小説集
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2004年08月11日(水) :
 

 十三年振りに会った兄だった。そして憎悪の対象…。闇である自分に対し、光であるロルフ。
 「ボーマン少佐、お知り合い  ですか?」
 ロルフは銃をしまった。「ああ、私の弟だ」
 銃口を押し切ったデイブはロルフへと飛びかかり、やすやすと床に押し倒し首に手をかけた。周りの人間は、デイブのあまりの速さに驚き、銃を撃とうにもロルフに当たるのを恐れ撃つことが出来ない。
 ロルフはデイブを見つめた。弟が自分を殺そうとしているのはわかったが、別に恐怖はなかった。
 抵抗しないロルフを 眉間にしわを寄せ見つめながら手に力を込める。ロルフは苦しそうな顔をしたものの、手を振り払らおうとはせず、静かに目を閉じた。ロルフの一連の行動に デイブは首に手をかけたまま力を緩めた。
 何か言おうとしたが、言葉が出てこない。会ったら罵声を浴びせてやろうと思っていたのに。
 「デイブ その目…」
 正気に戻り、伸ばされたロルフの手を激しく振り払い後ろへ飛び退る。PSG-1とSOCOMを取り構えた。怒りに能力を抑えることができなくなり、髪が金髪へと変わっていき、そのデイブの気迫に銃を構えようとした者たちは 言葉を失い、動けないでいた。しかし、心臓に狙いを付けられながらも ロルフはデイブに近づくことを止めなかった。
 PSG-1より中に入り、微かに震えるSOCOMをよけると抱きしめる。
 「御免、そうだったんだ 御免!」
 「放 せぇ!」
 デイブが暴れるのを止め、おとなしくなるまで抱きしめる。しかしながら、紅い眼に浮かぶ闘志の色は失せてはいない。
 「知らなかった…なんで」
 デイブは唸った。こいつは何も知らないのか?
 「お前は 何もしらないのか?」
 「何が…?」
 再び憎悪が走る。自分だけ、この呪われた生で生きろというのか?
 自分たちがオットーのクローンであり、実験体であること。双子をわざと違う環境で暮らされた。人間と吸血鬼、光と闇。ロルフは貴族として育ってきた。俺は、戸籍すらない。アンジェルでも、イルバンでも、存在しないのだ。ロルフは自分-デイブ-の存在がどんなものかもしらないのだ。出生の秘密も、オットーの狂った実験も、戦争の理由も
 デイブはせせら笑った。自分が馬鹿らしかったのだ。何も知らないやつに殺意を抱いていたのかと。
 「知らないならいい。知らなけりゃ、それだけで済む。」
 ロルフの胸を押し返し離れる。
 「俺は知らなくていいと?」
 ロルフを見据える。「ああ」
 いきなりロルフはデイブを殴りつけた。ロルフからすれば、デイブ-弟-が知っていることは自分も知っていなければならないと思っているのだろう。ロルフにとってデイブは、双子の自分の分身だと考えているのだろうが、デイブにとってロルフはまったく関わりのない 別のモノだった。
 「人間は知らなくていいんだよ。俺とお前は違うんだ。」
 「何がだ!」
 「まだ死にたくはないだろう?」
 デイブの意図がわからず、ロルフは掴みかかった手を放した。
 「俺はこれからオットーのとことに行く。ああ、これは教えといてやる。俺たちの父親はラルフなんかじゃない。オットー・ルッツコフマンだ。俺もお前も化物の子供だ。
 オットーのところに行くまでに どれだけ吸血鬼を殺すかわからん。傷つき回復できないやつらが人間の血を求めてここに来る。俺はそいつらが侵入出来んように結界を張っていく。武器も弾薬も法儀してってやる」
 「何が言いたい」
 「人間は知らなくていい。自分の身は自分で守ってくれ」
 放した手でもう一度デイブを掴め、荒々しく揺さぶる。
 「何故だ 何故そうやって自分勝手なんだ!」
 揺さぶられながらもデイブはラルフを睨み 唸った。
 「黙れ!! 何も、何も知らない貴様には関係ないんだよ」
 ロルフの手に力がこもる。しかしデイブは続けた。
 「お前は俺を求めるが、俺とお前は別の人間だ。今までも これからも ずっとな。
 俺に関係があってもお前には関係ない。そうだろう?俺がどんな生き方をしていたか知っていながら 自分が欲しいときだけ求めて、後は無視してきたんだ。
 気にしないのは簡単だろう?」
 ロルフを嘲り笑い 手をよける。
 「こんなとこで時間を食ってる暇はないんだ。武器庫はどこだ?」




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