| 2003年09月28日(日) |
狂気と誓約の関係 2 |
23日の続きです。 駄目な人はリターンよろしく。
「さっき、セシリスについて【普通に見えるか?】って質問したよね?」 「あ、はい。私、それをとても不思議に思ったのですけれど……」 「ああ、それは僕も思った。おかしな表現を使うと」 「うん、そうだね。普通、そんな風に訊かないよね。 でもアレにはちゃんと理由があるの」 「理由??」 「そっ。理由。何だか解る?」
まるで先生が生徒に対して質問をしているかのような沙羅。 そのどこかふざけた調子に、自分たちが彼女から何を聞き出そうとしていたのか、また聞き出すモノの性質を一瞬忘れかける。 故に。
「ん〜〜。実は人の皮をかぶった別の生き物、とか?」 「バカねぇ。んな訳あるはずないでしょ? 大体、その後、沙羅は【現在】と【過去】が違うとも言ってんのよ? そこから考えなさいよ」 「って言ってもなぁ……」 「今の彼と昔の彼では何か…そう、違うところがある、とかでしょうか?」 「具体的に言ってみろ」 「具体的に…と言われると困るのですけれど……」 「外見が違うとか?」 「スタン君……。時が経てば誰でも外見は変わるものだよ。成長するのだから……」 「あっ、そっか」 「バカが……」 「ルーティもリオンも、バカバカ連呼するなよ!」 「だって、バカだし」 「バカじゃなかったのか?」 「う゛っ」 「お二人とも、話がずれていますわ」
色々と悩んでくれている皆を、沙羅は微笑んで見つめる。 一生懸命に考えているその姿は、例え内容が何であれ、どことなく微笑ましい。 時々脱線するのはたまに傷だが、まぁ、それとてご愛嬌だ。 しかし、このまま待っていても埒が明かない。 そう思った沙羅はとうとう中断するように会話に割って入った。
「狂気」
端的に、短く一言。
「え?」
威力はあったようで、途端に目を見張るスタン達を見回し、更に言葉を加える。
「セシリスが過去に持っていた普通じゃないもの。それは【狂気】よ」
固まる皆に構わず、沙羅は続ける。
「狂気というのは、実はとても人を素直にするものなの」
漸く我に返ったスタン達だが、今度は【狂気】という言葉と【素直】という言葉が繋がらず、いっせいに首を傾げた。 【狂気】は自我を失い、人間らしからぬ諸々を行ってしまう事。色で表せば【黒】。 【素直】は純粋で真っ直ぐな事。色で表せば【白】。 全く正反対のような気がするが……?
「ふふふ。解らないって表情ね。ま、当然か」
皆の表情に納得しながら、説明を加える。 果たしてこの説明で解ってもらえるかどうか解らないけれど…と前置きをして。
「普通、人が生活してる時、例えどんな望みが心の内にあっても、それが【悪い】事だと自覚している場合、絶対に行動に移したりしないよね? どころか、気付かない振りをしたり、気付いていても奥深くに封印して隠し続けるよね? 理性や正気という名でもって。けど狂気っていうのは、それの逆。理性や正気を失う事によって、封印されていた全てが表面化する。深く昏い望みであればあるだけ、真っ先にしかも強力に。自我という枷が外れた事によって欲望に忠実になる。その事に躊躇いは微塵もない」
「何となく…解る気がするけど……」
説明を一区切りしたところで、ルーティが曖昧な相槌を打つ。 他のメンバーも解ったような解らないような、といった感じらしい。 沙羅の言葉を租借し、且つ広げていったウッドロウがまず口を開いた。
「つまり、仮にセシリス君が狂気に飲まれた場合、その深層心理において存在する【何か】が表面化する…という事かい? それは……」
ふと、何気なく思いついた単語を口にしてみる。
「憎しみ、とか……?」
皆が「えっ!?」という顔をしてウッドロウに注目する。 しかし、他の誰よりも、ウッドロウ自身が驚いていた。 何故【憎しみ】などと思ってしまったのか、自分でも良く解らなかった。 ただ…そう。ただ、それが一番しっくりくるような。そんな気が、した。 そして、沙羅はその結論に満足そうに頷く。
「そうよ。彼が持っていた昏い感情はまさしく、【憎しみ】。彼はね、だから恐れていたの。自分が狂ってしまったら、確実に【憎しみ】に基づく行動を起こしてしまうと知っていたから。しかもその対象は【国】と【平和】だった」 「国と平和って……」
スケールの大きさと、有り得ない対象に、思わず絶句する。 国はともかく、一体誰が【平和】をあえて憎んだりするだろう? 普通、それを歓迎こそすれ、厭うなど考えられない。
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