真実に、スタン達の表情も沈みこむ。
そんな過去があるようには見えなかった。
明るく、子供っぽさを多く残した、王様に見えない王様だと。
時折、大人びた−もっと言うならば老成した−表情などをみせる事はあったが、王という立場上、身に付けたものだろうとそう思っていた。
悲しみも、絶望も。
関係ないような気がしていた。
本来ならば、そんなはずはないのに。
建国者であるのならば、戦の最中に、彼に何が起こっていてもおかしくはない。
沙羅が告げたような事とて、あったかもしれない。
けれどセシリスはそれを微塵も感じさせない人だったから。
考えも、しなかった。

「―――あの子はそんな事、願っていなかったのにね」

沈黙は、重苦しくて。

「平和を得た代わりに失ったもの。大切なもの。国と民がそこに在ったが為に、失ってしまったもの」

『だから、壊したい』

それが彼の内に秘されていた昏い望み。

「……だが、幾ら潜在的な憎しみが存在し、尚且つ狂気に囚われたとしても、一夜で国を滅ぼすという喩えが本当なら、相当なモノが必要だろう。政務や乱では時間がかかりすぎるからな」
「ふふふ。そうね。【一夜で】というなら相応のシロモノが必要よね」
「ああ。だとするならば、【それ】は一体何だ?」
「それはね、彼が持っている強大な力」
「強大な力?」
「王という権力ではなく、ですか?」
「ええ」
「他に何があるんだ?」
「今、皆が持ってるソーディアン。それに似たものよ。ん? んんん?? ……いや、どちらかと言うと、神の目の方が近い、かな?」
『神の目、だと!?』
『それに近い…力!?』

驚愕に叫んだディムロスを始め、ソーディアン達がどよめく。
彼等は今、神の目の奪還を目的に旅をしている最中だ。
その脅威はソーディアン達によってマスターにも説明されているが、彼等は本当の意味で、その脅威が理解できていない。
どれだけ切羽詰った強い口調で代わる代わる説明されても、結局のところ、実際を目撃していないので、実感として捉える事が難しい。
千年前の事実だと実例を挙げてみても同じ事。
だからディムロス達は気色ばみ警戒をあらわにするが、スタン達は彼等ほどの動揺を見せない。
見せる事ができない。
無論、驚いてはいるだろうけれど。

「いや、別に神の目そのものってわけじゃないから。大体それくらいの威力があるんじゃないかな〜っていう、物の例え」

『脅かしてごめん』と沙羅が謝ると、ディムロス達は幾分安堵したように溜息をついた。
あんなものがもう一つ存在したとしたら、それこそ世界の破滅が無限に起こせてしまう。
しかし……。

『それ程の力を持っているようには見えんかったがのう』
『それらしい物のどこにもなかったし……』
「ああ、それはそうよ。だって、彼自身が【力】なんだもの」
「は?」
『どういう意味だ』

クレメンテとアトワイトの問いに沙羅が答えると、間髪入れず、スタンの間抜けな声とディムロスの訝しげな声が重なる。
その絶妙なタイミングに、「流石ソーディアンとそのマスター」と変なところで思わず沙羅は感心してしまった。

(息がピッタリなのは、戦闘においては重要だもんねぇ)

……本当に、今改めて感心するような事柄ではない。

「つまりね。彼の身体に【力】が宿っているの。力の源となるものが。例えるならば、モンスター達の身体の中にレンズが在るようなものかしら」

不穏な例えに、今度はソーディアンのみならずスタン達も顔色を変えた。
今、この世に存在する魔物は、全てレンズによって変質した動物たちばかりだ。
凶暴な性質と、考えられないくらいの力。
今までの旅で散々相手をしてきたそれらは、はっきり言って厄介な事この上なく。

(そう言えば、人間でレンズを飲んだが為に変質し、身を滅ぼしたものもいたような……)

思わず件の人物がそうなる様を思い描いてしまい、口元を押さえる。

「沙羅…例えが最悪に悪趣味だぞ……」

心底嫌そうな顔をしてリオンが呟くと、沙羅は「そう?」と首を傾げる。
解りやすい例えだと思ったんだけどなぁ…と。


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愛羅