小説集
Past : Index : Will




2004年08月09日(月) : see1=デイビット・ボーマン
 

 ミハエルにミラーを渡しキャンプを出たデイブは装備を確認した。
後ろにつけたポーチに PSG-1用20連のマガジン10個にSOCOM用マガジン10個。弾はすべて法儀済銀弾。足りなくなれば現地調達すればいい。吸血鬼を殺すのは何も銀の弾だけではない。
 腰に付けられた6個の手榴弾も法儀済である。リュックや必要ない装備は置いてきた。左足につけたバックにはメディカル・ブラッド、ポケットにはラッキーズ、上等なブランデーの入ったヒップフラスコ……
 ため息をついて 目の前にある宮殿を見た。
 自分のせいで始まったこの争い。自分がオットーの元に戻れば済む話しではない。人間の方が許さないだろう。そしてミラーも…
 眠らせなければ無理にでもついて来ただろう。
 ついてこられれば、断れない…ミラーは…
 煙草を取り出し吸い始めた。最後の一服 ゆっくりとラッキーズを味わう
 生きて帰れるなど、そんな馬鹿なことは考えていない。心残りはミラーだけ…その気持ちを振り払うと立ち上がった。
 デイブが走り出すと風となる。人を殺す気はないし、無益な殺生はしたくない。ただ、自分の行き道を塞ぐ者あらば ためらわずに殺せる。戦争という行為に中でなら、人を殺すなど、何の感情-迷い-もなくやれる。そう体に染み込んでいる。

 前宮へつめる者たちは ただの人間だった。彼らにはデイブの姿は見えない。ただの風としかわからないのだ。
 今、この宮殿に華やかさとか優美さとかは無い。戦いの波がもうすぐ押し寄せようとしている中で、誰もが怯え 無口にさせていた。
 王宮警備隊の人間が、後宮へと続く扉を閉めようとしている。オットーは俺の存在に気付いているはずだ。閉まる寸前の扉に飛び込む。ここから先は、公爵やロイヤルガード以外は入ることを許されていない。つまり、ランクの高い吸血鬼がいるという事だ。見つからずに進むことは出来ないのだ。能力-ちから-を開放すると、空気がざわめく。見る間に髪が金髪へと変わり、牙が大きくなる。
 ガチャガチャと武器を鳴らし、吸血鬼の兵士たちがやってきた。

「…さっそく 手厚いお出迎え か」




 ランクの低い吸血鬼を相手にするのは簡単だ。銀の弾さえあれば確実に殺せる。しかも狭い廊下を30人が一気にやってきたのだ。20発の弾倉ひとつで片付いた。能力を使い必要もない。人間だって…いや、VHSOFsなら簡単に殺せてしまう。30人の生き物だった灰を巻き上げ廊下を進み、後宮への出口にたどり着くと、大量の弾が身体に打ち込まれ、肉を引きちぎっていく。
 原形を留めないほど弾を撃ち込むと、やっとのことで打ち方をやめた兵士たちは デイブの死体を囲んだ。
 「こいつは我々のお仲間なんだろ?なのに、何故灰にならないいだ…」
 ざわめきが広がる。吸血鬼が死ねば必ず灰になる。しかし、殺せといわれたこの男は、灰になる気配すら見せていない。
 何故?
 肉片が動いたかと思うと、コウモリへと変わり一人の兵士を襲った。次々と悲鳴が上がり、喰いちぎられたところを押さえる兵がいる。コウモリが融合し、狼へと変わるモノも出てきた。
 地獄が出来上がった。デイビット・ボーマンによる地獄が…
程なくして、姿を消した兵士たちの残ったモノには見向きもせず獣たちはデイビット・ボーマンへと戻っていく。
 周りを見回した。9年前と変わってはいない。見えている範囲の監視カメラを壊していく。ここには親衛隊別隊の人間がいるはすだ。吸血鬼たちが自分を殺すため力をつけようと人間を襲うだろう。そんな馬鹿らしいことはされたくない。人間は吸血鬼の餌ではない。我々吸血鬼が人間に寄生して生きているのだと言うのに…
 吸血鬼は人間の血を飲んで生を得る。何もかも人間以上の能力を持ってはいるが、人間に寄生することでしか生きられない。
 人間の気配がする方へ、城の奥に向かう。皇帝を護る親衛隊は3つの層に分かれ、ロイヤルガードは皇帝を護り、親衛隊はロイヤル・ファミリー 城の後宮に住む皇族を護る。人間が入る前宮は別隊が。別隊は中と外の橋渡しなのだ。
 ロイヤル・ファミリーのいるエリアの近くの別隊の詰め所では、なにやらバタバタと忙しそうに動き回る足音がする。デイブはその部屋のドアを開けると、中にいた10人がいっせいに銃口を向けた。誰もが何日も寝ておらず、ボロボロの状態で戸口に立ったデイブを狙っている。手に持ったPSG-1とSOCOMを床に投げ、両手をあげて敵意がないことを示し一歩中に入る。と、周りを囲まれ扉が閉められた。
 「アンジェルの人間が何の用だ」
 口を開いた男が銃口をわき腹に押し付ける。口を開こうとしたとき、後ろにいた男が口を開いた。
 「デイブ か?」
 沢山の銃口が押し付けられるのを感じながら後ろを見た。
 「…ロルフ!!」
 




Past : Index : Will



Photo : Festina lente
Design : 素材らしきもの の館